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第三の選択

 議論して相手の説を破ること、言い負かすことを「論破」と言いますが、最近では、元大阪市長の橋下徹氏、2チャンネル創始者・ひろゆき氏が「論破王」と呼ばれているそうです。

 A案とB案があり、どちらか一つ選ばないといけないというのが「西洋型」の議論です。一方で、「日本型」の議論は、A案の支持者、B案の支持者がそれぞれ、議論に議論を尽くし、最終的には、武士階級なら家老が、庶民階級なら、村の「老」が最終的な判断を下すものです。A案とB案でギリギリの落としどころを決めて両方を説得します。

 A案はA´案、B案はB´案になるかもしれませんが、全員が納得する案に修正します。そして「長」が決定を下したら、その案がたとえ不服でも、従うのが日本人だったのです。

 博多祇園山笠では、約束事の確認や物事のけじめをつける時に博多「手一本」が行われます。「手一本」は「後日、異議はありません」の約束となり、この「手一本」でその場はお開きとなり。そのため、博多で「手一本」の後に異論を唱えることは不作法とされているのです。だからこそ、議論を尽くし、知恵者で人格者である「長」の判断を仰ぐのです。
 
 関ヶ原の合戦の折、戦国武将・真田正幸は、長男・信之を「東軍」に次男・信繁を「西軍」にそれぞれ就かせました。真田家を残すということで、A案でもなくB案でもない、C案を採用したのです。真田家の家訓は、「死ぬまで全力で生きよ」「現実との折り合いをつけよ」だそうです。

 大学や企業の研究所では、予算のつかなくなった研究を研究員が就業時間後や休日を返上し、資金提供先を募り、何年もかけて完成させた話を聞いたことがあります。

 「西洋式」議論の、「二者択一」は、あるテーマの「賛成」か「反対」かの議論にすり替えられます。そこで登場するのが「論破王」です。ちょとでも相手の理論の整合性がないとぐうの音が出ないほど攻撃します。「なぜですか」「証拠はあるんですか」「被害者が出たらどうするんですか」が彼らの常套句です。

 政治も経済も経営もやってみなければならないことがほとんど、100%と言っていいほどです。決断にリスクは伴います。リスクに配慮するのが政治です。相手を打ち負かし、相手の人格さえ否定しても何も生まれません。思考停止状態になります。日本という国はなくなり、国民は外国人の奴隷となり、会社は乗っ取られるか潰されてしまうのです。

 スーパーマーケットでは、昔から、「安売り」か「こだわり」か、「二者択一」を経営者に迫ります。かつてスーパーマーケットは、青果店、鮮魚店、精肉店、惣菜店、乾物店など業種店からお客を奪い発展してきました。業種店が一通りなくなると、スーパーマーケット同士のお客の奪い合いが始まります。競争に敗れて潰れる企業も出てきました。

 そのころから、スーパーマーケットも儲からなくなり始めたのです。そこで、共同仕入れなどグループ化して、調和を乱す者を締め出す手に出ます。特に「安売り」排除の動きがありました。「喉元を掻き切る戦い(カットスロート)まだ続けるつもりですか?」「ブルーオーシャン」などの言葉が流行りました。

 自分たちが儲かるために“高売り”する似非「こだわり」が増えたのです。そして、現在、これら似非「こだわり」が、ディスカウントストアやドラッグストアの格好のターゲットとなり、業績を落とし続けています。

 30年前、「安売り」していた企業の一部は、借金がたくさんあったから、資金がなかったから、人材がいなかったから、「安売り」しか手段がなかったのです。「二者択一」ではなく、選択の余地がなかったのです。借金を返すには、お客の信用を得る必要があります。だから安く売るのです。資金がないから「早く仕入れて早く売る」しかありません。そのため通路にまで商品を並べます。資金がないから壁は商品を積み上げ、壁の汚れを隠す、倉庫もないから、通路と店頭に商品を並べたのです。
人をたくさん雇うことも育てることもできなかったので、仕入れた商品を丸のまま、ブロックのまま売場に出したのです。それがかえって「安さの証」となり評判になりました。

 あれから30年、我々も500坪の店舗と200台の駐車場、そして80人のスタッフの陣容を得ることができました。そして「第三の選択」ができるようになったのです。「第三の選択」とは、「安さ」と「本物」をアウフヘーベン(止揚:対立する考え方や物事からより高い次元の答えを導き出す)させることです。「安さ」とは、価格がお客の基準となっている商品(アンカー商品)を徹底的に安く売ること、「本物」とは、もう一度買いたい品質、鮮度、味の商品のことです。「本物」と「こだわり」は異なります。「本物」は消費者の客観評価、「こだわり」は生産者の自己評価です。

 1980年に亡くなった大平正芳総理は、「両立の難しいことを二つの円にたとえ、一つの楕円にする努力というものをやらなければならない」と言いました。有名な「楕円理論」です。リーダーはかくあるべきです。

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