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お肉は牧場でなく実験室でつくられる?~培養肉の技術動向~

こんにちは!VALUENEXの松南です。
動物の肉を細胞培養することによってつくられる食用肉-いわゆる培養肉-は、SF作品ではたびたび題材にされていますが、培養肉が現実世界で研究されていることはご存知でしょうか?
培養肉は、家畜を屠殺する必要がない生命倫理的な面や生産効率の面などから、従来の食肉の代用となるのではないかと期待されています。アメリカなどの一部の国では、すでに培養肉の販売が認められている状況となっています(出典1)。
そんな培養肉について、特許公報に基づいて技術動向を調査しました。

公開特許公報の全体俯瞰

調査対象の母集団は、VALUENEXが提携しているPatSnap社の特許データベースを使って、特許庁の「令和2年度 特許出願動向調査報告書 培養肉」の検索式をもとに抽出しました。検索式の詳細は末尾に記載していますので、ご興味のある方はご覧ください。

弊社が提供するビックデータ解析ツール VALUENEX Radarを用いて、培養肉に関する特許文献を1枚絵にまとめました。
1枚絵にまとめたこの「俯瞰図」では、文献の内容が似ているもの同士を近くに配置していて、文献が密なところを赤色、疎なところを青色となるようヒートマップ表示しています。さらに、文献密度が高いところを囲って「領域」とし、囲った文献群の技術内容を端的に示すラベルを付けています。
その結果、俯瞰図の中心付近にウイルス、幹細胞、培養食肉の領域、左端に遺伝子組み換え植物の領域が作れました。

図1 (a) 培養肉に関する特許の俯瞰図
(2011-2023年公開/培養肉と関連の低い領域はラベルを灰色で表示)
図1 (b)俯瞰図中心付近の拡大図

それぞれの領域の内容を見ていきます。
培養食肉の領域には、培養肉のタネとなる動物の筋肉細胞に関する領域と、培養実験で必要な足場材に関する領域がありました。幹細胞の領域には、培養食肉の領域とまたがって筋肉細胞の領域があり、そのほか関連技術の領域が複数ありました。培養食肉と幹細胞のどちらの領域も、培養肉技術と密接に関わる内容を含んでいますね。
一方、ウイルスの領域や遺伝子組み換え植物の領域などには、培養肉と直接的には関係のない特許が分布していました。

このようなノイズを多く含んだまま分析を進めてしまうと目的に沿った情報を得るのが難しくなってしまいます。そこで、今回の分析では培養肉に関係のある特許を抽出して再分析をしました。

再抽出母集団による俯瞰解析

先ほどの俯瞰図から培養食肉の領域に含まれる特許を抽出し、キーワードに"meat"を含む特許と、食品に関する特許分類であるIPC(A23BおよびA23J)をもつ特許を加えて新たに母集団としました。
新たな母集団で分析した俯瞰図では、培養肉に関する技術の特許を高い割合で集められました。

図2 再抽出した母集団の俯瞰図
(2011-2023年公開/培養肉と関連の低い領域はラベルを灰色で表示)

培養肉研究の時系列変化

直近5年(2019年以降)とそれ以前(2018年以前)の特許分布を比較してみましょう。

図3 培養肉に関する特許の分布の時系列変化
(ヒートマップのスケールは同一/培養肉と関連の低い領域はラベルを灰色で表示)

2018年以前は俯瞰図の上側と左下に分布していて、内容は細胞培養を用いた医学研究や食品加工技術に関するものでした。2019年以降は俯瞰図の中心から右下の広範囲に分布していて、特に文献密度が高いのは筋肉培養や培養肉の細胞の前駆体である前駆細胞などの培養肉と関係が深い領域でした。培養肉の技術開発は近年発展しているようですね。
ここで、培養肉の技術開発が近年発展している要因を考察します。培養肉の開発動向について、研究は以前から行われていたものの、実際の普及には及ばないという時期が直近5年ほどまで続いていました。普及の課題はコストが一因とされていて、2013年時点ではハンバーガーパティ1食あたり33万ドルとも言われてたようです。しかし、技術発展によって2022年には10ドル程度まで価格が下がっています(出典2)。
これらの情報を鑑みると、図3 右側の2019年以降に公開された特許(注:出願から公開までのタイムラグを考慮すると2017年後半以降に出願された特許)が培養肉のコスト低下に寄与して、培養肉が現在の価格で提供可能となったのではないかと推測できます。

出願人から見る培養肉研究の特色

次に、出願数の多い出願人を見ていきましょう。
上位19出願人ランキング(タイ含む)を見ると、ランクインしている出願人は2019年以降の出願の割合が高い傾向が確認できました。
また、国別では中国が多く、10出願人を占めていました。組織別では、9出願人が大学、8出願人が企業のものでした。培養肉の研究開発では企業だけでなく大学の存在感も大きいことがうかがえます。

図4 上位出願人ランキング

続いて、大学と企業とでそれぞれ俯瞰図にフィルターをかけました。フィルター条件の詳細は記事末尾の注釈に記載していますので、ご興味のある方はご覧ください。

図5 大学と企業の出願分布
(大学と企業は一定のフィルター条件に従って定義した。フィルター条件は注釈2に記載した。)

大学は俯瞰図の広い範囲に特許が多く分布していて、特許の集中する中心部には筋肉培養や製造方法など培養肉の基礎研究ともいえる内容がありました。一方で企業は大学と比べるとカバレッジが狭いですが、大学がカバーしていない俯瞰図の左下に分布がありました。俯瞰図の左下には効率の良い細胞培養技術などの特許があり、このような技術が培養肉のコスト削減や実用化に寄与したことが推測できます。

おわりに

特許公報のビックデータ解析によって、培養肉の技術動向を調査してきました。その結果、培養肉の技術開発は近年発展していることが読み取れました。また、出願人の分布から大学と企業がそれぞれ異なるフェーズの技術開発を行っていることが示唆されました。

最後に、大学と企業が共同研究した事例を紹介して記事を締めくくりましょう。2019年、東京大学と日清食品ホールディングスは、ブロック状の培養肉を作成することに世界で初めて成功しました。従来のシート状の培養肉よりもさらに本物の肉に近い構造を目指したもので、将来的には培養肉でステーキを作ることを目標としているとのことです(出典3)。
日本の技術でつくられた培養肉ステーキが世に出る日が、そう遠くない未来に訪れるのかもしれませんね。

注釈

1.母集団抽出条件

図1 母集団抽出条件

2.大学と企業のフィルター条件

大学:出願人に"univ"または"college"の文字列を含むものを対象としました。
企業:こちらの記事(出典4)および図4に示した出願人ランキングを参考に、培養肉業界の主要企業として下記を対象としました。なお、青でマーカーした企業は母集団で該当する文献がありませんでした。

図6 当解析で用いた「企業」の定義(アルファベット順、敬称略)

出典

  1. Foovo. "アメリカが培養肉販売を承認|GOOD Meat、UPSIDE FoodsがUSDAの認可を取得"

  2. Forbs JAPAN. "培養肉の現在、70社以上が参入し低価格化が進行"

  3. 日清食品ホールディングス. "研究室からステーキ肉をつくる。"

  4. Foovo. "【完全保存版】培養肉ベンチャー企業20社まとめ【2020年】"


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