キリンとファンケルのM&A 特許分析からシナジー効果を考える
こんにちは!いつもVALUENEX のブログを読んでいただきありがとうございます。私は今回よりnote初登場、美味しいものを食べることが大好きな北原です!初めての記事ですが、最後まで読んでもらえると嬉しいです!
さて、今日のテーマは「キリンホールディングス株式会社(以下、キリン)による株式会社ファンケル(以下、ファンケル)買収」について。先日2024年9月12日にTOBが成立したという発表がありましたね(出典1)。これによりファンケルは上場廃止し、完全子会社化することになります。大手飲料メーカーのキリンと化粧品などを手がけるファンケル、この2社の技術をVALUENEX Radarを用いて俯瞰し、キリンとファンケルのM&Aにより、どのようなシナジー効果が見込めるのか分析してみました。
【公開特許の全体俯瞰】
調査対象の母集団は、VALUENEXが提携しているパナソニックソリューションテクノロジー社のPatentSQUAREを使用して作成しました。
検索式の詳細は以下となります。
■母集団抽出条件
上記の検索式を元に、弊社が提供するビッグデータ解析ツールであるVALUENEX Radarを用いて、2011年以降のキリン及びそのグループ会社とファンケルの特許文献の俯瞰図を作成しました。
下記に示す俯瞰図は、分析対象の全特許に対して、内容が類似している特許は近くに、内容が類似していない特許は遠くに配置しているものです。さらにそれを特許数の密度の濃さに応じてヒートマップ化し、密度の濃い順に赤→黄色→緑→青となっています。
こちらがキリンとファンケルの技術領域を示した俯瞰図です。
上記俯瞰図を見てみると、飲料、容器、医薬品組成物が赤く目立つ領域となっています。そのほか化粧品や薬剤/サプリ、有効成分の領域も見られました。それでは次にキリンとファンケルの各企業に分けて特許の分布の違いを見てみましょう。
■キリンの特許俯瞰図
キリンの特許はビール/ビール風飲料、発泡酒、緑茶などの飲料、キャップや缶などの容器、DNA配列、化合物などの医薬品組成物、コラーゲンなどの有効成分の領域に特許が分布しており、特に飲料、容器、医薬品組成物の領域に特許が集中しているのがわかります。逆に左上の薬剤/サプリ、化粧品の領域にはあまり特許が分布されていないことが俯瞰図上から読み取れました。
キリンホールディングス株式会社のホームページによると、食領域、医領域、ヘルスサイエンス領域の3つの事業領域があります(出典2)。当記事では、キリンホールディングス株式会社のホームページのグループ会社一覧ページを参照しながら、母集団(※)に含まれる企業を事業領域ごとに分けて俯瞰図を作成いたしました(出典3)。(※当分析における母集団検索条件は図1を参照ください。)
「医領域」と「ヘルスサイエンス領域」を担う企業は、協和キリン株式会社、協和発酵キリン株式会社(協和キリン株式会社の旧社名)、協和発酵バイオ株式会社が該当しました。この3企業が出願人である俯瞰図は下記の図4になります。
「食領域」を担う企業は、キリンビール株式会社(=麒麟麦酒株式会社)、キリンビバレッジ株式会社、メルシャン株式会社、小岩井乳業株式会社が該当しました。この4企業が出願人である俯瞰図は下記の図5になります。
上記図4・5から、図3のキリンの俯瞰図のうち、「医薬品組成物」や「有効成分」は、協和発酵バイオ株式会社、協和発酵キリン株式会社、協和キリン株式会社によって出願されていることが読み取れます。
■ファンケルの特許俯瞰図
次にファンケルについてです。ファンケルのホームページによると、「美の領域」である化粧品、肌着・雑貨事業と、「健康の領域」であるサプリメント、発芽米、青汁事業などの事業を展開しております(出典4)。次にファンケルの特許を見てみるとキリンの特許とは対照的に、乳液や皮膚洗浄剤などの化粧品や薬剤/サプリ、有効成分の領域に集中しており、キリンの特許分布と重複する領域は少ないことがうかがえます。
【俯瞰図上からの考察】
俯瞰図上で各社の特許出願の傾向を把握したうえで、今回のテーマである「キリンとファンケルのM&Aによるシナジー効果」について、3つの考察ができました。
■考察1: ヘルスサイエンス領域強化
キリンの事業は食領域・医領域・ヘルスサイエンス領域の3つが主軸で、「キリングループ2022年-2024年中期経営計画」によると重点課題の1つとして、「将来の大きな柱となるヘルスサイエンス領域での規模の拡大」を挙げております(出典5)。
2023年にサプリメントなどの健康食品を展開しているオーストラリアの企業、「ブラックモアズ」を買収し、今回のファンケルの買収でさらにヘルスサイエンス領域の強化を図るようです。図3、図4、図5より、現在のキリンの健康関連製品については、医/ヘルスサイエンス領域である協和発酵バイオ株式会社、協和キリン株式会社、協和発酵キリン株式会社の技術・知見が下支えしていると推測され、今回のファンケル買収でサプリメントなどのファンケル製品などに協和発酵バイオ株式会社、協和キリン株式会社、協和発酵キリン株式会社の技術・知見の利用が見込まれるのではないかと考察します。
またキリンといえばビール!というイメージがありますが、コロナの追い打ちもあり近年の酒類市場は落ち込んでいます。キリンは自社の事業を酒類市場からヘルスサイエンス領域へ踏み込み、ビジネスモデルの組み換えを検討しているようです(出典6)。実際に俯瞰図より飲料領域内の「ビール/ビール風飲料」と「アルコール飲料領域」の公開公報件数を見てみました。下記図7に示します。
さらにコロナ前の2015年~2019年、コロナ禍・コロナ後の2020年~2024年に年次を絞り、公開公報件数を調査した結果は下記図8となります。
2020年~2024年の公開公報件数は2015年~2019年の件数に比べて半減とまではいきませんがやや減少している傾向にあります。年によって件数にバラつきはありますが、これからキリンの酒類市場がもっと縮小していき、健康を軸にしたヘルスサイエンス領域がキリンのビジネスの根幹になっていくのかもしれません。
■考察2:飲料にファンケルの技術を応用
ファンケルの技術や知見をキリンの得意分野である「飲料」の強化にも展開が見込めます。キリンの飲料には特定保健用食品(以下、トクホ)や機能性表示食品など、「健康」に特化した商品があります(出典7)。実際にファンケルの商品である「カロリミット」の技術や知見を活かした「キリン×ファンケル カロリミット ブレンド茶 」やそのシリーズ商品(「キリン×ファンケル カロリミット アップルスパークリング リフレッシュ 」、「キリン×ファンケル カロリミット アップルスパークリング」)などの機能性表示食品飲料も発売されています(出典8)。今後ファンケルの有効成分やサプリの知見とキリンの培ってきた飲料のノウハウを活かしてトクホ飲料などの商品展開も期待ができるのではないでしょうか。
■考察3:美を目的とした商品展開
ファンケルには従来のキリンにはなかった化粧品や美白/美肌など「美」に関する製品があり、キリンが「美」を目的としたサプリメントや飲料などを展開する可能性も考えられます。またキリン及びそのグループ会社のこれまでやこれからの研究開発などから、化粧品という新しいジャンルへの展開や、薬剤などについてもファンケルの持っているジェル技術により、従来までの経口接種から経皮接種という新たな展開も考えられます。またファンケルの得意とする「美の領域」を活かして、美に関する飲料の商品開発などの可能性も考えられるのではないでしょうか。
キリンは同社の強みである「発酵・バイオテクノロジー」の技術を活かして飲料、医薬品、ヘルスサイエンスと事業展開をしていますが、今後「美」の分野にも事業展開できればより一層ファンケルとのM&Aのシナジー効果が期待できることでしょう。
【最後に】
VALUENEX Radarを使用して特許を俯瞰しながらキリンとファンケルのM&Aによるシナジー効果を考察しました。今回のM&Aはキリンにはないファンケルの技術や知見を活かして「ヘルスサイエンス領域の強化」や「美を目的とした商品」として新たな展望も考えられるのではないか、という考察となりました。
今やキリンの主力商品となっている「プラズマ乳酸菌」関連の商品は私も注目していますので、ファンケルとのM&Aでプラズマ乳酸菌事業にも新たな商品が生まれるなど、M&Aによる良いシナジー効果があると良いなと思っています。
みなさんは今回のM&Aについて、どのような考察をしましたか?
ぜひご意見お聞かせください!!
出典
1.キリンホールディングス. “株式会社ファンケル株券等(証券コード 4921)に対する公開買付けの結果及び子会社の異動に関するお知らせ”
2. キリンホールディングス. "事業領域 | キリンホールディングス"
3. キリンホールディングス. "グループ会社一覧 | 企業情報 | キリンホールディングス"
4. ファンケル."事業紹介 | 会社情報 | FANCL ファンケル"
5. キリンホールディングス. “長期経営構想・中期経営計画 | パーパス | キリンホールディングス”
6. ニュースイッチ."キリンHDが覚悟の事業モデル組み替え。「酒類は減り続けてる。ヘルスサイエンスに踏み込む」|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社"
7. キリンホールディングス."健康商品・サービス|キリン"
8. キリンホールディングス."FANCL×KIRIN カロリミットブレンド茶|ソフトドリンク・乳製品|キリン"
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