綺麗な東大生がヤクザの代打ちに堕ちていく話を読みたくありませんか? ~『天牌』のススメ~
・はじめに
『天牌』(原作:来賀友志 作画:嶺岸信明)は2020年末現在、107巻まで刊行されている麻雀漫画で、このジャンルでは前例のないほどの長寿連載なのですが、巻数が多すぎるのと掲載誌が漫画ゴラクというのもあって、「読んでる人は読んでいるけど、読んでない人は読んでない」状態というか、参入障壁が年々高くなっているのではないかと感じておりまして……
「そろそろご新規さんの新鮮な感想が見たい!」
という邪悪な気持ちに負けてしまいました。そんなわけで年の瀬に仕事も納めずにこんな記事を書いてます。
・『天牌』ってどんな話?
「来賀節」と呼んでも差し支えないようなクレイジーな展開や台詞があって、そこにとても痺れるんですが、今回は敢えて紹介しません(そこを語り出すと止まらないので)。その辺を省いてざっくり要約すると、「麻雀で生きていきたいと願う主人公、沖本瞬(24)が麻雀を通して様々な出会いと別れを繰り返し、超一流の打ち手に成長していく物語」でしょうか。
(主人公の沖本瞬。この頃はまだ髪がペタっとしてる)
瞬、序盤こそピンチも結構多いんですが、少し場数を踏んでからは凄い勢いで強くなるのでほぼ負けなくなります。なので途中からは主人公というか、触れた者の運命を大きく狂わせる特異点と化してます。瞬の「好きなことに打ち込んで生きていきたい」という青い感情自体には割と普遍性があるのですが、瞬の麻雀バカぶりはちょっと度が過ぎているので、読んでいて素直に感情移入できない場面も結構ありますね(あと瞬が「俺、なんかやっちゃいましたか?」系の物言いをするのもそれに拍車をかけてます)。
しかしそのお陰で瞬という巨大な才能に翻弄されるもう一人の主人公……よっちんが非常に美味しく仕上がっているんですよね。なので今回はもう一人の主人公であるよっちんに絞って『天牌』を布教してみます。
・よっちんについて
本名、伊藤芳一。東大工学部に通ってる。実家は医師の一族で、運動神経も抜群。"麻雀職人"黒沢義明の弟子(瞬より歳下だけど兄弟子)。
(なんか最初はVネックに金ネックレスというチャラい格好ですが、キャラが固まってからは黒のタートルネックが定着しました)
上記の設定に加えて、家庭教師先で知り合った海輝という目の見えない男の子に勇気を与えるために頑張っているという盛りすぎ好青年(ここは「自分のために麻雀を打っている」瞬と「海輝のために麻雀を打っている」よっちんという対比なんでしょうけどね)。
そんなよっちんですが麻雀上のいさかいから親友と絶縁し、連鎖的に海輝と一緒に居られなくなります。負けられない理由を失ったよっちんがぶつかったのが……よりにもよって瞬だったわけです。
(よっちんの態度も悪いけど、このタワシ頭も人の心が解らない)
この敗北でよっちんの人生は大きく狂い始めます。瞬は麻雀バカですが、よっちんは麻雀以外にも無数の選択肢を持つ青年です。にもかかわらず、よっちんは麻雀を捨てられなかった。そして強くなるために裏麻雀の世界に踏み入れ……怪物に呑み込まれます。
瞬への敗北なんか問題にならないほどの完敗、よっちんの心はもうバキバキに折れてます。そんな弱ったよっちんが会いたいと強く願ったのは師匠である黒沢さんでした。愛しい者たちと別れてしまい、黒沢さんが最後の心の拠り所になったわけですね。
ところがどっこい……よっちんを待っていたのは黒沢さんとの別離でした。なんということでしょう!(いや、あの別離は泣きたくなるぐらいの名シーンなのでそこは自分の目で確かめて下さい)
師を失った後のよっちんは更におかしくなっていきます。ヤクザの代打ちになったり、麻雀で一人の人間を破滅させたり、カタギと決別するために刺青を入れたり……よっちん自身による「堕ちているのか、それとも昇っているのか」という独白がありますが……どうみても堕ちっぱなしなんだよ!
(お前、そんなこと言う奴じゃなかったでしょ!)
よっちん、こんな感じで以降どんどん黒くなっていきますが、だからって劇的に強くなるわけじゃないのがこう……美味しいんですよ! 黒くなってパワーアップ→ボコられる→黒くなってパワーアップ→ボコられる、のループは涙なしに読めません。
(王様ゲーム編より。怖いおじさんにボコられて瞳孔が開いちゃったよっちん。かわいいね)
『天牌』世界においてよっちんは一流の打ち手です。しかし超一流ではないので、ありとあらゆる理不尽に晒されます。よっちんから目が離せないのは、我々のような凡人もまた理不尽に翻弄される側だから……かもしれませんね(雑にまとめやがって)。
・Kindle Unlimitedなら『天牌』35巻まで読み放題!
Kindle Unlimitedは月額980円で、登録されている書籍が読み放題のサブスクサービスですが、2021年1月4日まで入会金が99円(二ヶ月分)で利用できるそうです。
『天牌』は35巻までが読み放題対象です。
(『天牌』シリーズのリンクです)
今回はよっちんに絞った紹介をしましたが、『天牌』世界には頭がおかしくなりそうな男男関係がブービートラップのように仕掛けられています(詳しくは説明しませんが4巻の「路面キス」とかオンリーワンのヤバさです。マジで読んで!)。その辺に敢えて引っかかりに行くのもまた一興かと。
(ちなみによっちんの彷徨にひとまずの決着がつくのは40巻なので、読み放題対象から外れてしまうのですが……まあ、そこはそれ)
追記
ちなみにKindle Unlimitedなら『天牌外伝』も25巻まで読み放題です。
『天牌外伝』は瞬と出逢う前の黒沢さんたちの物語……つまりプレ『天牌』です。よっちんと黒沢さんの出会いという重要な過去も描かれているので、本編が気に入ったのなら序盤の方だけでも読むことをオススメします。基本的に短いエピソードで構成されているので気楽に読めますよ(特に黒沢さんとよっちんの組み合わせが延々読めるのがアドですよ)。
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