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私の中に私はいないから

そこは無人島だった。
四方を見回しても人っ子一人いやしない。

私はとてつもなく不安だった。

その不安とは、どうやって生きながらえればいいか、というものではない。私が私であるという自信が私にはなかったのだ。

私は、自分というものがどういったものかをよく分かっていなかった。

ただ、周りのものが私の名前を呼び、私に触れる。それだけが、私が私であるということを確かめる術であった。それなのに……

無人だった。日が落ちたのか、そこは暗闇だった。

この無人島に私は一人でいるのか。

この暗闇に私は一人でいるのか。

一人。

独り?



パチンっと音がした。

「お疲れ様。良いスコア出たわよ。これなら選抜メンバー確実ね」

私の頭から重たいヘッドセットを取り外した白衣を来た女性が、私の母国語ではない言語でそういった。

有人での木星間航行の乗組員の選抜テストが終わった。5年以上の月日がかかる任務だが、宇宙空間を人との直接的な接触が無いままでいると精神が壊れてしまうのは多くの実験と先人たちの命により示されていた。

そこで考案されたのが、仮想空間をつくって、乗組員全員をそこで生活させることで精神を保全するというものだった。だが、第284VR船団で起きた重大な事故が原因で、この案は現在も凍結されたままだ。人との接触があらゆる問題の原因であることも歴史が証明している。

そのため、航行は独りで行かなくてはならないと時の政府が決定した。

これには、人間の本来持っている特性で対処する案が採用された。その案の軸は二つ。一つは、人間本来の想像力で仮想空間的なイメージをつくり孤独を感じないようにする方法――端的に言うと妄想の中に生きること。他方が、単純に独りでいることに強い人間をあてがう方法。だから私がテストを受けさせられたというわけだ。

私はその第4735HH船団の木星間航行のメンバーになるのだろう。私にお墨付きを与えた白衣の女性を見た。彼女が提言した「独りでいることを独りだと感じないことが、独りでいることへの最大の耐性である」という説を、私が裏付けることを彼女は望んでいる。

彼女の背中には、4734人分の怨嗟が見えた気がした。

適任はきっと彼女だと思った。


私の中に私はいないから、私は独りにはならない。でも、私は4734人を感じてしまったから、私は4735人のうちの一人になってしまった。

私は不安から解放された。


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