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かないせいしゅこうぎょう

童話『つるの恩返し』では、鶴は助けてくれた男のためを思って美しい織物を仕立てます。最初に織った一反目は、純度100%の感謝と幸福の祈りが込められていたでしょうから、シンプルで洗練された美しさであったことでしょう。

二反目以降はというと、鶴のことを思ってお金を稼ぎたいがために空転する男と、それを分かっているからこそ生命を削ってでも織り続ける鶴の複雑な心模様が描かれていたのではないかと思います。

鶴が男に織る姿を見られたくないのは、当初は鶴であることをバレたくないという思いが強かったのかもしれません。でも二反目以降は私はこのように思います。それは、羽と涙を織り込む姿を見られることで男が鶴の手を止めてしまうという可能性と、見てもなお鶴の手を止めようとしない可能性。鶴はこの二つの可能性に行き着いていて、前者であれば結果恩返しが果たせない(と鶴は思い込んでいる)可能性が高くなるし、後者を心優しい男が選ぶなんて信じたくない、という思いが縦と横に交錯していたのではないかと。

答えを出すことの怖さに怯えながら、最後には相手のためを思って身を引く鶴のその姿に、儚くも美しいものを感じます。とはいえ、私が男の立場なら、独り寒空を翔けることを許すことなく引き止めるでしょう。だって、言葉の糸を二人で紡いで、そこから織り上げたほうがもっと素敵な生活が描けるじゃないですか。それこそが恩返しじゃないですか。

まあ、ちゃんと話し合っていればそもそも恩返しなんて要らないってことにも気づけたはずだよなーって、読むたびに思ってしまうんですがね。

(おわり)




余談。

織 識 熾 職

これらはすべて「戠(しょく)」というつくりを持ちます。「あつまる」とか「しるし」という意味です。個人的には「あつまる」を中心義として、「折り重なる」というイメージの方が好きです。
(「戠」自体はほこづくりと音の漢字なので、矛を重ね合わせることで音が鳴るイメージです。そしてそれは騎士団の紋章や武家の家紋のモチーフになりそうな気がして、しるしという意味にも繋がります)

糸を折り重ねて 「織る(おる)」
言葉を折り重ねて 「識る(しる)」
炭あるいは熱を折り重ねて 「熾る(おこる)」
(その人の肩書を)耳にする人が増えて(集まって) 「職る(つかさどる)」

幟(のぼり)なんていうのも、それを目印に人があつまるという意味な気がしますよね。


使われている漢字は少ないですが、好きなつくりです。そういうわけで、漢字が少ないなら創ってしまおうということでこんな漢字はいかがでしょうか。

忄+ 戠

(心や気持ちを折り重ねて)理解、考慮すること。深い感情や複雑な思いのこと。また、それを抱えている様。
音読みは「ショク」訓読みは「しる」が良いかな。「知る」よりも心の動きに注目した意味合いで使う。

〈用例〉
「心理学の知識ばかりでは本当にその人のことをー・ったことにはならない」
「あなたをもっとー・りたいから、たくさん話そう?」


間違いなく常用外。でもそれでいい。

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