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29. 妻を尾行した理由

翌朝、私は夫の事務所へ向かった。

駐車場や付近をまわったが、昨夜の車は見当たらない。

どこやろ……

あ、そういえば!

思いたって、今度は、別居中に夫が借りていたマンションにいってみた。

自宅に戻ってきたけど、まだ契約したままと聞いていたから。

裏手に回って、駐車場の中を……


あった!!

紺色のミニバン!

すぐに、ナンバープレートを確認。

ビンゴ!

私はそれを、写真にとり、自宅へ戻った。


これで、昨夜の尾行は夫で間違いない。

夫に連絡は取らず、またブログを更新した。

『なんで夫は私を尾行したのか?』


(やっぱりこの前の怪しいブログは、旦那さんなんじゃない?)

という、ブログがバレた説。

(蓮の方で奥さんにバレたのではないか?)

そして、まずは私の夫に連絡をしてきて、夫は信じられないので私を試してみた説。

などなど、色んな考察でコメント欄は大盛況だった。



一方、夫はそのやりとりもすべて見ていたのだろう。

私が車を見つけたことをブログで確認した夫は、もう出張のふりをするのをやめたようだ。

ようやくお昼すぎ、私の携帯に電話をかけてきた。

もう昨夜の震えた夫ではない。

いつもの自信に溢れた堂々とした夫。

でも、何も証拠をつかまれていない私もまだ強気。

「やっぱり昨日の夜尾行してたのは、Nさんとあなただよね?さっき、その車見つけたけど。」

「うん。」

「なんで?どういうことなん?」

「おまえさ、なんか俺に隠してることないか?」

……。

「ゆうべは、一体、誰に逢いに行ったん?」

「何言うてるん?
TSUTAYAにレンタル返しに行っただけやん。

そもそも、家出る時から、すぐになんかおかしいって気づいてん。
案の定、走り出してすぐに尾行されてるってわかったわ。
だから、怖くなってウロウロしただけやけど。」

「いや、それはないわ。

なんでおまえ、あんな道知ってたん?
しかも、何の躊躇もなくすいすい裏道入っていったよな?
なんでそんなにあそこらへんの地理詳しいの?」

「怖いからあてずっぽうで、逃げてただけやん!」

「ホンマに怖かったら、すぐ家帰るか交番行くやろ。」

「いやいや、そこちゃうやん? 

なんでりょうちゃん、出張行くって嘘ついて、私を試すようなことしたん?
たとえ夫婦でも、やっていいことと悪いことあるよね?」

しばらくの沈黙のあと、夫の口から出た言葉は予想外どころか想像を遥かに越えてきた。






「実はな、木曜日に、事務所に封筒が届いてん。」

夫は、ゆっくり間をとった。

「おまえの不倫相手から。」

「は?なに言うてん?」

間髪いれずに聞き返す私。


「ほんまに心当たりないか?」

更にゆっくり、変わらぬトーンで夫はたたみこんできた。

「心当たりもなにも、一体なんて書いてあったん?

というより、そしたら、なんで木曜日に私に見せへんかったん?」

どこからくる強気なのか分からないけど、私自身も全く動じなかった。

というより、ホントに一体この人は何を言い出したんだ?という驚きの方が強かった。


「いや、金曜日の夜は注意してくださいって書いてあったから、ホンマかどうか確かめたかった。」

「はぁ? だからって、普通、尾行する?

出張って嘘までついて。

私より、そんな意味わからん手紙を信用するなんて、ほんま信じられへん。

ありえへんねんけど!」

さらに強い口調で言い返したものの、金曜日ってワードに心臓が跳び跳ねた。

とにかく、まくしたてて、言い返すことしか、動揺を隠す方法がなかった。



電話でよかった。
まばたきがとまらない。
必死で考える。

とにかく、まずい状況なのは間違いない。

手紙?だれが?

いやいや、私を尾行したってことは、逆にいえば、私と蓮の確実な証拠がないということでは?

そしてこれは、夫お得意のハッタリでは?

手紙なんて嘘だろう。
そもそも、出張に行くって聞いたのはもっと前。昨日手紙が来たから尾行したってのは嘘だ!

絶対に、揚げ足をとられてはいけない。

余計なことを言ってはいけない。


まずは、状況を確認しないと。


目まぐるしく、いろんな答えを頭の中で考えた。


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