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モチベーション・マネジメントのメタ理論:Deci&Ryanの自己決定理論(2)

前編では、自己決定理論(SDT)の基本的な考え方と、基本的心理的欲求の内容、モチベーションの向上に向けた経営者の役割について説明しました。後編では、1989年にエドワード・デシらが発表した研究成果をもとに、「基本的心理欲求」に配慮したリーダーシップが、メンバーの自律性や職場満足度、組織との信頼関係にどのように影響するかを、解説します。

※前編をまだ読んでいない方は、先ずコチラからお読みください。


1989年の研究成果

自己決定理論を提唱したデシとライアンは、1989年の論文で、アメリカの大手企業のサービス部門計1,000人を対象とした実験を実施。オフィス機器の修理を担当する技術者をまとめるマネージャーを対象に管理職研修を行い、以下の三つのポイントに関してマネジメントスタイルの変化を促す介入を行いました。

  1. 選択と意思決定参加機会の提供

  2. 情報型フィードバック

  3. 部下の視点や感情の受け止め

この結果、マネージャーらのマネジメント手法は実際に変化し、部下たちの職場環境への認識もポジティブに変化しました(組織への信頼の高まり、自分の声が届く満足感、プレッシャーからの解放、質の高いフィードバックへの満足感、など)。
Google scholarで引用数が4,000を超える、経営学の重要論文の一つです。

自律性を支援するリーダーシップの重要性

この研究では、マネージャーがどのようにして従業員の自律性をサポートできるかに焦点を当てています。彼らの研究によれば、マネージャーがメンバーに対して「自律的な選択や行動を奨励する」環境を作り出すことで、メンバーの満足度や組織への信頼感が劇的に向上することが示されています。特に、マネージャーが指示命令的でなく支援的である場合、メンバーは自分の仕事に対して主体的に取り組む傾向にあります。

この研究の結果から、メンバーの主体性を引きだすにはメンバーが自ら意思決定を行い、問題解決に参加できる環境を提供することが重要であることがわかりました。リーダーシップが「自律性をサポートする」方向にシフトすることで、メンバーの仕事に対する意識が変わり、モチベーションや責任感が高まるのです。

情報型フィードバックと従業員の有能感

有能感を高める上で重要なのがフィードバックです。特に、フィードバックが情報提供的であり、メンバーが自身の成長や改善を実感できるものであれば、有能感が高まり、より積極的に仕事に取り組むようになります​。例えば、「よくやった、優秀だな。」というような曖昧な表現でなく、「君が性能評価のわかりやすい解説を付け加えてくれたことで、先方の価格への納得感が増した手応えがあった。可視化して、定型の説明資料に追加することはできそう?」など、部下の具体的な行動や成果に関して建設的なフィードバックを提供することで、その人は自分が有能であると感じ、さらに自己改善に努めることができます。

一方で、フィードバックが指示命令的な内容だと、部下は外部からの圧力を感じ、モチベーションが損なわれることがあります。デシらの研究でも、指示的なマネージャーの下では、メンバーの満足度や信頼感が低下する傾向があることが確認されています​。従って、メンバーへのフィードバックは、指示的な内容にせず、本人が自らの現状を理解したり、改善や成長のヒントとなる、有益な情報として提供することが重要です。

関係性の構築と信頼の醸成

自己決定理論では、メンバーとの「つながり感」も重要な要素として強調されています。1989年の研究によると、マネージャーが部下の感情や言葉に耳を傾け、彼らの視点を尊重することが、職場への満足度や組織全体への信頼感を高める結果をもたらしています。これは、組織メンバーが自分の意見や感情が尊重されていると感じることで、職場に対するポジティブな感情を抱きやすくなるためです​。

特に、研究では「信頼」が大きな要素として浮かび上がっています。マネージャーが部下の自律性をサポートし、フィードバックを情報的に提供することで、そのメンバーはマネージャーだけでなく、組織全体や経営陣に対しても信頼を深めることがわかりました。
つながり感は、組織のメンバーが組織の目標を自分ごととして受け入れる上で欠かせない要素です。組織とメンバーの間に強い信頼関係を築き、メンバーに組織やチームの目標に向けて高いモチベーションを持って取り組んでもらうためには、チームメンバーの声を積極的に拾い、感情に寄り添い、彼ら・彼女らの視点を理解しようとする「聴く」リーダーシップが求められます。

リーダーシップ研修の効果

1989年の研究では、マネージャー向けのリーダーシップ研修が、自律性を支援する行動を促進するために有効であることが確認されました。特に、部下に対して非指示的な情報型フィードバックを行い、彼らの視点を尊重するリーダーシップスタイルを学ぶことで、マネージャーの行動が改善され、メンバーらの職場環境への満足度と組織全体への信頼感の向上につながりました。このことは、マネージャーに対する適切な教育や研修が、従業員のモチベーションの向上と従業員と組織全体の信頼関係の構築に不可欠であることを示唆しています。

企業経営への示唆

従って、この研究の経営者への示唆は、自分自身のマネジメントスタイルに自律性をサポートするリーダーシップスタイルを取り入れることと、現場の管理職のリーダーシップ教育に自己決定理論の要素を取り入れることの、2点です。
自律性の支援方法を学ぶことで、マネージャーは部下との信頼関係を深め、チームのメンバーから仕事に対してより強いコミットメントを引き出すことができるようになります。そして、こうした現場の変化が、従業員と組織・経営陣との信頼関係の基礎となるのです。
成長を促進するためには、このような研修を定期的に実施し、管理職のリーダーシップスキルを向上させることが有効です。

まとめ

従業員のモチベーションの質を高めるためには、自律性、有能感、つながり感という3つの基本的な心理的欲求に配慮したリーダーシップが有効です。具体的には、組織のメンバーの視点や感情を尊重し、「聴く」姿勢で信頼関係を築くこと、意思決定をともに行うこと、そして情報的なフィードバックで気づきや成長を支援することが重要です。
このような自己決定理論を活用したリーダーシップスタイルを取り入れることで、従業員の内発的なモチベーションを引き出し、積極的な姿勢を促進し、組織の持続的な成長と成功を実現することができるのです。

参照文献

Manganelli, L., Thibault-Landry, A., Forest, J., & Carpentier, J. (2018). Self-determination theory can help you generate performance and well-being in the workplace: A review of the literature. Advances in Developing Human Resources, 20(2), 227-240.

自己決定理論(SDT)を基盤に研究を行っている研究者らによるレビュー論文です。本論文では、既存研究をもとに、ジョブデザインやリーダーシップスタイル、報酬制度がどのように自律的モチベーションに影響するかを総論的に解説しています。こちらも、実務へのヒントにあふれた一本です。

Deci, E. L., Connell, J. P., & Ryan, R. M. (1989). Self-determination in a work organization. Journal of applied psychology, 74(4), 580.

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