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#10.今夜の心臓

慣れた布団に包まれて、夜明けを待つ。

今夜の心臓は、まるで私の身体に溶け込むのを拒むように、ひときわ高く輝いて、深く沈んで、生きている実感というより、漠然とした不安を生成している。

眠りにつく行為とひどく相性の悪いその感情が、私の味方であるはずもなく、瞼を閉じるたびに蠢き、忘れないでと叫ぶ。
モラトリアムの終わり、立ちすくむ日々のうちに失った瞬きを、どうか――。
おかげで、耳に流す音楽も救いになる前に捻れて消えた、打つ手なし。

せめて心臓が一等星ならよかった、とか馬鹿なことを思う。きっと綺麗でしょ。それなら、私は、今夜上手く眠りに就けた、上手く「私」を生きることができた筈だった。

眠りたいのに眠れない、まだ星が輝いている。
どうしよう、夜明けが、遠い。

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