GENJO〜げんじょう〜5

【はじめに】
この物語は遥か未来、しかしそう遠くない時代に起こりうるであろう架空の話であるが、本当に起こらないとは限らない・・・。
【あらすじ】
時は西暦2027年。
そして舞台は日本・第三新横浜臨海森公園前総合病院。
そこに勤める「石崎 裕(いしざき・ゆう)」はこの物語の主人公で、まだまだ新米の医師である。
前回、亡くなった永美の体から異様なウイルスが見つかった。驚いた事にそのウイルスはHIVによく似ていた。
Dr.ユウはこれが新型の感染症の病原体だと院長らを説得し、その日日本国から国内だけでなく世界中へ向けて新型の感染症が見つかったので、流出させない為にその場に留まる様に呼び掛けた。これから人々はまた感染症との長い闘いの渦に入っていくのであったー・・・。

GENJO〜げんじょう〜5

新興感染症対策本部が日本政府を中心に結成された。

先人らが「感染の防止、隔離、原因となる物質を倒す」事を信条として来た感染症への対策を執り行うが、それはその場凌ぎでしか無かった。

住む環境、誰と接していたか、どんな職業をしているか、どんな物を食べているか、そして…その人は特定の行為を行ったのか。

「病気を治す為には何よりも患者の5W1Hを確認する」

Dr.ユウは自分が医学生時代に、恩師であるDr.オオガイから口酸っぱく言われていた事を思い出すのだった。

亡くなった永美の生前の行動…つまり、(いつ)(どこで)(だれが)(なにを)(どのように)(なぜ)を確認した。

何よりも彼女は妊娠中であった。この事から彼女は性行為を行った事は分かるのだがここで問題が起こる。

誰と行為をしたのかが分からないのだ。

初めて受診して来た時には夫や彼氏と言った存在は来ておらず彼女一人で来ていた…。

(待てよ…。HIVに似ていた形状ならばこれはSTI(性感染症)、それも新型!!それならば体液や性行為によって不特定多数の人間の身体を行ったり来たりしている!?)

永美が大勢の異性や、或いは…様々な憶測を募らせながら慎重にDr.ユウは彼女を知る者を、彼女の家系図から性感染症歴の有無、近親者に同じ症状が出ている者は居ないかを同僚のDr.キドとDr.トガに呼び掛けて調べ出すのだった。

その結果、永美の家系図の中でAIDSを発症し亡くなった者が3名も居た事が判明する。

しかもその3名は共通して、「この病院で手術・入院歴があり、輸血をしていた」。

つまり、要約するならばこうだ。

永美の近親者で、何らかの病気を患いこの病院で手術を受けた時に輸血をするが、その輸血が実は消毒殺菌されていない汚染された血液だったのがそのまま体に入れられ、潜伏期間が過ぎHIVにより免疫力が低下した結果亡くなった…。

だが、それなら何故当院のアーカイブに患者のカルテの欄に載っていなかったのだろう…?やはり、院長らが医療ミスで訴えられる事から逃れる為に事実を隠蔽してきたのだろうか。

亡くなった永美さんをはじめ、彼女の近親者には申し訳ない気持ちでいっぱいになり何としてもこの事件は明らかにしなければとメラメラとその正義心を燃え滾らせるのだった。

時を同じくして、今日も新型感染症により日本国内でも8000人もの人が犠牲者として出ていた。

亡くなった患者らはいずれにしても、断末魔も叫ぶ間もなく身体の免疫が恐ろしい程までに低下しており死神が病院に居て、あの世に連れて行く者をしたりながら探しているようにも思えた。

まさに死人に口なし。人が死んで、告発が出来ないのならウイルスが人間たちに警鐘として声明をあげる…そこから転じて「ヴォイス」とDr.ユウによって名付けられた。ここまで2027年6月末の出来事である。

GENJO〜げんじょう〜5 おわり / 6 へ続く