書評『小説 岡山県立津山高等学校』
岡山県第三の都市、津山市。恩師の退職記念パーティーに参加するために主人公、山本翔太は大切な青春を過ごした場所に戻ってきた。50年前から変わらず、電子化の進まない駅から降り立った彼は、かつての恋人によく似た少女と出会い、母校である岡山県立津山高等学校(ここからは地元の人々に因んで津高と呼ばせて頂く)のことを想起する。
この本は、京都からの転校生である山本翔太の視点で、津高を中心とした青春の物語が描かれる。なぜ津山高校で学ぶことに多くの人々は価値を見出すのか?そこにあるのは単純な地元愛という言葉で片付けられるものではないことを教えてくれる。
自分で考え、自分で生み出す。
勉強、部活動、友情……そして、恋。
実在の人物をモデルに描かれるリアルなストーリーは、多くの人が経験する高校時代を鮮明に映し出していた。
しかし、この本の魅力は、そこに留まらない。津山に住む人々すら知らない隠されたスポットが詳細に紹介されている。読んだ人は帯に書かれた「観光誘致にも寄与する実験的小説」の意味を感じることができるだろう。
そう……
これは津山を愛した一人の男が『聖地を創る』までの物語である。
失礼ながら、ここからは個人の勝手な想いを綴らせてもらいたい。書評を書いている私の母も何を隠そう津高の出身である。私も幼い頃は長い休みになると祖父母の家がある津山で過ごした。祖父のバイクの前に乗り、畑仕事を手伝いに行ったこと、祖母におもちゃをねだり、ウルトラマンの人形が前に置かれたおもちゃ屋に幾度となく行ったこと、今でも忘れられない思い出である。祖父母はすでにこの世におらず、母の実家もすでに津山にはない。だが、津山は幼かった私にとって、紛れもなく故郷であった。私にできることと言えば、少し離れた神戸の地から津山の町おこしを見守ることくらいのものだが、祖父母の墓参りをする時にはこの本にある場所のことを思い出してみよう。そうそう、私のオススメは本の序盤に登場する「つやま自然のふしぎ館」なので、これを読んだ方々は、騙されたと思ってぜひ足を運んでみて欲しい。
2021年2月28日 神戸の自宅にて
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『小説 岡山県立津山高等学校 』
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