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地球と街と出版とお金の話

昔、Google Earthを見ていたときに、思ったことがある。
「街っていうのは、水辺にしかできないもんなんだな」

地球はめちゃくちゃ広いのに、人間の家々は、そのごくごく一部分に密集して建てられている。
大きな部屋の、ほんの隅っこ部分しか使っていないような感じで、ちょっともったいないなと思った。
人類には、飛行機だって船だって車だってある。人間は、地球のどこにでも行けるだろうに。
そんなことを思いつつ、Google Earthの地球をぐるぐる回していくと、密集した家々の屋根――街や村のほぼすべてが、「海」か「川」に隣接していることに気づいたのだ。
そうか。人間は、水から離れては生きられないんだなぁ…と。
「行ける」ことと「住める」ことは違うんだ。
「一人が住める」ことと「みんなが住める」ことも違う。


昔、編集さんからこんな話をされた。
児童書で、「課題図書向け」の本をつくるのが、辛くなってしまったという話だった。

「作家さんが描きたいものを描ききった結果として作品が評価され、課題図書に指定される。これは素晴らしいことだと思うんです。
 ただ、課題図書に指定されればその本は数万~十数万部売れる一方、指定されなければ、その十分の一も売れないというのが現実です。
 必然、出版社としては、「課題図書に指定されれば利益が出る、されなければ赤字になる」という物の見方がどうしても出てきてしまう。
 課題図書を選ぶ先生方と食事会をして、今どんなテーマが求められているのか? 子供たちに何を届けたいか? 話を聞く。
 先生方はとてもいい人です。
 でもそうやって、求められるテーマを把握し、どんな文体が好まれるかを分析し、そうした作品を書いてくれるように、作家さんを誘導して。
 そうしてできあがった本が、無事に課題図書に選定され、売れて大きな利益を出して、上司からも評価されて。
 でも夏休み明けのブックオフに、自分のつくった本が大量に並べられているのを見たときに、自分がいったいなんのために仕事をしているのか、よくわからなくなってしまった」

聞いたとき、僕が思いだしたのは、Google Earthだったんだよ。
そうか。やっぱり人間は、水から離れては生きられないんだ、と。
そして、出版における水っていうのは……お金でできているんだな、と。

デビュー前、僕は、小説っていうのは、完全に自由なものだと思っていた。
ジャングルに建ててもいいし、砂漠に建ててもいいし、南極に建ててもいい。なにしたっていい。
実際、なにしたっていいんだよ。一人で行くならば。

街や村で暮らしたいならば、お金の流れを意識しなきゃダメなんだ。
自分が暮らしている川の源流は、いったいどこにつうじているのか? そのお金は、だれの財布から出ているものなのか?
どこにいっても、その影響からは逃れられない。
それに自覚的か、無自覚かの違いだけで。

お金の流れの影響を受けながら、でも流されっぱなしにならないように。
うまくバランスをとってみたり、たまには流れに逆らってみたり。

みんな、そうしてるんだよなあ……と思った出来事だった。
仕事ってむずかしいよな。


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