【創作小説】僕の世界にきみは居ない。
どうしようもない春。
桜がもうすぐ咲くそうだ。そんなこと、こんな私には関係ない。
だって、そんな景色を見ても、何も思わないから。
そんなこと、どうでもいいから。
私には。
「散歩いこ…」
お気に入りの猫耳が付いたパーカーに袖を通す。
昔、友達に「可愛い」と言われてから、それきり気に入っている。
褒められるのは嫌いじゃない。
玄関を開けて、外の空気を吸う。少しだけ優しい、甘い香り。
近くで木蓮が咲き始めているのだろうか。
夜道を歩く。そうしていると、この世界でやっと一人になれた気がして落ち着いた。
だから朝は苦手。昔からそうだった。それは、なぜだか私にもわからない。
ただ、朝日に当たると、肌が、頬が焼けるように痛む感覚に陥る。
少し遠くまで来た。そろそろ、近くの自販機でジュースでも買って飲みながら帰ろうかと、
坂道を歩いていく。
すると、
「なんだ、あれ…」
坂道の奥、暗闇の先に人影が見えた。
その時、私はある噂を思い出す。
なぜだかこの世界では「都市伝説が人と同じように暮らし、生活している」と。
都市伝説が、人間に擬態する。もしくは憑依して、その家族に成りすましたまま生き続ける、とか。
そんな噂話。
「噂話、だよな…」
そうであってくれと、こちらにゆっくり近づいてくる人影に願う。
しかし、なぜか安心感があった。
おかしい。
私は今、『嬉しくて、泣きそうになっている』
この感情は何だ。どうしてそんな気持ちに?
あの、人影は何なんだ?
『やあ、久しぶりだね。
…いいや、初めましてかなー。維花。』
電灯に照らされたその姿は、
女子高校生だった。
丈の短いスカートに、黄色い髪の癖毛。瞳は赤。
どこかで見たことがある彼女は、
こう、話を続けた。
『私はミスミ。これから維花にはこの世界の都市伝説と向き合ってもらおうと思ってね。
かっこいー。主人公だよ、きみ。』
そうクスクス笑う彼女の姿には、悲しくなるほど見覚えがあった。
でも、誰だか、
私には分からない。