#19.チグハグ
非凡であることに憧れている。
平凡ではない何かになりたい。
思考から溢れ出た言葉が知らぬ間に辺りを揺さぶって密かな衝撃として人に記憶されるような面白さと感性がほしい。
必ずしも「非凡」でなくたっていいけれど、紋切り型の表現ばかりが口をついて出る私にとって非凡の輝きは遠くのものでありながら身近に在るわかりやすい星だから、「非凡」を自分の対角線の頂点に置いて眺めている。
平行線ではなく対角線を描くのは、平凡ではない何かになることを未だ諦められずにいるからだ。いい加減自分が平凡であることを認めねばという内心の奥に平凡から抜け出したくてたまらないと叫ぶ非凡への執着がしつこく居座っていて、私はこの欲と自身の可能性とを都合よく勘違いしながら生きている。
おかげで、私の日々はチグハグで落ち付きがない。Spotifyで見つけたあの曲、聴き終えてからお気に入りリストに追加したときの満足感は何に対してのものだっただろう。好みの音楽がまた一つ集まったことか、それともまだ多くの人には知られていない隠れたものを見つけた自分は平凡から抜け出しつつあるかもしれないという感覚を味わえたことに対してか。
もはや最近何かを好ましく思うとき、それを好ましく思うことの希少さを自分の非凡さの証としたいが故に好きになろうとしているのではないかという気がしてならない。「(非凡)っぽいな」で物事を測る虚しさを後ろ手にチグハグのまま「これ好きなんだよね」と話す人間の感性はどこにあるのか。
歪んで割れて繕って、それでも私はただ非凡であることに憧れている。
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