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ホンダと日産の統合は技術シナジーを生み出せるのか?
こんにちは、VALUENEXで技術調査を担当している堀下です。
本記事では、2024年12月に一部で報道されて以降話題となっているホンダと日産の経営統合に向けた動きについて、技術的な視点から分析・考察していきます。
分析対象について
まず分析対象とする技術情報として、ホンダ(本田技研工業及び関連研究企業)と日産自動車、そして日産傘下の三菱自動車工業の3社が過去12年間に日本国内で出願した特許公開公報、約4万5千件を収集しました。
各社の件数はホンダ:28,300件、日産:10,911件、三菱自動車:5,487件 となっており、それぞれの件数構成を簡単にグラフ化すると下図のようになります。
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俯瞰図で見る技術の全体構造
抽出した特許情報に対して、弊社が提供するビックデータ解析ツール VALUENEX Radarで二次元の情報地図として可視化した結果を下記に示します。
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図の中に配置された各点一つ一つに特許情報が内包されており、技術内容が似ているもの同士は近い距離に、異なるもの同士は遠い距離に配置されています。
上記の図だと全体的に点で塗りつぶされてしまって視認性が良くないので、これをヒートマップ化すると全体構造が明確に把握できます。
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中央左側に燃料電池関連、中央右側に自動運転関連の各種制御技術がそれぞれ配置され、中央付近には「電力管理」や「ギア制御」、上側には「バイクフレーム」や「車体構造」に関連する領域が分布する構図が見えました。
さらに細かく見ればホンダの芝刈機技術などもありますが、両社のマクロな技術構図としては概ね違和感ないかと思います。
各社の分布から技術の関係性を見る
次に、この点分布をホンダ・日産・三菱自動車の各社で色分けして、各社の技術的な関係性を読み解きます。
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こうしてみると、オレンジ色で着色したホンダの技術がほぼ全域に分布しており、日産や三菱自動車の独自性が見えづらい構図となりました。
つまり、日産や三菱自動車が技術の蓄積を有する多くの領域において、ホンダも類似した技術を有していると言えそうです。
ホンダの技術分布
もう少し個別に見てみましょう。まずホンダの技術のみに絞った状態での技術ヒートマップです。元の構図とほぼ同様になっています。
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日産+三菱自動車の技術分布
続いて日産と三菱自動車の和集合による技術ヒートマップです。日産の「リチウムイオン電池」の技術領域が目立っています。これまで電気自動車の開発に注力してきたこともあり、ピンポイントではここに分がありそうです。(なお、ヒートマップの閾値は前述の図と同値で設定しています)
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各社の分布から技術シナジーを考察する
さて、ここまでの内容を一旦整理します。
日産や三菱自動車が技術の蓄積を有する多くの領域において、ホンダも類似した技術を有している
個別に見ると、日産はリチウムイオン電池の技術領域で特に集中が目立つ。
上記の分析だと、ホンダにとって日産側の技術はあまり魅力的ではないように映ります。少なくとも、理想的な技術シナジーを発揮する構図にはなっていません。
そこで、ホンダと比較して日産側が強みを有する技術領域の位置づけに着目した上で、そこを起点とした新たな事業機会を考えてみました。
各技術領域のシェア率から見た日産側の強み
お互いの技術差異をより具体的に把握するため、各技術領域の周辺においてホンダと日産+三菱自動車がどの程度の件数割合で混ざっているのかを円グラフで示しました。
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こうして見ると、日産側が比較優位性を持つ技術領域がピンポイントで特定できます。50%を超えているのは下記の技術領域となりました。
リチウムイオン電池、バッテリーモジュール
エンジン排気機構、内燃機関
振動制御、ギア制御
樹脂材料
したがって、リチウムイオン電池・エンジン・車体制御の周辺技術をうまく組み合わせることが、日産側の技術を生かす勘所と言えます。
なお、例えばここでリチウムイオン電池だけに着目すれば自動車以外の二輪車・ロボティクス分野への応用も考えられますが、この俯瞰図の位置関係を見る限りでは、それらとの親和性は高くないと推察します。
技術シナジーを生み出すアイデア
ここからは筆者がこの図を俯瞰して定性的に捉えたアイデアベースの話になります。
日産側の得意とする技術領域とホンダが有する技術領域が混在する箇所周辺において、現時点では技術の集中密度が高くないエリアを「空白領域」として大まかに図示してみました。
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このエリアはホンダとしても現時点でそこまで注力しておらず、さらに日産の技術的蓄積を生かせる可能性があるため、今回の統合が実現した際の技術シナジーを生み出す新たな機会領域と捉えることが出来そうです。
問題は「ここを埋め得る技術が何なのか?」ですが、下記のような技術領域を例として挙げます。
ハイブリッド車の充電方式およびプラットフォーム化技術
移動中に乗客が揺れを感じず快適に過ごすための車体制御
EV車の充電インフラ規格に関しては日産のこれまでの取り組みで期待通りにいかなかった点もあると思いますが、その知見も踏まえて、規格化以外の道筋で技術開発を進めるのが有意義かもしれません。
移動体の揺れの制御技術についても、例えば乗客の属性(車好き、子連れ、等)に合わせた揺れ方の微調整であったり、エージェント機能・インフォテインメント機能との組合せであったり、両社の遊び心と生真面目さが調和した技術開発が出来ると面白そうです。
勿論、これらの技術開発がホンダ・日産それぞれの経営方針と合致するか、市場ニーズはあるか、競合他社と比較して優位性を生み出せるかといった精査は必要ですが、お互いの強みを生かす観点で更に具体的な技術開発方針を是非検討いただきたいと感じます。
おわりに
本記事では、ホンダと日産の経営統合に向けた動きについて、技術的な視点から分析し、特に技術シナジーの可能性について考察しました。
まず、日産や三菱自動車が技術の蓄積を有する多くの領域においてホンダも類似した技術を有していることが可視化されました。
一方で、リチウムイオン電池・エンジン・車体制御の技術領域においては日産側が比較優位性を有しているため、これらの周辺技術をうまく組み合わせることが日産側の技術を生かす勘所と言えます。
両社の経営統合が実現した際にお互いの強みがどのように生かされるのか、今後の動向に引き続き注目していきたいと思います。