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もう恋なんてしない

アプリを始めて13人目に面接した漱石さん。

第一印象は、背、高いなぁ。

近くで見ると、マスクから覗く目が優しかった。


改札口で待ち合わせしていたので、そのまま予約してくれていたイタリアンのお店へ。

特に話すことなく、並んで歩いていった。


途中、エスカレーターがあった。

漱石さんは立ち止まり、私を先にエスカレーターに促した。

つまり、レディファースト。

エレベーターでもそう。扉が開くと、ボタンを押して私を先に乗せた。

当然お店に着いても、席へ案内されても、常に私を先に行くように促してくれた。


すごく違和感だった。
だって、そんなことする男性今までいなかったから。

普通にガンガン私の前を進んで、それについていくだけだったから。
夫さんなんて、私の歩くスピード気にしないし、遅れてることにも気づいてない程。

それに慣れすぎてるので、あまりに自然な漱石さんのレディファーストには驚いた。




お店についた。
中に入ると、ちょっと恐縮するほど素敵すぎた。

ランチだけど、コースしかない。

値段に躊躇してると、

「僕はこれにするけど、一緒でいい?」


前菜が運ばれてきて、

「あぁ、これならお酒欲しいよね。何かたのもう。僕はこの後仕事だから飲めないけど、気にしないで飲んで。何がいい?」

「あ、いえ私も大丈夫です。」

「ごめんごめん、確かにそう言われると飲みにくいよね。」

そう言って、メニューを手にとり、なぜかすぐに手をあげお店の人を呼んだ。

「僕はノンアルコールのビール。で、彼女は、、」
私の方をみながら
「ワイン?ビール?」と聞いてきた。

店員さんも顔をあげて、私を見る。
「え、じゃあ、ビールで。」


な、なんなんですか? この人のスマート感。
さりげない優しさで溢れてる。
とにかく驚いた。


マスクを外した顔は、特に可もなく不可もなくだが見た目なんてどうでもいい。
こんな紳士に今まで出逢ったことないから、なんか圧倒されてしまった。

食事が美味しかったかどうかなんて覚えてない。
ただ覚えてるのは、この一連のスマートな仕草と、席について改めて初めましての自己紹介。

なんと彼は第一声で自分の本名と勤め先を話したのだ。

今まで、12名面接してきたけど、誰一人本名は知らない。別に知りたいとも思わなかったけど。
半年ほどつきあってたセフレさんも、さすがに下の名前はお互いに知ってるけど名字はお互いに知らない。

ネットで知り合って遊ぶだけなんだから、むしろそれが常識と思ってた。私自身が知られたくなかったしね。お互いの保身の為。

だから、漱石さんがいきなり身バレさせたことに驚いたし、そうなると、私も名前言うしかなかった。


そして、初対面なのにこんな素敵なお店で恐縮してますと私が言うと、

「いや、仮に万が一、僕達が付き合うことになったら、今日が初デートになるわけだから。
記念になるデートがショボい店やったら嫌でしょ?」

と微笑んだ。

「あ、いや、違う。ごめん。別にプレッシャーかけてるわけじゃないから。
もちろん僕は君とまた逢いたいけど、全然気にせず断ってくれていいからね。」


え、マジこの人やばい(←悪い意味ではなく)
とひきつったことを覚えてる。



ただ、この人ともう一度逢ってみようと思った理由は、実は、この一連の紳士感ではない。

この初対面の時に感じた違和感のもうひとつ、彼が言う『ボク』だった。


「嬉しいけど、なんで僕が面接に受かったのか不思議だよ。」と聞かれた時、

私がいままでおつきあいしてきた男性も、アプリで面接した男性陣も、前の夫も今の夫も息子達も、みーんな「オレ」
それに対して、物腰が柔らかくて、言葉遣いが丁寧で標準語を話す漱石さん。(ここは大阪)
ましてや、自分のことを「ボク」と言う。
そんな男性が一体どんなセックスをするのか知りたくなった。

とは答えられるわけもなく、

「んー、直感かな?」

と可愛らしく首をかしげておいた。





3年たった今も、漱石さんの印象はこの日と変わらない。

相変わらず、やることなすことスマートで、さりげない優しさに溢れててとても紳士な人。






実は1度目の結婚が破綻したきっかけは、私の不貞行為だった。

今とは全然違ってて、不倫なんてありえない。あくまでもドラマや小説での出来事。ましてや自分が不倫するなんて想像もしてなかった。

夫婦関係がどうこうとか、家庭に不満がとか、そんなこと一切関係なく、
ただシンプルに何の前ぶれもなく、ストンと恋に落ちただけ。

あろうことか、35歳にして初めて『一目惚れ』というのに遭遇してしまっただけ。


まさに、『恋は魔法』だ。
完全にその媚薬に取り憑かれてしまった。

いわゆる脳のバグだ。
理性がぶっとび、人生を狂わせた。

お互いに既婚者だったから、結果、とても多くの人を泣かせ、傷つけどん底に突き落とし、私達2人どころか、みんなの人生を狂わせた。





前回あれだけの大事になったのに懲りない私。

いや、確かに怖い。
だってバレたらどうなるかを経験してるから。

でも逆に、経験してるからこそ、やはり他の人よりはハードルが低いのかもしれない。


前回は恋心に舞い上がりすぎた。
確かに、恋心は人生を豊かにしてくれる。

でも、もう恋はしないって決めてる。

自分が自分じゃなくなる恋はもうしない。


だから、ときめきかけたセフレさんとは、逢わないことにしたわけだし。

とにかく、中途半端に悩むのならもうやらない。

あくまでも、今回の浮気は、女性としての自己肯定感というお守り。

漱石さんがいるだけで解決する問題がたくさんある。彼に触れてもらう、大切にしてもらうことで、ずいぶん心のトゲトゲが丸くなることを知った。


別に、漱石さんと人生をリスタートしたいわけではない。

本気ではない。
 
あくまでも、お互いの日常が中心。

なんとかして時間を作るのではなく、お互いに都合のいい時に、余裕をもって楽しむ。


感情が先行して動かないからこそ、スイッチの切り替えがうまくできる。

それは経験値からなのか、年齢からなのか。

年齢といえば、お互い、お互いのパートナーとは、もう男と女を卒業してるから、要するに裏切り感というか、罪悪感も少ない。

だからきっと、尚更、タチが悪いのかもしれない。






漱石さんに、私の第一印象を聞いてみた。

「えー!そりゃもう、僕は一目惚れだから。
顔も声もしゃべり方も、全部好みすぎて、緊張して、ろくに話せなかったよ。」


あぁもー、模範解答すぎて、泣ける。

やっぱり漱石さんは、パーフェクト♡

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