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連続小説「アディクション」(ノート38)

ギャンブル依存症から立ち上がる

この物語は、私の誇張された実体験を基に妄想的に作られたフィクションですので、登場する人物、団体等は全て架空のものでございます。

「握手会」〉

こちら、正力クリニックは2017年の12月を迎えており、クリスマスイベントの「料理対決」を控えているのですが、その前の「秋の文化祭」で、我がアディクショングループは、ダンス対決において乃木坂46の「制服のマネキン」を踊りきり、昨年の「疑惑の審査」のリベンジを果たし、見事優勝しておりました。

で、私と迫丸さんと根市君と加茂川君で

「これは、乃木坂さんに御礼をしなければならん。」ということで、今度の日曜日に、丁度幕張メッセで「全国握手会」が開催されるので皆で行こう!ということに相成りました。

さてこの「全国握手会」なんですが、こちらは単価1700円程の乃木坂46の「限定版」というCDとMVを始めとする特典映像のDVDの2枚組のものを購入すると、その中にランダムで乃木坂46のメンバー一人の生写真とともに「全国握手会握手券」というものが1枚入っていて、全国握手会会場の幕張メッセでそれを持参すると、握手券一枚につき、メンバー1人又は2人と握手できることができます、とだけ説明しておきます。

皆さんそれぞれお気に入りがあるようで、さらにこの「限定版」はタイプが4種類あり、まぁカップリング曲とかDVDの映像の違いとかがあるのですが、だいたいファンの方々はこの4種類を揃えるというか、超熱狂的な方は一人で1000枚とか買ったりします。

「1000枚って170万じゃねえか」

「淡河さん、注ぎ込む人は注ぎ込むんですよ。」

「そんなものに、気が知れねえなあ」

「その人からすると、ギャンブルに注ぎ込む人の気がしれないってことになってしまいますよ。」

「俺は競馬でも1万5千しか注ぎ込まん。いや、こないだは1万8千か」

「相変わらず、やってるんですね」

「いやいや、ギャンブル嫌いだから」

とまあ、いつものようにさわやかなウソをつくのはお約束として、確かに100万単位でCDを買う者は実在します。

ちなみに、この「握手券」で一人のアイドルと握手してお話しできるのは約2、3秒くらいですので、せいぜい「頑張ってくたさい」とか「応援してます」くらいの声掛けくらいしかできないのが現実です。そこで、こうして「大量購入」して複数枚の「まとめ出し」をして、長めに話しをする時間を取ろうとするファンもいます。まぁ1000枚✕2秒で2000秒だと、30分以上にもなるので、そういう人にはスタッフが交渉に出て時間はある程度短縮されることになるのですが。

で、我々は可愛らしく一人1枚ずつ持って参戦することとなっております。

そして、当日、幕張メッセに向かうべく、海浜幕張駅のロータリー前に集合ということで、私が途中でトイレ下車した関係で最後に来たのですが

「魚さん、何で来てるんですか?」

「握手会だからでしょ?」

「ん?こいつは『屑星さんに誘われた』と言ってたぞ」

迫丸さんが怪訝な表情をしていたので、今から揉めるのも面倒臭いから

「あ、そうでした」

と、誤魔化し総勢5名での参戦ということになりました。

案の定、握手会会場の幕張メッセは恐ろしい行列が出来ていて、

「これは、中の会場にいつ入れるんですかね?皆んな大丈夫ですか?」

「僕はまいやんをひと目見るために今まで頑張ってきました。ダンス踊れるよと言って褒めてもらいたいです。」

「ほう、根市君、そんなに好きか」

「僕もなーちゃんにどうしても会って、あのはにかんだ笑顔を見たいです」

「加茂川君は七瀬派か」

「実は俺、かずみん好きなんすよ」

「へー、迫丸さん意外ですね。」

「僕は石原さとみ命です」

「魚さん、これからどこに行くのかわかっているか?」

などと会話をしていると、何か列の数メートル先に、見覚えある人がいると思ったら、才所さんと金島さんでした。

「まぁ、あの人たちなりに楽しみたいんだろうから、声は掛けないでおこう。」

「そうですね。迫丸さんのおっしゃるとおり、そっとしときましょう。魚さんもお願いしますよ。」

「わかりました」

わかっていませんでした。

とっとと、二人の方に駆け寄って声を掛け、さらに我々がいることをご丁寧に伝えたらしく、二人は手招きして我々を呼び寄せました。

迫丸さんが、魚さんにウエスタンラリアートを食らわせようとするのを、金島さんがマアマアと制止しながら、

「せっかくだから、今日はオフレコで皆で楽しみましょう。」

「なんかすみませんね。ところで金島さんはオシメンいるんですか?」

「僕は断然いくちゃんです。」

「あー、そうなんですね。才所さんは?」

「僕はまなったんです。」

前者は生田絵梨花、後者は秋元真夏で、さっき言ってた根市君のオシメンは白石麻衣、加茂川君は西野七瀬、迫丸さんは高山一実。そして私は生駒里奈さんということで見事に分かれています。まぁメンバーは40人以上いますからね。

「で、魚さんは、誰のところに並ぶんですか?」

「わかりません。私のようなふつつか者と結婚してくださる方ならどなたでも」

「ここは、お見合いパーティーの会場ではないんですよ」

「え、違うの?」

「てか、握手券もってますか?」

「なにそれ」

「まぁ、中でもCD売ってるから買えますけど。1700円しますが。」

「高いな」

「あおたんに、いくら払った?」

「2万」

「どうします?帰ります?」

「帰りたくはない。」

「握手だけだからね。手を握るだけで手コキはないんだからね。もし、握手会場で立派なもの出したら、『わかってませんでした』では済みませんよ。」

と、私が魚さんに色々な警鐘を鳴らしていると、

「あ、魚さんは僕と一緒に並ばせます。あと握手券は1枚魚さんにあげます」

と、才所さんが「スタッフの責任感」で引き取ることにしました。

それにしても、依存症者の集団がアイドルと握手をしに行くという行動を、一歩引いた目で見るとかなり異様な光景だよなあとも、そして乃木坂46の皆さんは、我々がどういう素性の人間とも知らずに笑顔で握手してくれる。

まぁ薄々そんなような「ヤバい」とされている輩も多少はこの長蛇の列に混じっているのもご承知だろうなとかごちゃごちゃ考えながら長時間並ぶのでした。

さて、2時間ほど経過し、ようやく会場内に入り、荷物チェックなどを終え、今度はそれぞれお気に入りのメンバーの列に並びます。予め戻ってくる集合場所を決めて、それぞれが「レーン」に散りました。

「根市君や加茂川君は超人気メンバーだからここからまた2時間くらい並ぶのかな?」

「たぶんもっとかかると思います。」

「じゃあ、気長に待つということで」

私は、文化祭のダンスの参考がてら、前年に欅坂46の平手友梨奈さんを見て衝撃を受け、さらにこの年、乃木坂46の動画を見始めて、こちらのグループにも興味を持ち追っかけてきたら、生駒里奈さんという人が私の興味を強く引いたのでした。この人のある言葉が、私の今後の人生に向けて背中を押してくれることとなります。

で、握手会終了。

まぁ、「応援してます」くらいしか言えませんが、笑顔でお会いできただけでも長時間並んだ甲斐がありました。

集合場所には私が一番最初に戻ってきて、次いで迫丸さんがきて

「かずみん最高だあ。明日からも頑張れるう。」

かなり満足した表情で戻ってきました。

そして数分後、才所さんと魚さんが

「『ずっきゅん』された時に本当に倒れて、起き上がって『結婚してください』なんてよくできましたね。」

「なんか、時間取ってくれたみたいね」

「いやいや、ハガシがドン引きしてて固まってただけですよ。しかしハガシを固めるというのがスゴい。」

「でも、結婚の約束できて、連絡先聞こうとしたら帰されたのはオカシイです」

「はい、それ以上やると警察呼ばれてましたからね。おかげで私は握手だけで『ずっきゅん』もありませんてした。」

魚さん、乃木坂に爪痕残す。

次いで金島さんが戻ってきて、やはり満足度120%で

「仕事頑張るぞ。腕立て増やそう」

皆さん不思議な力をもらっていますw

それから1時間後、加茂川君が

「生きててよかったー。なぁちゃん最高だー。『会えて嬉しいです』と言ったら『私も嬉しいよ』って言ってくれた」

(まぁ、そう言うわな。)

しかし、そんな分かりきった返答でも、めちゃめちゃ嬉しく、一生の宝になるんですね。乃木坂46の皆さんはおそらく、ファンの色んな思いを分かってくれて、短時間ながら最高の「おもてなし」をしてくださるのでしょう。

さらにさらに1時間後、根市君がエベレスト登頂か南極点に到達して帰ってきた時のような表情で、しかも涙を浮かべ

「ただいま、生還しました。もう僕は死んでもいいです。『マネキン踊れます』と言ったら『スゴいカッコイイ』と言ってくれました。」

白石さんは、きっと心も豊かな方なんだろうなと、つくづく思いつつ、皆で根市君によかったよかったと労いました。

年が明けると私は社会復帰に本格的に取り組みます。このクリニックの皆さんとこういう楽しいひとときも過ごせたんだな、とたまに振り返ることもあります。

今回はここまでとします

GOOD LUCK 陽はまた昇る
くずぼしいってつ












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