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どうなる自動車業界⁉日産と鴻海の技術俯瞰による両社の技術的シナジーとは

 こんにちは! VALUENEX の大庭&北原です。いつもVALUENEXのブログをお読み頂きありがとうございます。

 昨年末にホンダと日産自動車が経営統合にむけた協議に入るというニュースが報道され、世界に衝撃を与えたのはみなさまの記憶に新しいのではないでしょうか。その後今年の2月13日に両社の経営方針などの違いなどにより協議の打ち切りが発表されました(出典1)。これに反応してか台湾の電子部品製造企業である「鴻海精密工業」による日産自動車の買収が噂されるようになりました。鴻海精密工業の会長である劉揚偉氏はすでに日産自動車の大株主であるルノーと接触し「買収ではなく協業が目的」と語っており、新たな提携先として名乗りを上げています(出典2)。

 そこで本記事では日産自動車(三菱自動車含む)と鴻海精密工業(シャープを含む)の特許を母集団として俯瞰解析することで、両社の技術的シナジーなど協業の可能性について分析をしてみました。ぜひ最後までお読み頂けると嬉しいです。

【公開特許の全体俯瞰図】

 今回の母集団は三菱自動車を含む日産自動車(以下、日産G)とシャープを含む鴻海精密工業グループ(以下、鴻海G)で、LexisNexis社のTotal Patent One®を用いて2011年~2025年までの公開特許を検索し、約10万件の特許を母集団としました。この母集団を元に、弊社VALUENEXが提供するビッグデータ解析ツールVALUENEX Radarを用いて俯瞰解析を行いました。

 下記に示す俯瞰図は、分析対象の全特許に対して、内容が類似している特許は近くに、内容が類似していない特許は遠くに配置し、特許数の密度の濃さに応じてヒートマップ化し、密度の濃い順に赤→黄色→緑→青となっています。

【日産Gと鴻海Gの全体俯瞰図】

 全体俯瞰図を見てみると最も特許件数が多い領域は俯瞰図中央にある電子デバイス/回路/バッテリーの領域で、次に左側のイメージ/データ/画像処理の領域が活発化しております。その他、通信の領域、自動車の領域、デバイス制御領域と大きく5つの領域に分かれていることがわかります。デバイス制御領域は主にシャープの印刷機に関する技術があり、日産Gはモーターのステータや変速制御装置の技術が分布しております。

図1:日産Gと鴻海Gの全体俯瞰図

【日産Gの特許俯瞰図】

 次に日産Gと鴻海Gで比較してみてみます。まずは日産Gの俯瞰図を見てみましょう。下記図2は日産Gの全体俯瞰図で27,089件が対象となります。こちらをみてみると右側の自動車の領域に特許が分布しており、その他バッテリー領域にも特許が集中していることがわかります。一方で通信領域やイメージ/データ/画像処理領域、バッテリー領域以外の電子デバイス/回路/バッテリー領域、デバイス制御領域は特許の分布があまり見られないことがわかります。

図2:日産G全体俯瞰図

 日産Gの時系列変化を見てみました。下記図3の左の俯瞰図は2016年~2020年の俯瞰図、右側は2021年~2025年の俯瞰図となります。特許の分布をみると両期間とも全体的に自動車領域やバッテリー領域に特許が集中していることがわかります。また2021~2025年は2016~2020年まであまり特許の出願がなかった通信領域やイメージ/データ/画像処理領域、電圧制御/回路領域への特許が増えており、自動運転やEV技術関連の周辺技術の研究開発が進められているのではないかと推測されます。

図3:(左)日産G2016年~2020年の俯瞰図、(右)日産G2021年~2025年の俯瞰図

【鴻海Gの特許俯瞰図】

 次に鴻海Gの特許俯瞰図を見てみましょう。鴻海Gは2016年にシャープを買収していますので、鴻海G(シャープを除く)とシャープを切り分けて俯瞰図を作成してみました。

■鴻海G(シャープを除く)の特許俯瞰図
 下記図4は鴻海G(シャープを除く)の全体俯瞰図です。特許分布を見てみると電子デバイス/回路/バッテリー領域に多くの特許が分布しており、通信領域、イメージ/データ/画像処理領域、デバイス制御領域などその他の領域での特許は少ない俯瞰図となりました。図2日産Gと比較して、自動車領域の特許の分布はほぼ無いように読み取れます。

図4:鴻海G(シャープを除く)全体俯瞰図

 上記図4を2016~2021年、2021~2025年の時系列で比較してみました。まず2021~2025年の特許件数が4,712件と、図4の全期間の約13%となっており特許件数が激減しております。特許の分布も電子デバイス/回路/バッテリー領域に特許が集積しているものの、2016~2021年まで特許が出願されていた、電圧制御/回路領域や光源/光デバイス領域の特許が減少しています。

図5: (左)鴻海G(シャープを除く)2016年~2020年の俯瞰図、   
(右)鴻海G(シャープを除く)2021~2025年の俯瞰図

■シャープの特許俯瞰図 
 最後にシャープの全体俯瞰図を見てみます。シャープの特許は自動車領域以外の電子デバイス/回路/バッテリー領域、イメージ/データ/画像処理領域、通信領域、デバイス制御領域など全体的に分布しているのがわかります。

図6:シャープの全体俯瞰図

 では直近2021~2025年の特許分布はどうでしょうか。図6の全体俯瞰図同様に電子デバイス/回路/バッテリー領域、イメージ/データ/画像処理領域、通信領域、デバイス制御領域などに特許が分布しています。また特許件数が7,303件と全期間の43,504件の約16%となっており件数が激減しています。表1の公開特許件数推移を見てみると、2015年以降から件数が減っており、2019年に若干件数が増加していましたが、それ以降はさらに減少傾向となっておりました。2016年に鴻海によるシャープの買収が特許件数減少の要因の一つではないかと推測されます。

図7:シャープ2021~2025年の俯瞰図
表1:シャープ公開特許件数推移

【考察・まとめ】

 図3の日産Gの2021年以降の特許分布を見ると、それ以前まであまり特許が出願されていなかった、通信領域やイメージ/データ/処理領域や電圧制御/回路領域への特許が増えており、自動運転やEV関連の周辺技術の研究開発が進められているのではないかと推測されます。また、通信領域やイメージ/データ/画像処理領域や電圧制御/回路領域には多くのシャープ特許が存在しており、日産Gがシャープの技術を持つ鴻海Gと技術提携することは、EVや自動運転に関して大きな技術シナジーがあると考えられます。
 また日産G視点で両社の業務提携を見ると、前述の通り近年開発を進めているEVや自動運転に関して、シャープの持つ技術を利用できることにより、研究開発が加速するというシナジー効果があると考えられます。
 一方、日産Gが鴻海Gに買収され傘下に入った場合、鴻海Gによるシャープの買収以降からシャープの特許件数が激減しているように(表1)、日産Gの研究開発も選択と集中がせまられ、研究開発リソースがEV・自動運転に集中し、従来までのエンジン車への研究開発リソースが減少させられるという可能性もあると推測されます。
 鴻海G視点で両者の業務提携を見ると、2016年に買収したシャープの技術を足掛かりに自動車分野へ進出ができるというシナジーがあると推測されますが、ソニーやパナソニックなどEVや自動運転に利用できる技術を持つ企業は他にもあり、日産Gにとってみると業務提携は鴻海Gでなくても良いかもしれません。日産Gをめぐる業界再編の動きに今後も注目し、動向を追っていきたいと思います。

【出典】

1.ITmedia NEWS."ホンダと日産、経営統合協議を打ち切り “日産子会社化”提案も折り合わず'"
2. 読売新聞"台湾・鴻海が日産株取得についてルノーと協議…「買収ではなく協業が目的」と会長 : 読売新聞"


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