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30. 盗聴器発見
「その金曜日の夜は気をつけてください以外に、一体、その手紙には、なんて書いてあったん?
というか、そもそも誰から来たん?」
夫は、手紙の内容らしきものをいくつか読み上げた。
差出人は『前彼1号』
つまり、私には複数の彼氏がいて、その内のひとりの彼氏が私にフラれた腹いせに私の悪事をばらしたみたいな内容。
それを聞いて、少しホッとした。
なぜなら、身に覚えのないことばかりだったから。
私がブランド物を買い漁ってるとか、子供の習い事のコーチともつきあってるとか、なんとかかんとか。
「え、ちょっと待ってよ、りょうちゃん。
ほんまにそんなこと本気にしたん?
そんな内容信じるなんて、、そのことにびっくりやわ。」
ホントにびっくりしすぎて、笑いそうになった。
なんでそうなるん?
私の安堵した様子が伝わったのか、
「ほんまにこれは、全部嘘やねんな?」
夫の口調が、少し早くなった。
「そんなこと聞く方がおかしない?
私に対して失礼やし。」
電話越しに夫の吐く息が聞こえた。
いらっとしたのだろう。
あくまでも、強気な私に。
でも、デタラメとはいえ、なんでそんな内容になったのか、必死で考えていた。
もちろん、一体誰からなのかも。
全く、身に覚えがない。
ただ、たった1つだけ本当のことが書いてある。
それは、蓮のこと。
なんで?
どういうことなんやろう……。
「実はな、その封筒にはな、CDRが入っててん。」
は? 今度は一体なんやねん…。
無言で、夫の言葉を待った。
「おまえさ、ほんまに心当たりないか?
たぶん、おまえストーキングされてるんちゃうかと思うねん。」
「は? なんで、そうなるん?」
「そのCDRに、おまえの写真と、音声ファイルが入ってた。」
はぁ???
「たぶん、おまえ、盗聴されてると思う。」
あまりにも、突拍子もないことを言い出すもんだから、全く頭が追い付かず言葉を失った。
◆
夫に尾行された。
この事実だけで、十分パニックだ。
なのに、夫に届いたという手紙、盗聴、盗撮、そして、ストーキング…?
あまりにも非日常的な言葉達に、何をどう考えればいいのか、見当もつかなかった。
とりあえず、電話では状況が分からない。
直接その手紙とCDRとやらを見せてほしいと頼み、夫の帰りを待つことにした。
この時点での私はまだ冷静だった。
いや、パニックではあるが、あまりに非日常的な言葉に頭が埋め尽くされていて、
肝心の『自分自身の不定行為がバレてる』という認識がすっぽり抜け落ちていた。
夫が帰宅するまでの間、仲のいいブロ友さん達と連絡をとっていた。
私以上に冷静な友人達は、断言する。
夫が言う手紙を、第3者の人が送ってきたなんてあり得ないと。
なぜなら、私に蓮以外の彼氏なんて存在しないし、100歩譲って、ストーカーの類いだとして、、では、どうやって夫の事務所の住所がわかったんだ?
『全部、あこちゃんを吐かせる為のハッタリ。
だから、とにかく冷静に。
あこちゃんからは、何も余計な事を絶対言ってはいけないよ!!』
だから、その後、夫が帰ってきて、おもむろに部屋の中をうろうろしだしたところで、動揺もしなかったし、むしろ、私は冷めた目でその様子を眺めていた。
しばらくして、夫は鞄の中からトランシーバーみたいな機械をとりだして、リビングの中で、手を伸ばして、ゆっくりそれを動かしだした。
よくわからないけど、仕事の関係で借りてきたとかなんとか。
キーというか、ガーというか、奇妙な音が大きくなったり小さくなったり。
「盗聴器って電源がいるこら、こういうとこに、あるらしいで」
そう言って、キッチンの横についているコンセントカバーをマイナスドライバーで、ポコっとはずした。
え?
私は、カバーが簡単に外れたことに驚いたし、その中のむき出しのコンセントと空洞にびっくりした。
「んー。違うかぁ…」
そう言って夫は、今度は電話台の横にあるコンセントカバーを再び手慣れた様子で簡単に外した。
「ほら、やっぱり!」
え? えぇぇ!!
目の前に現れた黒い物体に、心底驚いた。
夫のいうとおり、本当に盗聴器は、そこに存在した。
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