オーク探偵オーロック『バースデイ』(幻の11話)

ベッドでうなされるオーロック。夢の中でMが囁きかける。

M「早く私を思い出せ。さすればお前の贖罪の旅も終わり、元に戻れる」
オーロック「お前は……誰だ」
M「まあ、Mとだけ名乗っておこう。もっとも目覚めた時にはこの夢を憶えていないだろうが……どれ、戯れに一つ介入してやろうか」

(トビラ)

ユナの夢。協会に来てしばらく経った頃のユナとBユナ。

Bユナ「ねえ、アンタ何月生まれ?」
ユナ「……どうでもいい。どうせ誰も祝ってくれないし」

憂鬱そうなユナにBユナがこう提案する。
Bユナ「なあ、ここに来た日を誕生日にしない? アタシたちを捨てた奴のことなんて忘れてさ」

ユナ、ちょっとびっくりした顔で肯く。

Bユナ「あはは、決まり。それじゃアタシたちの誕生日は……いつだっけ?」
ユナ「3月31日だよ」

ユナ、Bユナの寝相の悪さで目覚める。

ユナ、思わずBユナを起こす。

ユナ「なんでアンタが人のベッドにいんのよ!」
Bユナ「昨日の夜、面倒な仕事を片づけて凄く疲れたから手近なベッドにね……広いし、別にいいでしょ」
ユナ「誕生日でもないのになんで私がそんな優しくしてあげないといけないの!」
Bユナ「じゃあ、今日が誕生日。はい、おやすみ」
ユナ「アンタの誕生日は三月末でしょうが!」

ユナ、Bユナを無理矢理起こす。Bユナ、いささか寝ぼけ気味に。

Bユナ「あれ、アンタに誕生日教えたっけ?」

ユナ(そっか、もう私の誕生日を祝ってくれる人はいないんだ)

ユナ、感傷的になる。

(場面転換)

二人が居間に出ると見慣れない紳士がくつろいでいた。

シャーロック?「おはよう」(実はマイクロフト。ただしシャーロックっぽい雰囲気を作っている)

ユナ、思わず身構えかけるが、何かに気がつく(Bユナも身構えるが、それは上司が来ているという緊張から)

ユナ「……もしかしてオーロック? 人間に戻ったの!?」
シャーロック?「一時的にな。だがこの魔法は夜には解ける。そうなれば今話していることも忘れてしまうらしい」

シャーロック?、ユナに提案をする。

シャーロック?「ところで私の誕生日パーティーを開いてくれないか」
ユナ「相変わらず勝手なんだから……それでいつ?」
シャーロック?「1月6日だ」
ユナ「今日じゃない!」

ユナ、頭を抱える。

ユナ「そ、そういうことは早く言いなさい! 準備とか全然してないし……っていうか来る人にも都合があるでしょ」
シャーロック?「いや、考えようによっては当日に誘って来てくれる者こそ、真の友かもしれない。それを知る良い機会だ。ということでなるべく全員誘って欲しい」

ユナ、呆れる。

シャーロック?「ちなみに私があの姿に戻ってもパーティーのことは伏せておいてくれ。どうせ憶えていないのなら、自分にサプライズを仕掛けるのも面白いだろう?」

ユナ、ため息を吐く。

ユナ「解った。じゃあ、私は心当たりに直接お願いに行ってくる」

ユナ、Bユナにこう言う。

ユナ「アンタは……参加する人たちと殆ど面識ないから、ここでオーロックが戻った時のために待機してて」

Bユナ、曖昧な笑顔で了承する。

(場面転換)

昼下がり。屋外。チェアで優雅に本を読むジーヴス。傍らにはシャンパンの載ったテーブルが(全体的にオフっぽい雰囲気を出して下さい)。

ジーヴス、小説を読み終えて一人さめざめと泣く。

ジーヴス(お互いのことを思い合ったが故に別れる……なんて哀しい恋でしょうか)

涙を拭い、眼鏡をかけるとユナとレストレードとアルセーヌが立っていた。

ユナ「居場所が解らなかったから二人にも手伝って貰ったんだけど……ジーヴス?」

無言のジーヴス、シャンパンのビンをテーブルの端に叩きつけて割り、ギザギザになったビンを三人に向ける。

ユナ「こ、今夜オーロックに内緒で、誕生日パーティーを開くことになって、その支度をお願いしたいんだけど……駄目?」

ジーヴス、苛立ちで爆発寸前という表情になる

ジーヴス「よくもそんな……」
ユナ「ひっ」
ジーヴス「オーロック様の誕生日には幻の食材をふんだんに使った最高のフルコースを振る舞う予定だったのに……今から狩りに行っても調達が間に合いません!」

(※ユナ、「え、そっち?」的なリアクションを)

ジーヴス、ビンを手放すと支度を始める。

ジーヴス「まあ、それは来年以降の楽しみにとっておくとして……すぐに支度にとりかかりましょう」
ユナ「できるの?」
ジーヴス「私は比類なきジーヴスですよ? しかし人手は欲しいですね」

レストレード「俺たちは無理だぞ。まだ仕事が残ってる」

ユナ「人手ねえ……一人いるけど、もっと必要よね(Bユナを思い浮かべながら)」

ユナ、何かを閃く。

ユナ「心当たりにお願いしてみるから、先にウチのキッチンで作業してて」

(場面転換)

三時過ぎ。キッチンで忙しく料理するジーヴスはBユナの方を振り向く。

ジーヴス「野菜はどうなってます?」

Bユナ、ボールに小盛りぐらいの野菜の山を黙って差し出す。

ジーヴス「おや、これっぽっちですか? それにカットまでお願いしてませんが……」

Bユナ、羞恥に震えながら告げる。

Bユナ「皮剥いただけなのにこんなに小さくなっちゃって……」
(※「傍らにめちゃくちゃ厚く剥かれた野菜の皮とかあると説得力あるかな?」と思いましたが、伝わりにくそうだったらカットで)

ジーヴス「……念のために沢山材料を買っておいて正解でしたね」

傍らではアルヴァがマッシュポテトを作っている。

アルヴァ「♪ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃ」
(往時の狂気を感じさせるとgood)

ジーヴス、眉を顰める。

ジーヴス(人手が欲しいとは言いましたがまさか料理オンチと子供とは。まあ、子供は役に立ってるだけマシですね)

ジーヴス「イルヴァ、挽肉はどうなってますか?」

ジーヴスがイルヴァの方を向くと挽肉の塊で”何か”を作るイルヴァが。
(五話のあの死体っぽく。サイズはお任せします)

イルヴァ「ママ……」

ジーヴス「そこ、食べ物で遊ばない!」

そこに寝起きのオーロック(実はずっと眠っていた)が。

オーロック「……これは何の騒ぎだ?」
ジーヴス「ええ、ちょっと誕……」

Bユナ、後ろからシャンパンの栓を飛ばしてジーヴスの後頭部(アングルの都合でアゴ等でも可)を撃つ。睨むジーヴスにBユナは人差し指を口に当ててアイコンタクトを飛ばす。

Bユナ(オーロックにはパーティーのことは内緒なの!)
ジーヴス(そういうことは早く言いなさい!)

オーロック「たん?」

Bユナ(なんとか誤魔化さないと)

Bユナ「た、蛋白質の多いものを食べたくなって。どうせならみんなで作ろうって……オーロックの分もあるし」

ジーヴス、呆れる。

ジーヴス(誤魔化すのも下手!)

オーロック「そうか。蛋白質は身体を作るためには欠かせない。夕食が楽しみだ」

しかしオーロックは特に追及しなかった。ジーヴスとBユナは安堵する。

オーロック「そういえばユナの姿が見えないが」
アルヴァかイルヴァ「お姉ちゃんならゾウさんに会いに行くって言ってたよ」

ジーヴスとBユナ、土気色した顔になる。

オーロック「ああ、メリックか……しかし何の用があるんだ?」

Bユナ、慌てて手を挙げる。

Bユナ「さあー。さっぱり解らないけど、帰りが遅いし、一緒に探しに行かない?」
オーロック「ふむ、じきに日が暮れる。迎えに行くか」

(場面転換)

ロンドンのとある繁華街。
※カペラは同性愛の傾向があり、タチっぽい気の強そうな美人が好きだが、下品なファッションは好みではない。

カペラ、街で若い女性を物色している。まずファッションセンスは良い塩梅だけど顔が地味めの女性を視界に収める。

カペラ(いいセンスですけど、大人しそうですね……)

次にやや下品なファッションをしている女性を見てため息を吐く。

カペラ(品がないですね……割とタイプなのにもったいない)

やがてカペラ、雑踏の中でBユナの顔を見つけ(タトゥーのない側の横顔が眼に入る感じ?)、心を射貫かれる。だが、すぐに全身が眼に入ってさあっと血の気が引く。

カペラ(え、あの格好……)
(ないわー!)

ドン引き(ジャイアント・バックステップ)

しかし、そんな派手な動きをしてオーロックとBユナの目に留まらない筈がない。

オーロック「おや、あれはロイズのアンダーライター……」
Bユナ「ダチ?」
オーロック「以前、ある事件でな」
オーロック(別に友人ではないが)

Bユナ、シャーロック?の姿を思い出しながら悩む。

Bユナ(うーん、ダチなら呼ばないと後で絶対に怒られるしなー)

Bユナ「アタシ、用事思い出したから一人で行ってて」

Bユナ、そう言ってオーロックを残し、つかつかとカペラに歩み寄る。カペラ、そそくさと逃げようとするがBユナに壁ドンされる。

Bユナ「ねえアンタ、これから暇?」
カペラ(ええ、まさかのナンパ?)

カペラ、顔はどストライクなのにファッションが受け付けない葛藤(台詞で書くのもやらしいので、表情や反応で描いていただけると幸いです)と戦いながら、なんとか理由を付けて断ろうとする。

カペラ「いきなり誘うなんて非常識です……こっちにも都合がありますから」
Bユナ「そりゃ、悪かったと思うけど……ほら、アレ見て」

Bユナが親指で指した先にはオーロック……はいるものの、カペラはオーロックの後ろのいかがわしい宿(※この時代にラブホテル的なものがあったのかは解りませんが、ニュアンスで)を指しているものと勘違いする。
カペラ、Bユナに性的に襲われるイメージを思い浮かべて震える(しかし微妙に嬉しい)。

カペラ「け、ケダモノ……」
Bユナ「そりゃそうだよ。何か問題でも?」
カペラ「いえ……お顔は大変好きなんですけど、ファッションが受け付けなくて……」

しかしBユナ、自分のことを言われているとはつゆ知らず、オーロックの姿を思い浮かべて「逆じゃね?」と首を傾げる。

Bユナ「いくらなんでもひどくない? ダチでしょ?」

カペラ、地雷を踏まれ、突然キレて平手打ちをする(七話でアルセーヌに見せた怖い顔で)。

カペラ「誰がタチだって。このビッチが」

Bユナ、臨戦態勢になる。

Bユナ「もうアッタマ来た。首ねっこ掴んででも連れてって……」
カペラ「ネコで悪いか!」

オーロック(あの二人、いつから知り合いに?)

街中で戦い始めた二人を見て、オーロックは首を傾げつつ先へ向かう。

(場面転換)

夕暮れ時。ユナは宮殿の方からとぼとぼ引き返してきた。

ユナ(流石にメリックさんは面会すら無理だったか……まあ、大変な仕事だもんね)

そこにオーロックが現れる。

ユナ「オーロック、もう戻っ……どうしてここに?」
オーロック「メリックに会いに行ったと聞いてな。迎えに来たぞ」

(場面転換)

二人は馬車に乗っている。しかしユナ、バレてないかとそわそわする。

オーロック「お前たちはつくづく隠し事が下手だな」
ユナ「え、何のこと?」
オーロック「名探偵相手にとぼけるのか? キッチンの状況とあいつらの下手な誤魔化しを見たら一目瞭然だったぞ」
ユナ「そう、バレちゃったのね」

ユナ、観念してうなだれる。

オーロック「今日はお前の誕生日なんだな!」

無謬の推理発動。ユナ、一瞬の間の後に何が起きたか理解して思わずオーロックの頭をグーで殴る。

ユナ「この馬鹿! 人の誕生日を何だと思ってんのよ!」
オーロック「違ったのか?」
ユナ「今日はアンタの誕生日でしょうが! ったく、誰のせいでこんな苦労してると……」

ブツブツ言うユナ。しかしオーロックは推理を外したことで呆然としている。

オーロック(おかしい。私は自分の誕生日をユナに話したことはないし、他に誕生日を知っている人間なんて……)

解せない思いを抱えながらオーロックはユナと共に帰宅。すると皆(レストレード、アルセーヌ、ビクトワール、双子、なんかボロボロになったBユナとカペラ)が声を揃えて出迎える。

「「「オーロック、ユナ、誕生日おめでとう!」」」

ユナ、複雑な表情で笑う。

ユナ(あー、本当に今日が誕生日になってるし……)

だが、参加者たちの姿を見てすぐに思い直す。

ユナ(そうか、誕生日って祝ってくれる人がいて初めて意味が生まれるんだ……)
(だったら……今の私の誕生日は1月6日でもいいか)

じんわりしていたら、参加者の中にシャーロック?の姿を見つけてしまう。

シャーロック?「随分と遅かったな、オーロック?」

そう言ってシャーロック?は帰り支度を始める(例のフード付きマントを羽織ることでマイクロフトになる)。その姿をオーロックとユナは絶句して見ていた(ユナは事情が解らず、オーロックは事情が解ったが故に)

アルヴァかイルヴァ「え、おじさんもう帰っちゃうの?」
マイクロフト「何かと忙しい身でね。まあ、顔を出せて良かった」

「ごきげんよう」と言い残して出て行くマイクロフトをオーロックとユナは追う。

オーロック「マイクロフト!」

ユナ、無尽蔵書を動かす。

ユナ(マイクロフト……ホームズのお兄さん! でもただのお役人の筈がどうして?)

オーロック「随分と痩せたな」
マイクロフト「太る余裕なんてあるものか。お前に任せていた仕事を私がやる羽目になったのだからな」
オーロック「私のことが解るのか?」
マイクロフト「解るとも。私には”無尽蔵書(ブックエンド)”があるからな」

眼を光らせるマイクロフトに、唖然とする二人。

マイクロフト「この能力を活かして、お前の振りをして一芝居打ったという次第だ」
マイクロフト(まあ、潜入中の”神聖悲劇(バッドエンド)”に強力な睡眠薬を盛らせたのだがな)

ユナ「なんでわざわざこんなことを……」
オーロック「誕生日を利用して、私の人脈を把握しておきたかったんだろう。そういう男だ、こいつは」
マイクロフト「否定はしない。特に比類なきジーヴスとロイズのカペラはA級、ウチにも欲しいぐらいだが……それ以前に今のお前が孤独でないことを確かめたかった。前は一人に依存し過ぎて失敗した。今度は同じ轍を踏むなよ」

オーロック、ワトソンのことを思い出して押し黙る。

マイクロフト「そうだ。忘れていた。お前に一つ警告がある。切り裂きジャックをもう追うな」
オーロック「何故だ?」
マイクロフト「どうせ理由を言っても納得しまい。それなら言うだけ無駄だ」
オーロック「どうしても奴を追うと言ったら?」

マイクロフト、答えずに背を向け、歩みを進める。納得できない様子のオーロックがずいと前に出ると、不思議な力で跳ね返された。見ればいつの間にかフードをつけた二人の人物が立っている。

マイクロフトはオーロックに背を向けたままこう告げる。

マイクロフト「好きにしろ。私たちを敵に回す気があればの話だが」

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