スーパーマーケットはぐれ鳥
「俯瞰(ふかん)」して見るとは、物ごとを判断するときに「一部」だけを見るのではなく、対象となる物事や案件から一歩引いて「全体像」をしっかりと見るということです。
「俯瞰」して見ると「正義」が「悪」であり、その「悪」の背後には「巨悪」が潜んでいる・・・。ではなく、「悪」の存在を人々に知らせるために、「善」が仕組んだものかもしれません。「正義」とは、その人の信義や宗教の教えに合致するもの、「悪」とはその人の信義や教えに反するもので、「正義」を主張する人が排除したいものです。「善」とは、偉大なる大自然、宇宙のルールです。
「正義」は主観的なもので、「善」は絶対的なものです。「善」には「ミクロ善」と「マクロ善」があります。「ミクロ善」は「マクロ善」に導かれます。
スーパーマーケットでは、チェーンストア主義が「正義」で、個店主義は「悪」と決めつけられています。
チェーンストア主義とは、各店舗の売上高はさておき、まずコストダウンに力を入れます。その代わりに、店数を急速に増やし、トータルとしての売上規模を拡大するという発想です。
本部が指示したこと以外することを許さず、店舗はこれだけすれば生活と地位を保障するというものです。
店長に、売上高の責任を求めず、店舗人件費というコスト削減、すなわち純利益高のみ責任を負わせるのです。品揃えは、本部が決めたとおりにすることでコストダウンが達成されると信じられています。
売場に立ちお客と会話を交わすこともコストアップと考えられ、店員はなるべく売場に出ないようにし、無表情でお客が話しかけづらい雰囲気を出すようになります。
品揃えは、どの店も「金太郎飴」のように同じです。品揃えを変えるとコストアップするからです。販促も店独自ですることは許されません。売価変更やPOP作成、陳列の変更などに余分なコストがかかるからです。
ヨークベニマル(237店舗・4,694億円:令和4年2月末現在)が令和5年度11店舗と5年ぶりに2ケタ出店することが話題になりました。オーケーの令和3年度の出店数は5、ヤオコーの令和4年度の出店数は11です。
ヨークベニマル、オーケー、ヤオコーといった大手でも年間数店舗の出店です。ほとんどのチェーンストアの店舗数は出店数より閉店数の方が多いのです。そして、業界全体でここ数年特に増えているのが新規出店ではなく、M&Aによる店舗の取得です。M&Aによる店舗の取得は、メリットどころかデメリットの方が大きいのです。
システムの統合に始まり、用語の統一、従業員教育、仕入れ先の統合、店舗レイアウトの変更、品揃えの改廃など1企業をM&Aする度に数年本部は身動き取れなくなります。
レイアウトと品揃え、販促を統一することがコストダウンの肝だからです。コストダウンしても売上げがアップすればいのですが、コストダウンすればするほど売上げはそれ以上に下がり続けます。
チェーンストアは粗利益率30%・販売管理費率20%(経常利益率10%)が理想とする数値です。これに対して個店主義の店は、粗利益率20%・販売管理費率17%(経常利益率3%)です。3%の経常利益率の低さが個店主義を「悪」する所以(ゆえん)です。
ところが、チェーンストア主義で経常利益率10%を達成している企業は皆無なのです。それどころか、2%確保していく企業も1%に満たないのです。
ならば、チェーンストア主義を捨て、個店主義に宗旨替えすればいいのです。個店主義では、店長が利益責任だけでなく売上げ責任も持ちます。そのために、大幅な権限が与えられるのです。各部門の担当者は自分で仕入れた商品に好き勝手な値段を付けます。仕入れた商品を売り切ると仕入金額に対して1.25倍(粗利益率20%)の売上金額で仕上がればよしとします。
生鮮品はほとんどがインストア加工、惣菜は一から手作りです。グロッサリーの棚にはナショナルブランドよりキラリと光るご当地プランドが並びます。一人ひとりにスポットライトを浴びせ、主役を演じてもらうのが個店主義です。
個店主義に改宗すれば、売上げは倍増します。粗利益率は30%に対して20%と3分の2になっても粗利益額は33%増えます。
個店主義ではコストアップは二の次です。①新しい商品、新しい売り方に挑戦すること、②売場に立ってお客と会話すること、この2つが業績向上の原動力です。新しい商品に感動したお客は必ずリピーターになってくれます。売場に立っていると、「なんて安いの!助かるわ」「こないだの商品、とってもおいしかったわよ」とお客から声をかけられます。
給料は生きていくための「身体の栄養」になりますが、お客からの「助かるわ」「おいしかったわ」の一言は、「心の栄養」なのです。
俯瞰してみるとチェーンストア主義が「正義」ではなく、業績低迷の根源で、個店主義が「善」であり、「共生」「調和」「絶対愛」という「宇宙の大法則」に合致していると理解できるはずです。
「共生」とは、自分は他者に生かされているのであり、他者を生かすことは自分が生かされることです。「調和」とは、性質の違うもの同士が、不離一体となって新しい性質を作り出すことです。「絶対愛」とは、太陽が万物に分け隔てなくエネルギーを注ぐように、生きとし生けるものは見返りを求めず周りに愛情を注ぐということです。
「共生」の対義語は「エゴ」、「調和」の対義語は「強要」、「絶対愛」の対義語は「偏愛」です。「エゴ」「強要」「偏愛」はチェーンストア主義そのものだと私は考えます。
では、なぜチェーンストア主義に拘泥(こうでい)するのか。理由は「利権」がそこにあるからです。本部の各部門のバイヤー、開発担当者、人事担当者には莫大な「利権」があります。金銭授受もあります。飲み食いだけでなく女性があてがわれることもあると聞きます。さらに、退職後は再就職先を斡旋する業者もいるから厄介です。一番の「利権」は支配者になれることです。部下から懼れられることなのです。
しかし、本人たちが望むか望まないかにかかわらずチェーンストア主義にほころびが目立ち始めました。新規出店があまりにも少ないうえ、既存店の売上高が落ち続けています。前年比5%ダウンが10年続けば売上高は6割まで萎みます。
「店舗数を増やしスケールメリットが出ると思うから我々も特別条件を提示してきたのだ。話が違うんじゃないか」と大手食品メーカーは疑念を抱き始めています。建築会社、設備機器メーカーは、「毎年2ケタ出店する約束だったから、理不尽な要望にも応じてきたんだ」と憤慨します。
メーカーは、質を落とすことで儲けを捻出しようとします。建設費や設備費の見積もりは相場を超えたものとなるのです。社長は家族から、「こないだねパパのお店でおかし買ったら『まずくて食べられなかった』とお友達に言われたの。間違いだよね、パパ」と言われます。早速自分で買って食べてみると、パッケージはあまり変わっていませんが、中身に以前のような風味と食感がありません。「どうしたんだ!」と仕入れ担当者を問い詰めると、「原料と製法を変えたみたいですよ。私も美味しいとは思いませんが、この商品を外すとリベートが入らないんですよ」と平気な顔をしています。
企業だから儲けなければなりません。お客に安全なものを提供するための小売業の店頭は最後の砦です。砦を守り抜くには、商人の「矜持」が必要です。商人の「矜持」とは、自分が食べないもの、食べて美味しくないもの、子供や孫に食べさせたくないものを売らないことです。
昭和の刑事ドラマでは、刑事たちは組織で動くことを嫌う“はぐれ鳥”が主役でした。捜査方針には従わず、自らの嗅覚で犯人の目星を立て、単独で犯人に迫ります。時には、犯人に裏をかかれて絶体絶命の窮地に追いやられます。命を落とすこともあります。それでも最後まで犯人逮捕の執念を燃やし続け、手負いながらも最後は犯人に手錠をはめるのです。
最近の刑事ドラマの刑事たちは分業制です。大きな事件になればなるほど、チームを組み、分業化することで刑事一人ひとりの負担を小さくしています。同時に命令系統を一本化する目的もあります。特定の刑事によるスタンドプレイがあると捜査が混乱するからです。
昭和の世代からすると、刑事は“はぐれ鳥”の方が性に合っています。犯人を憎まず、犯人を許すといった葛藤が随所にありました。これが心を揺さぶるのです。
出世も望めません。はぐれ刑事純情派で藤田まこと演じる「安浦吉之助」は試験に拠らず事件解決の功で昇進している万年ヒラです。階級は巡査部長です。「太陽にほえろ」の露口茂演じる「山さん」こと山村精一は優れた洞察力・推理力によって数々の難事件を解決。七曲署のメンバーから信頼されていました。それでも巡査部長より一階級上の警部補です。ちなみに石原裕次郎演じる「ボス」こと藤堂俊介はさらに一階級上の警部です。
スーパーマーケットにとって“個店主義”は、渡り鳥の中の“はぐれ鳥”のようなものです。頼れるものは自分の嗅覚と体力です。それを支えるのが先ほど述べた商人の「矜持(きょうじ)」なのです。
商人の「矜持」の根本は、「『損得』より『善悪』を優先すること」です。「善悪」の「善」とは、偉大なる大自然、宇宙のルールです。
「正義」は主観的なもので、「善」は絶対的なものです。「善」には「ミクロ善」と「マクロ善」があります。「ミクロ善」は「マクロ善」に導かれます。
ただ儲けるだけだったら、遺伝子組み換え原料や有害な添加物を使用して大量生産した商品を売った方が儲かります。儲けは少なくなりますが、健康被害が少ないとされる商品を仕入れて売った方が「善」いのです。さらには、売り先を失っている生産者の商品を生産者の言い値で購入し、生産者の声を代弁して売った方が「善」いのです。
商人の「矜持」がお客を魅了するのです
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