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格の違いではなく覚悟の違い

先日、貴重な経験をした。

10人がせいぜいか、という程度の箱。2mしか離れていない場所でマイクなしアコギ1本の生歌を聴く。二人のアマチュアシンガー。雑談を交えつつ数時間。曲数では十曲程度。オリジナル曲はもちろん、カバーも歌う。ちなみに私のリクエスト曲を2曲歌ってくれた。


ここではプロとアマチュアの違いを、その道だけで食べていけるかどうか、という点で語るとする。そうすると彼と彼女はプロではないが、私の耳にはその歌唱力はプロと遜色ないのでは、と感じるものがあった。(プロの生歌を2mの距離で聞いたことはないですが。)

声量・音圧・音域・発音の丁寧さetc
ここまで違うものかと圧倒される。(少なくとも)歌唱力という点では、自分のは子供の遊びのように感じられた。

女性の方は、現在も路上弾き語りをメインに音楽活動を続けており近々初めてのワンマンライブを行うのだとか。また、その日限りのコラボとして参加した男性は、青春を全て歌に捧げてきたと語っていて、女性が歌う曲に即興でハモリを入れていく。とんでもねー。

途中、女性の方が休憩中の余興として、参加者に「わたしがギター弾くのでどなたか歌いますか?」と提案してきた。

(リクエスト用に配布されていた)彼女の演奏可能な曲目のうちに、私もそこそこ自信がある曲があった。鼓動がはやくなった。歌ってみたいと思った。プロ(級)の生ギターで歌うこと(しかもおそらく二人のハモリやコーラスつきで)なんて、今後の人生であるだろうか、いやない。



でも、無理でしたーーー。手を挙げる勇気はなかった。

私が歌った場合の聴衆は、路上ライブをこよなく愛する人達や、ネット配信等で歌唱している人達(一応私もここに含まれるのではあるが…)、そしてプロ級の二人である。

無理無理無理。おそれ多い。という気持ちが勝ってしまった。今になってしまえば、もったいなかった気もするけれど、あのタイミングではそれでよかったとも思える(だから後悔はしていない)。

気づいたのだ。歌唱力をはじめとして歌うことについて格の違いがあるのは致し方ない。しかし、それとは関係なく誰もが持てるはずの覚悟が私には足りていなかったのだろう。本気度の違いと言ってもいい。ともかく、私にはそれが、少なくともあの時点では不足していた。その状態で、あの耳の肥えた――夢半ばにして光を失った数多の星々を知っている――参加者達の前で歌うのはやっぱりよくない。いざ歌えばお世辞の言葉は頂けたであろうが、それで気を良くして終わってしまっていたかもしれない。

私自身がどこを目指しているのかと問われると少し困るが、歌うのは基本的にカバーとなるので、何故その曲を歌うのか、という点は明確な答えを持っている状態で歌うようにしている。歌うこと、という大きな括りでの覚悟は持てなくとも選曲とその時の歌唱については覚悟を持とう。だからやっぱり、あの時歌わなくてよかった。でも同時に、今度同じような機会があればその覚悟を披露したいとも思った。

とても貴重な経験だった。




途中、プロ(級)の二人が一緒に何を歌うかを雑談しながら決めていた時に、他の参加者の方がある曲をリクエストした。快諾された。

え、待って待って。その曲、練習中(音覚え中)でしかもデュエット聞くと混乱するからまだ聴かないでいたのに、それ歌うの?!という状態に。聞きたくないのに聴きたいじゃん!

(聴き入る)

はぁあ〜。とんでもない。無加工・即興・生歌でこのクオリティーですか、と。

格の違いも覚悟の違いも見せつけられた私ですが、この曲はね、歌うと決めていたからね。


諸事情でしばらく歌えないと思われるので、納得の完成度ではないですが。(雨の中のファーストテイクとはいえ、一番好きなフレーズのところが……)

ふぅ。

さて、これで心置きなくデュエットの方を聞ける。幸福な今を噛み締めつつ。




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