見出し画像

「専門性を追求する」ことが地方スーパーの再生の特効薬

 令和6年11月も下旬になろうというのにイオンやヨーカ堂、ヨークベニマルなどチェーンストアの店頭に苺が並んでいません。あってもわずかです。ミカンも最近は糖度12度以上のブランド高糖度ミカンが人気です。人気なのは長崎西海みかん「味っ子」「味まる」「出島の華」、愛媛真穴みかん「ひなの里」、福岡「博多マイルド」。「味っ子」の糖度13度以上あります。

 これら高糖度ミカンは100店舗、200店舗の3ケタチェーンストアの店頭に並ぶことはありません。なぜなら、全国的にミカンは数量減の上、そもそもブランド高糖度ミカンが出回る量が限られているからです。店舗数が3ケタになると、ヨーカ堂のように産地ブランドではなく「スィーツキング(ヨーカ堂のブランド)」として、各産地のみかんをミックスして販売せざるを得ないのです。

 効率化を追求し続けていった結果、バイヤーの一括仕入れが行われます。生産者の数が多く買い手市場の時代には、バイイングパワーが発揮できました。ところが生産者が激減した現在、決定権は生産者にあります。生産者からすれば、販売する人の顔が見えて、自分たちの思いを消費者に伝えてくれる店舗を選ぶのではないでしょうか。

 よくチェーンストアでは「生産者の顔が見える」と謳いますが、生産者からすれば、「販売する人の顔が見える」「商品を購入した消費者の声が聴ける」ことが喜びであり、生産の励みになるのです。
ちょっと前までは、チェーンストアの真似をすることが良いとされましたが、現在はチェーンストアの真似を止めることが地方スーパー再生の特効薬なのです。

 そのためには、本部仕入れを止め個店仕入れ(個店主義)に戻すことです。個店仕入れにすれば、自分の店のお客のニーズになった商品を仕入れることができます。例えば、チェーンストアではMサイズのじゃが芋を売りたいときに、Mサイズだけでは全店分揃わないときには、産地でMサイズ、Lサイズなどサイズ別に仕分けし袋詰めしたじゃが芋を仲卸などが店舗内で袋を破ってMサイズとLサイズを混ぜて、「ミックス」として新しい袋に詰め替える作業をします。

 個店仕入れで3Lサイズが箱のまま売れる、バラで売れると思ったら、3Lサイズを仕入れればよいのです。

 数店舗の企業では、数ヶ所の中央市場を駆け巡り、出始め(ハシリ)の産地を追いかけて仕入れることもできます。どんな野菜でも最初に採れる一番果には力があります。栄養価が高く、美味しいのです。キュウリで言えば一段目に生る勢いのあるきゅうりと15段目に生る末生り(うらなり)キュウリでは、まったく旨味も風味も違います。旬の中でも特に今日美味しい産地の商品を販売できるようになれば3ケタのチェーンストアと強烈な差別化ができます。

 トマトには「オニ花トマト」があります。「オニ花」とは「鬼花」とも書きす。「オニ花トマト」は最初に咲いた花にできるトマトのことです。 ずっしりと重みがあり肉厚でいびつな形をしていますが、一番土の養分を吸収しているトマトです。農家の格言に「オニ花トマトにハズレなし」があるそうです。

 「オニ花トマト」を店頭に並べると異彩なオーラを放ちますので、知ってか知らずかお客が集まって手に取ります。こういった珍しい商品は個店仕入れでしかできないのです。

 東京都渋谷の青果専門店では、茨城県のイチゴ農園のイチゴを1シーズン17,000パック売るそうです。産地に足を運び、信頼関係を築きながら、出始めから名残りまで売り抜くのです。例えば、11月中旬2パック1,580円に始まって、12月1,280円、3月下旬1,180円まで、同一生産者の商品を売り続けるのです。その美味しさからお客は毎年リピートを繰り返すのです。2年前のシーズンは15,000パックだったのが、昨シーズンは17,000パック、今シーズンは20,000パックだそうです。金額にして1,280万円です。

 つまり個店仕入れだと、生産者と販売者との間に関係性が構築できます。販売者は、商品を自分の言葉で磨いたものをお客に伝えることができるのです。

 鮮魚の仕入れは「当日行き当たりばったり」で計画性がなくていいのです。チェーンストアでは翌日の特売計画と入荷量から作業指図書を作成しておかないと作業が回りません。 

 個店仕入れでは、事前発注せず、その日市場に入荷したものからバイヤーが“勘ピュータ”で仕入れる魚種、数量を決め、店舗に送り込みます。店舗では4人の切り手が、以心伝心で「マグロはオレがやる」「ブリはオレが片付ける」「カツオはオレに任せろ」「サケはオレが切る」など荷が多いものから順に潰して商品化いきます。

 チェーンストアでは、標準化・単純化・マニュアル化の原則から、養殖魚、冷凍魚、アウトパックに頼らざるを得ませんが、個店仕入れでは、天然魚(本鮪、鰤、真鯛)、高級魚(くえ、はた、きんき)、旬の魚(冬場だったら渡り蟹メス、寒黒鯛、トラフグなど)を前面に打ち出し売ることが可能です。

 天然魚、旬の魚は、相場が毎日変わるとともに、サイズもまちまちで値入計算や売価設定が難しいと思われがちですが、売価はいじらないで定額の“安心価格(同じ値なら品が良い。同じ品なら値が安い)”で売り抜くのです。例えば天然鰤なら、背1サク999円、腹1サク1,190円などです。基本4フェイスですが、相場が少し上がったなと思う時はフェイスを2フェイスにし、相場が少し下がったと思う時には6ファイスにすればよいのです。また、相場が下げ基調だったら下げればいいし、上げ基調だと確信したならば上げればよいのです。

 売る側の都合で、作業の効率化だけを推進してしまうと、生鮮専門店が本来お客に提供すべきメリットが提供できなくなってしまうのです。豊作の時は物がいいので、お客に沢山食べてほしいのです。豊作の時はいつもと違って、驚くような安さで提供できることもあります。生鮮専門店として、青果、鮮魚、精肉、惣菜それぞれが本来持っている強みを残した店づくりをすればよいのです。

 青果物には、3つの旬があります。ハシリ、サカリ、ナゴリです。ハシリは出回る量が少なく、高い価格で販売されていることが多いのです。もしハシリの商品を、驚く安さで買うことができたら、お客にとっては大きなメリットです。年間商品ではなく、サカリの商品を、様々な産地から取り寄せて販売する、最高級のグレード、鮮度のものを提供する、生産者からバトンを手渡された商品を自分の言葉で磨いてお客に伝えることが出来たら、お店は栄えます。
 
 セブン&アイの凋落は、現実から目を背けたことにあります。「効率化」がすべてではないのです。

いいなと思ったら応援しよう!