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第一回邦キチー1グランプリ用原稿『雀鬼3』

街中。邦キチとデート(?)の待ち合わせをしている私服の部長。

部(邦キチの奴、『少し遅れる』ってLINEしてきたけどまだか……)

部長の隣にはペラペラと喋る池ちゃんが。

池「……でさあ、最近は仕事が忙しくってさあ」

邦キチを待っていたら、たまたま通りかかった池ちゃんに捕まった部長。最初は時間潰しで話を聞いていたが、だんだん鬱陶しくなってきた。

部(忙しい奴が高校生捕まえてこんなどうでもいい話するわけないだろ)

池「でもただ手を動かしているだけじゃ生産力が上がらなくてジリ貧になるかもだし、ここらで何かしらのイノベーションが欲しいんだよね」
部「お前さ……盛ってないか?」
池「え?」
部「ただのバイトなんだから、仕事がそんな忙しくなるわけないだろ」
池「いや、noteの記事書くのもオレにとっては仕事だし、コンテンツの摂取だって仕事だぜ?」
部「お前のnoteの記事は食えるほど金取れてるのか? それなら仕事って呼んでもいいと思うが……」

池ちゃん、論破されたと思いきや構わず話を再開する。

池「盛ってると言えばさあ……オレも自己肯定感というバフを盛っていきたいんだよね」
部(コイツ、流れるように自分の話にまた繋げた?)
部(追い払えない……)

池「だから最近は伝記映画を観てそのヒントを掴もうと思ってるんだ。一流の人間の人生からは学べることが沢山あるしね」
部「ああ……そういうのな」
池「洋一は苦手か?」
部「ちょっとな。全般的にやたらと美化しすぎてるというか……」
池「確かに、主演はほぼ美男美女になるね……」
部「それもあるけどキャストの美醜の問題じゃなくて、時には色んな人やイベントを”なかったこと”にするだろ? ああいうのが駄目なんだよな」
池「若者らしい潔癖症だなあ。人間の人生というカオスを作品にするにあたって取捨選択は必要だと思うぜ。どのみち、大衆は表層的なものしか見ないんだから、何でも美しくしとけば間違いないだろ?」

部(お前も若者だろうが)
部(早く来てくれ邦キチ……)

部長の祈りに呼応するように現れる邦キチ。完全にデートの装いの邦キチだが、心なしかいつもよりも胸が大きい(あるいは胸が強調された服装になっている)。

部(邦キチ、お前……)
部(もしかして盛ってないか?)
部(いや、俺の気のせいかもしれない)
部(第一、そんなこと訊いたら俺が普段から邦キチの胸を見てると思われてしまう)

池「もしかして見てた?」
部「うわー、俺は別に何も……」

不思議そうな顔で部長の顔を見る池ちゃん。

池「いや、オレは映子ちゃんに訊いたんだけど」
部(なんだ、紛らわしい……)
邦「はい、見てましたよ。どこからどう見ても仲良しのお二人です」

邪な心を見透かされずに済んで安堵し、そして池ちゃんと仲良しに見られてゲンナリしている部長。

邦「お二人は何の話題で盛り上がっていたのでありますか?」
池「ちょっと伝記映画の話をしてたんだよ」

邦キチ、何か思い当たるような顔になる。

邦「流行ってますよね、伝記映画」
部「お前の中だけじゃなくて?」
邦「『さかなのこ』や『浅草キッド』は伝記映画ではないと?」
※「どっちもこの漫画お馴染みの柳楽優弥が出演してます」

池「おいおい、洋一。その辺は基本だぜ? でも映子ちゃん、オレは芸能人系のやつはそこまで刺さらなくてさ。なんというか再現性がないじゃん? やっぱりビジネスパーソンの自伝の方が芯を食った感があって、最近だとナイキの成功を描いた『AIR/エア』とか……ペラペラペラ」
部(実業家の成功もほとんど再現性ない気がするが……)

邦「おや、池ちゃんはそういう方向の伝記映画が好みなのでありますか?」

部(今回はこいつに聞かせられる話はないだろう)
部(というかさっさと追い払おう)

邦「だったら私、丁度良いものを知ってますよ」
池「マジかよ映子ちゃん?」
部(馬鹿っ、やめろ。このままさよならできそうな流れだったのに)
池「一体、誰の伝記映画?」

邦「それは勿論、雀鬼こと桜井章一です」

部「誰だそれ?」
池「桜井章一だろ? 知ってるよ」

池ちゃん、食い気味に。

池「麻雀が強すぎて『20年間無敗の男』になってしまったばかりか、引退後は雀鬼会道場を開いて、多数の本を出版。ビジネスパーソンたちでも信奉者は多くて、あのサイバーエージェントの藤田晋社長は雀鬼会出身だし、羽生善治などの一流の勝負師たちからもリスペクトされる存在。ある意味、究極の自己啓発者なんだよ」
部「やめろ、お前が何か言えば言うほどなんか胡散臭くなる!」
部(今の環境でまた変な影響受けてるんだなコイツ)
部「なんか凄い人なのは解った……でもどんな伝記映画なんだ?」
邦「雀鬼シリーズ、これはですね……」
邦「伝記の、コミカライズの、実写化なのですよ」
部「何の何の何だって?」
邦「まず『伝説の雀鬼』という伝記があり、それをベースに作られた漫画『ショーイチ』があるんです。この『ショーイチ』も凄くて……雀鬼は経営している貿易会社を成功させながら、多額の金が動く麻雀の代打ちをしているのに、お金には執着しないイケメンということになってます」
池「桜井章一って実業家だったのか……初めて知った」
部「いや、金に執着のない経営者ってどうなんだ?」
邦「しかも漫画版の第一話では、偽桜井章一(本人そっくり)を主人公の桜井章一(本物に似てないイケメン)が退治するという念の入れっぷり! つまり現実の桜井章一のイメージから更に踏み出して、完璧超人としての雀鬼を創造したわけです」

※「漫画はK○ndle U○limitedでも読み放題でするよ」とフキダシ外に。

邦「この滅茶苦茶に面白い漫画を更に実写化したんですから、そりゃ当然のように面白いんです。特に雀鬼を演じる清水健太郎の壮絶な色気たるや……2.5次元感が凄いんですよ」
部「その頃にそんな言葉はないけどな」
邦「中でも特に凄いのが『雀鬼3』。家族を盾に脅迫された雀鬼が、どこかの大使館に連れて行かれて、治外法権の麻雀を打たされます」

※「原作の4巻と5巻に収録されててます」「強敵、鈴銀役の宍戸錠も格好いいんですよ」とフキダシ外に。

邦「各国の富豪たちがブラックマネーを賭けて一流の雀士たちに打たせるわけです」
部「おおっ、今で言うところの、汚い金持ちが主催するデスゲームみたいだ!」
池「じゃあ、富豪たちは苦しみながら戦う雀士たちの様子を楽しそうに眺めているってわけか」

邦「いえ、時代設定的にカメラとかはないので富豪たちは雀鬼たちが打ってる様子を直接見ることもなく、別室で点数だけ聞いて喜んでるんですよね」

※「ミスター・サクライ、プラス20」という台詞
※「しかもバスケの試合みたいな点数表示で」

部「汚い金持ちの癖に行儀良すぎない?」

邦「勿論、雀鬼の監修もあって、麻雀シーンはしっかりしてます」
※牌をスパンスパン切っていく。
邦「あとモブの筈なのにやたらキャラの濃い雀士たち(雀鬼会の人だそうです)」
部「モブが作品を邪魔したら駄目だろ……」
邦「いえいえ、清水健太郎と宍戸錠の濃さも相当なので不思議と調和するんですよ」

※他にも「イカサマシーンのなんか変な効果音」「くるくる回る發」「突然、服を脱ぎ出す敵」「そもそも巻き込まれた陰謀やゲームのルールがフワフワでよく解らん」とかクスクスポイントはありますが適当に。

部「でもそこまで行くともうモデルも原型を留めてないわけだろ? 雀鬼本人はどんな思いで観てたんだ」
邦「それがですね、雀鬼(本物)はカメオ出演してるんですよ。しかも毎回違うモブ役で」
※『雀鬼4』だとモブを超えて、清水健太郎に道を示す大事な役をやってる。
部「出た、『さかなのこ』でもあったご本人登場!」
部「しかし一体どういう感情で出演してたんだ……」

部「でもさあ……こういうこと言うと野暮かもしれないけど、流石に大使館で治外法権麻雀打ったのは嘘だよな?」

邦キチ、微笑む。

邦「こういうものは盛りすぎてナンボなんですよ」
部・池「盛りすぎてナンボ!」

驚く部長と池ちゃん。

邦「作品が面白くなるなら盛ってもいいではありませぬか。むしろ限界まで盛るのも腕でしょう」
部「確かに、この盛り方は余人には真似ができない……」
部「だ、だがフェイク要素を入れるにしても、誠意が必要だろ。間に受ける奴だっているかもしれないし……」
邦「よいではありませぬか。誰も不幸になってないのですから。第一、間に受けて困るような嘘ですか?」
部「そりゃそうだが……」

池ちゃん、何かに気づく。

池「そうか……」

池「例えば主演をモデルと似てない美男美女にするやつ、確かにモデルの関係者もファンも主演俳優のファンも厭な気持ちにならないし、当然事情をよく知らない視聴者だって気持ちよく観られる……」
邦「そう、いわば全員が共犯関係にあるとも言えましょう」
部「言い過ぎ言い過ぎ」

池「そうか、今のオレに足りなかったのはこれかも」
池「受け手と共犯関係を築いて……いい意味で盛っていく……」
部(絶対、なにか的外れなこと考えてるな……)

池「こうしちゃいられない! じゃあ、お二人さんはデート楽しんできて!」

池ちゃん、ウザい顔で走り去る。

邦「池ちゃんは相変わらず面白いでありまするなー」

部長、池ちゃんの背中を眺めながらつぶやく。

部「盛るのも共犯関係なら許される……か」

部(言われてみれば俺は邦キチが語ってきたヤバい映画を後でちゃんと観てないことの方が多いな)
部(だからこいつが語っている内容がどこまで妥当なのかも解らん……)
部(でも、仮にこいつが俺を楽しませようとして話を盛ってくれているなら……それは悪い気分はしないな)
部(俺たち、そういう共犯関係なのかもな)

部長目線で邦キチのバストアップ。
→邦キチが部長を意識して胸を盛ったかどうかは不明にしておく(その方がこの作品らしいから)だが、「仮に胸を盛っていたとしたら、それは自分を意識して盛ってくれたということなので、素直に嬉しい」と邦キチとの共犯関係を受け入れる部長。

邦「部長、どうしたのでありますか?」
部「別に……」
部「ただ、仮に俺たちの青春が映画化されたとして……盛られすぎてもそれはそれでいいかもなって思っただけだよ」

どこかへ去る二人の背中(終)

所感

・『雀鬼3』が一番外連味に溢れていて好き(あと3の清水健太郎がありえんほどセクシー)
→外伝や『真・雀鬼』に触れるとノイズになりそうだったので『雀鬼』シリーズのみ。なので別に3でなくても構わない。
・『雀鬼3』の話を邦キチと接続するための切り口を『盛る』にしようと思いついたら後は一本道だった。
→副次的に邦キチとのウフフシーンや池ちゃんも自然に(?)出せたので満足しているが、『雀鬼3』の占める割合は減った。
・仕事の原作ではないのと、尺の感覚がないので敢えてブラッシュアップせずにラフに。
→特に映画本編の内容についての取捨選択作業は作者の領域なので。
→邦キチの口調は厳密にはもっと寄せる余地があったが、そこを頑張ると仕事になってしまうのでここもラフに。


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