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SM狂騒曲第2章~マミーマートTEPPEN!へ

 この30年、流通の世界でも、コンビニが飽和状態になり、不採算店舗が急激に増えてきました。ドラッグストアも出店攻勢も陰りが見えてきました。スーパーマーケットもこの20年で既存店の坪効率は半分まで低下し、年商20億円のSMの年商は10億円以下になっています。出店しようにも過当競争と人手不足で、2ケタ出店などとんでもない話で、ここ数年新店0という企業がほとんどです。

 既存店の売上げ低下をM&Aで解消しようと試みましたが、ことSMに至ってはM&Aの成功事例は少ないのです。その一方で、最近勢いを増しているのが、①ロピア、②生鮮市場TOP(マミーマート)、③オーケーです。これらの成功にあやかってか、フーコット(ヤオコーの子会社エービンのディスカウント業態)、クルベ(ベルクのディスカウント業態)などディスカウント全盛の時代を迎えたのです。

 ロピア、生鮮市場TOP、オーケーの3つに共通していることが、①生鮮品は、既存SMより数段グレードの高いものを売り込んでいること、②グロサリーは品揃えの位相を変えていることです。①に関しては、A4、A5和牛の「一頭買い」、「シャインマスカット大粒」など高級フルーツ、「アメーラ」など高糖度野菜の売り込み、②に関しては、ロピアはNBより御当地アイテム重視、生鮮市場TOPは自社発掘アイテムの売り込み、オーケーはトップブランドを排してセカンドブランドを専売などです。

 昔から、チェーンストア理論(渥美俊一理論)を狂信している経営者がいます。あらゆる企業活動を中央集権的に本社(本部)へ集中させて、店舗(現場)ではオペレーションに専念することで経営効率をあげようするのがチェーンストア理論です。40年前は関西スーパー、30年前はヨークベニマル、20年前はヤオコーを真似すれば勉強していないライバル店に勝てたのです。

 ロピア、生鮮市場TOP、オーケーは独自の競争戦略を持っています。極論すると反チェーンストア理論です。①大型店と同じ土俵に上がったら負ける、②大型店の真似をしない、③本部はいらない、PCは作らない、④マニュアルはいらない、標準化はしない、⑤グレードの高い商品を売り込む、⑥組織力よりチーム力重視、仲間を増やす、⑦訓練により練度を上げる、⑧店舗への大幅な権限移譲、⑨商いの原点に戻る、⑩ショートタイムショッピングより買上点数重視などです。

 一方で、フーコット(ヤオコーの子会社エービンのディスカウント業態)、クルベ(ベルクのディスカウント業態)はロピア、生鮮市場TOP、オーケーとは似て非なるものです。根底にはチェーンストア理論があるからです。かつてダイエーは不振店を「トポス」「ビッグA」に業態転換しました。スーパーマーケットが不振になると「ボックスストア」というディスカウント業態に変更されたのです。青森のユニバースが「パワーズU」、イオンのマックスバリュが「ザ・ビック」にしたのと同じです。

 ここに「バカの壁」があります。では「バカ」とは何か。自分の信じること以外聞く耳を持たない人のことです。チェーンストア理論に狂信している人は壁を越えられないバカです。チェーンストア以外の存在を認めず、自分の気に入らないものを攻撃するのが大好きなのです。

 彼らにとって、ロピア、生鮮市場TOP、オーケーはSMの仲間だとせず、存在そのものをなかったことにします。ところがチューンストア理論を根拠にした「フーコット」は赤字、「クルベ」も所詮不振対策でしかならないのです。社員は「フーコット」「クルベ」に転出することを嫌がるはずです。

 ロピア、生鮮市場TOP、オーケーも安泰とは言えません。ロピアには、どんどんチェーンストア出身者が入り込み、PB商品が多くなっています。PB商品とは、メーカーにとっては“我が子を養子に出すようなもの”とあるメーカーの幹部社員から聞いたことがあります。出自は伏せられ、親からもらった名前はも変えられます。なぜかPBが増えた売場は物寂しく、楽しさ、明るさがなくなるのです。

 同時に商品のキャラクター化が始まっています。ロピアがM&Aした「アキダイ」の社長がパッケージとなった「社長の目利きで仕入れたデカえのき」などの商品が売場に登場しました。さらに、惣菜には、同じくM&Aした和食の鉄人「道場六三郎事務所」がプロデュースした煮物が並びます。精肉もPC経由のものが過半数を超えたようです。店舗の人員は数年前の半分以下になった気がします。

 生鮮市場TOPのオープニングセールでは、生鮮はほぼ原価、グロサリーは日商の10%程度損金が組まれていると感じます。2023年12月上旬、柏の葉店オープンでは、4kgで卸値が3,000円~4,000円していたトマトが、999円で販売されていました。塩銀鮭は卸値がkg当り1,300円しているところ、100g139円で6切れ入れが販売されています。

 2024年1月末オープンの岩槻府内店では若鶏もも肉が100g50円で販売されていました。また、柏の葉店ではネスレゴールドブレンド80gが299円、リポビタンDが1箱599円、キャノーラ油1,000gが199円と先着2,000点などの制限がついていますが、1日当たりグロサリーで200万円程度の損金を予算取りしているようです。日商が2,000万円だとすると10%に当たります。

 損する商品(グロッサリーの一部)、原価の商品(生鮮品の一部)、ちょっと儲かる商品(生鮮品・グロサリーの一部)、普通に儲かる商品(残りの生鮮品・グロサリー、惣菜)が綿密に計算されているのです。私は、生鮮市場TOPはオープン時で15%、通常時では25%の粗利益率を確保しているように思われます。

 その甲斐あって、マミーマート時代年商10億円だった店舗が生鮮市場TOPに業態変更すると2倍の年商20億円になるのです。

 チラシの特色は、表面が生鮮でワンランク上のグレードの商品を奇抜な売り方をする、裏面がグロサリーで、日替わりで一般食品は原価の200円マイナス、日配品は100円マイナスで打ち出す。

 ポイントは、“損”を先払いして、お客をいい気分にして、奇抜な商品でお客のハートを射抜く。結果として買上点数を増やすことにあります。一人当たり100円損したとしても客単価2,000円と客単価4,000円では負担率が違います。客単価2,000円で粗利益額が20%であるなら粗利益額は400円、負担率は25%になります。客単価4,000円で粗利益率が20%なら負担率は12.5%です。客単価が4,000円であれば、一人当たり100円損をしてもやっていけます。客単価が2,000円であれば、粗利益率は30%でトントン、40%なければやっていけないのです。粗利益率40%のスーパーに誰が買いに行くでしょうか。

 現在、チェーンストアの粗利益率は30%です。ポイント還元・キャッシュレスの経費が5~8%。人件費や家賃、広告宣伝費など経費を25%に抑えても赤字なのです。そして、生鮮を安く売ることも、グロサリーのアンカー商品を安く売ることもできなくなっているのです。その間隙をロピア、生鮮市場TOP、オーケーはついているのです。これらに共通しているのは買上点数の高さです。

 どうしたら買上点数を上げることができるか。①先に損すること(先払い)、②生鮮のグレードを上げること(鮮度、グレードで勝負する)、③品揃えの位相を変えること(泥沼の価格競争をしない)、④声出し・声掛けすること、⑤お客の好み、顔を憶えること、⑥有人レジに戻し、レジでのコミュニケ―ションを増やすことです。

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