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7. 所詮、W不倫なので
何も変わらない
帰宅してからシャワーを浴びた。
全裸の自分をまじまじと鏡で見た。
どこも変わってない。
そらそうか。
でも、やっぱりなんか違う気がして、すぐに鏡の前から離れた。
翌朝、夫が出張先から帰ってきた。
体中に緊張が走る。
「おかえりなさい」
硬い声で出迎えた。
「うん」
私をちらっと見ただけで、前を素通りしリビングに入っていった。
気づかないんだ…。
…当たり前か。
不思議なことに、少しがっかりした自分がいた。
夫はすぐにまた仕事に戻ったので、午後からはママ友と子供達とで大型ショッピングモールへ行った。
ママ友に逢った瞬間、やっぱり少し緊張した。
何かに気づかれるんじゃないかって。
そんなわけないのに。
そっか。
見た目は何も変わらないのか。
じゃあ、一体、何が変わったのだろう。
私は何に怯えてるのだろう。
そこに、蓮から電話がかかってきた。
友人に子供達をお願いして、少し離れた場所に移動した。
「あこさん、何してるん?
あこさん、大丈夫?後悔してない?」
「うん大丈夫。でもなんかちょっとびっくり。こんな簡単なことなんだというか…」
「そうやで!あこさんは難しく考えすぎんねん。もう真面目やんねんからぁ」と蓮は笑った。
ん?
その瞬間、私はイラッとした。
その笑い方にイラッとしたのか、真面目だと笑われたことにイラッとしたのかは覚えていない。
けど、なんていうか、、やっぱり「違う」とこの時も思った。
蓮は嬉しそうに話を続けた。
「ずっとあこさんと一緒にいたい」
とりあえず、目的を達成したら(1回寝たら)捨てられるかも…という不安は、当たらなかったようだ。
来週の月曜日、奥さんに内緒の有給休暇とってるらしい。
「あこさん、予定空けれる?昼間にデートしよ!」
いつも闇に隠れてこそこそ逢ってたから、昼間にデートなんてふたりにとって初めてのことだった。
昼間のデート
蓮はバイク通勤をしている。
毎朝8時前に家を出るらしい。
だから、その日もいつもの出勤時間に家を出る。当然、バイクで。
よって、私が車を出すことになった。
なぜか毛布かタオルケットを持ってくるように頼まれた。
朝の9時頃に指定された場所へ。
でも、蓮はいない。
あれ~?っと運転席でキョロキョロしてたら、突然、後部座席のドアを誰かがノック。蓮だったので慌てて鍵を開けた。
私、唖然。
「どっから出てきたん?」
と振り向くと、蓮はそのまま後部座席に寝転び、私が持ってきた毛布をかぶってた。
私、さらに、唖然。
「このまま、そこを右に曲がってまっすぐ行って!あ、おはよう。」
「う、うん。」
「あかりさんの車、窓が大きいやん?意外に車の中って外からよく見えるから。とりあえず、ここらへんから離れよう。」
「う、うん。わかった。」
あまりの警戒心とその用意周到さに驚いた。
一応、私達の生活圏から離れた場所で運転を交代した。
そのまま蓮が向かった先はラブホテル。
げ。
しかも私の車で入らないでよ…。
でも、さすがにもう断れない。
促されて車を降りた。
私の車のナンバープレートに板を立て掛ける蓮。
かわいそうな私の車…。
とぼとぼ、蓮の後に………って、歩くの早っ!
あわてて、あとを追いかけたけど、追いつかなくて、結果、別々にホテルに入ったみたいになった。
エレベーターの中で(開)を押しながら蓮は待っていた。私は急いで乗り込んだ。
扉がしまった途端
「逢いたかった」
抱き寄せられて口を塞がれた。
ラブホテルなんて、結婚前以来だから13年ぶり位。いろいろなんか落ち着かない。
だいたい、朝一からの蓮の完璧な不倫の偽装工作的な行動にも驚きだし、世間は仕事始めの月曜日。
さあ、今から働こう!って時間からラブホテル?
どうなってるんだ。
まぁ、これが不倫ってやつか…。
やっぱり、気持ちが追いつかないまま蓮を受け入れ、
やっぱり、冷静なまま蓮が終わるのを待った。
「じゃあ、次は堀江行こう!」
ゆっくりすることなく、さっさと会計をすませ、次の目的地へ。
車を停めるパーキング、歩くコース、お昼ごはん、寄るお店のすべてを蓮は決めてきていた。この日のデートプランを完璧に立てて来たらしい。
そして、まるで学校の遠足のように、着々と予定どおりにコースをまわった。
蓮はとても嬉しそうに、めっちゃしゃべってた。私が落ち着かないことにも気づいていない。
楽しくなかったわけじゃない。
でも、車に戻ってきた時点で、私はぐったり疲れていた。
肉体的ではなく、精神的に。
「あこさん、まだ夕方まで時間あるから、ちょっとだけカラオケも行かない?」
「ごめん、よく考えたら今日夕方用事あること思い出した。ごめんねぇ…」
見え透いた嘘に気付く様子もなく、
「じゃあ、また今度やね!」
とっても嬉しそうに言うから、
「うん、楽しみにしとく!」
とまた、嘘をついてしまった。
生活圏が近づいてきた所で運転を代わり、蓮はまた後部座席で毛布をかぶった。
なんだかなぁ……。
最初に待ち合わせた場所で蓮を降ろした。
まるで、忍者のように彼は消えていった。
……なんだかなぁ。
もう一度いう。
楽しくなかったわけではない。
いやむしろ楽しかったしドキドキした。
色んな意味で。
蓮が、一生懸命、自分の好きな場所、好きなモノ、好きなコトをひとつでも多く私と共有しようとしてくれたことも伝わった。
でもなにしろ、初めてのW不倫なもんで、真っ昼間に堂々と街中を歩くことがとても不安だったし怖かった。
「あこさん!すっごい楽しかった!幸せやった!もっともっと色んなとこ行こうな!今日はほんまにありがとう!」
それが嘘には聞こえなかったし、楽しんでもらえたならよかった。
でも、、私はもういいかな、昼間のデートは。
蓮とは暗闇に紛れてこそこそ逢うだけで十分かな。
それが、私の感想。
もちろん、口にはしないけど。
◆
その日の夜のこと。
夕食中、ふいに夫が聞いてきた。
「そういえば、おまえ今日何処行ってたん?3時頃、車で走ってたん見たで。」
「え?あ、あぁ、買い物の帰りかなぁ。」
口から心臓が出るかと思った。
3時頃3時頃3時頃…脳ミソフル回転でどこらへんを走ってたのか考えた。
「へぇ、どこらへんで?」
声が震えないように返すのに必死。
「ほら、津久野らへん、2車線になってるやん。見たことある車や思って追い越したらおまえやった。」
「そうなんやぁ…。ほら!ちゃんと見な、こぼしてるで!」
たいしてこぼしてもいない末っ子の首元をタオルでふいて、ごまかした。
3時頃、後部座席の毛布の下には蓮がいた。
さ、さすがです、蓮君。
改めて、昼間のデートは2度としない。
そう心に決めた。