2月13日(朝)
ん、誰か降りてきた。
―お、おはよう。
とは口には出さない。
我が家の人間は、家の中ではものすごく静かで、基本声を出さない。
母は、うるさい。1人でよくしゃべる。
「……」
無言で向かい側に座る妹を尻目に、スマホいじりを再開する。
今日は仕事自体は休みなので、特に急ぐ用事もない。
が、昨日の夜に買い物を頼まれていたので、こうして早めに起床した次第だ。
とはいえ、いつもよりは一時間遅いが。
「……」
んんー何時ぐらいに行くかなぁ。
午前中に終わらせたいのだが。
―と、思いつつスマホをいじる手をとめない。
いくつかダウンロードしているゲームを開き、ログインボーナスなどなどを受け取り、閉じて。の繰り返し。
モノによっては少し、ゲームをやったりして。
「……」
「……」
「……」
「何時ぐらいに行く?」
―んぇ、なんと?
2人して、各々の事に集中し始めたタイミングで。
妹が声を上げた。
なんて言いましたか。
「何時ぐらいになったら買い物行く?」
「ん、あー……」
買い物の事など、もう既に頭の中になかったので、いきなり言われて何のことかと思ってしまった。
そういえば、昨日母と話をしているとき、コイツも隣にいたのだった。
聞いていたに決まっているか。
意外と聞いてないふりして聞いているのが、我が家の人間だ。母以外。
「十時ぐらい?」
「んーそんぐらいかなー」
壁に掛けられている時計を見やりながら、適当に返事をする。
もっと早く言ってもいいのだけれど、まぁ、いいか。
正直今はゲームに集中していたい。休みだし。
着替えとか、何もしてないし。
「ぁーい」
「ぁーい」
そこからまた始まる無言タイム。
……あー、これ、んーどうしよう。これをこうして、こうし…んーめんどうだなぁ。んーあぁ、攻略…………あぁ、こうすんのね。はいはい…いないな、これでいいか。はいはい。行けたいけた。おけ、これ終わり
次これ……ログボ……んー今イベント中なんだよなぁ、なんか、でも特攻カードとかないしなぁ、とりあえずこれだけ。しておくか。オート機能マジ感謝だよなぁ……あ、これおいしそう、どこだろ……出た都内。無理ですー田舎の民もいけるとこ紹介してーお願いだからー……とか言っても行かないですけど。そんなオシャなところ、わたしいけない無理怖い。……あ、終わった。
あとは……
「……」
時間みてなかったなぁ。
もうあっという間に時計の針が、十をさしている。
適当に着替えてコンタクトつけて……。
スマホを机の上に置き、動き出す。
―妹は未だに炬燵に沈んでいる。声はかけない。その方が面倒なので。
「……」
二階の自室に上がり、クローゼットの中を探る。
寒いのかな今日……ま、これで良いか。裏起毛万歳。
上着とズボンを適当に手に取り、ピアス、ネックレス……後一応イヤホン。つけることないけど。何せ自分で運転するので。
「……」
それぞれ手にしたまま、一階へと戻る。
妹はまだ動いていない。
その足で、脱衣所に行く。そこにハンガーを直したりしないといけないので。ついでに洗面台で、コンタクト。
「……」
よし。
準備完了。
さて。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……あ、もう行きます?」
「行きますよ?」
先程から、一ミリも動いていない妹に無言の圧をかけた。
大成功。
普通に声かけるより、こっちの方がいいのだ。
時間ですけどとか言うと、逆切れしかねないのが、この妹なので。
めんどくさいし、気分屋なのだこの妹。
ほんと、誰に似たんだか。
さて、やっと動いたことだし、さっさと行くとしよう。
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