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ブルーノ・タウトの旧日向別邸

世界的建築家ブルーノ・タウトの設計した「旧日向家熱海別邸」を見学してきました。

タウトの来日は1933年(昭和8年)同盟国ドイツからの亡命でしたので、日本では建築の仕事をすることができませんでした。しかしながら、縁あって、実業家 日向利兵衛の別荘、地下部分の内装を設計する機会を得ます。1936年に無事竣工。
持ち主の変更、取り壊しの危機、篤志家の登場など紆余曲折を経て、現在、一般公開されています。

見学について

完全予約制、水曜日・土曜日・日曜日・祝日 
9:00、11:00、13:00、15:00
タウト愛溢れるガイドさんの90分ツアー付きです。
建物保護のための靴下をお忘れなく。

急な坂を登ります
旧日向家熱海別邸は、階段を降りて右手にあります
入り口。地上部分は銀座の〈和光〉や〈東京国立博物館 本館〉を手掛けた渡辺仁の設計。
実業家の財力はすごいですね。

1階、2階 渡辺仁設計部分

まず1階の居間でタウト関連動画を鑑賞します。続いて、奥様の部屋、ご主人の部屋、どの部屋も温泉のパイプを下に通して、その熱で温めるエコな暖房になっていました。



お風呂、タイルは織部。窓の外に見えるお庭の下にタウト設計の地下室があります。
2階の窓からは隈研吾が設計した〈海峯楼〉が見えます。

〈海峯楼〉特別室に宿泊すると写真のダイニングでお食事ができるそうです。

「設計前に近所を散策していた隈研吾は、偶然、旧日向亭を訪れ、日本にタウト設計の建物があることに驚き、この地下室を見て、海に溶け込む室内のインスピレーションを得た」
…とガイドさんのお話でした。

屋根の瓦が途中までしかないのは、重みに耐えられず落下するといけないからという構造上の理由だそうです。

1階。居間にある小上がりの天井「網代天井」

修繕したてということもあり、網の陰影が綺麗でした。
母屋も細部までこだわっていて、見どころが多いです。
この建物の魅力はタウトの地下室だけではありませんね。

地階 ブルーノ・タウト設計部分

いよいよ地下へ。
地下と言っても、薄暗い閉鎖的な空間とは違います。
この地下室は、木造2階建母屋の前方(せり出した高台)に庭を作った際、地盤強化のために設置した鉄筋コンクリートの内部なので、窓があり、海が見えるのです。言葉では伝わりにくいので、下の図をご覧ください。

右下、立地の図
階段を降りた先の竹の仕切り。
胸が高鳴ります。

竹の手すり、社交室の脇にあるアルコーヴも、素敵です。

竹の手すり、右側にアルコーヴ。
隠し収納の扉もあります。

社交室


降りた途端、ふぁーっと風が吹き込み、清涼感に包まれました。
眼下には相模湾が一望できます。

1階からも2階からも見えた景色にも関わらず、女萩を使った簀戸ごしに差し込む柔らかな光に照らされた海は新鮮でした。

社交室。

電球も一つ一つの光量が控えめで、優しいです。
夜はどんな景色になるのでしょうか。想像が膨らみます。
右奥の椅子もタウトデザイン。スタッキングができて機能的。

リズミカルに長さを変えた裸電球。
窓の外のゆったりとした波とリンクします。

電球を吊るしているのも竿だけならば、S字フックも竹製です。
日本らしさでしょうか。
ずっと日本にいると、日本を再発見する機会は中々訪れませんね。

天井のデザインも空間を分けていて、面白いです。
細かい部分が作りこまれています。


木々の向こうに初島

洋間


洋間の階段

段に腰かけて椅子のような役割を果たします。
壁は絹織物を張り付けたもの。間接照明が控えめでよいです。
前には大きな窓があります。

前に見える大きな窓

低い段では初島と大島を望む奥行きのある風景が広がります。
真ん中の段では床から85cmの窓の横木、室内の襖の横木、三部屋を繋ぐ一つの横線と水平線が重なり、空と海を隔てます。
高い段では海が垂直にせり立っているように見えます。

立ったり座ったり、視点を変えて楽しんでいたら、写真を撮ることを忘れました。

真ん中の洋間から社交室

「床に映り込む光も綺麗なんですよ」とガイドさん。
見どころやエピソードを盛り込んだお話が本当に楽しくて、聞き入ってしまいました。

和室

一番奥の和室。
ベンガラ色(木)とウグイス色(壁)の取り合わせがお洒落です。
日向利兵衛とタウトが出会うきっかけとなった行灯。

この行灯も、タウトのデザインです。
日本では本業である建築の仕事ができず、家具や工芸のデザインをして生計を立てていたそうです。
シンプルでモダン、和の香り。上下可動式でやっぱり機能的です。



一番奥の和室から、洋間、社交室

襖の上、横軸がなくても歪まない欄間がすごいです。
国宝の修復に携わった宮大工の技術とのこと。
有名人がたくさん登場し、覚えきれません。

定期船が海に白い弧を描きます。

しばし、時を忘れて、海を見ます。
どこからどこまで海なのか、空なのか、だんだん分からなくなってきます。

見学を終えて


こだわりの細部は、華美ではなく、より景色に溶け込むためのものでした。

窓は大きな額縁となり、自然の中に建物が溶け込む感覚を味わうことができます。

是非、予約して実際に足を運んでください。

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