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第1回 Science of science研究会に参加しました


はじめに

こんにちは、VALUENEX・先進情報学研究所の林 尚芳です。

2024年3月16日・17日に、東京大学・本郷キャンパスで開催された第1回 Science of science研究会に参加しました。私はポスター発表&ライトニングトークを行い、VALUENEXとしてはスポンサー&ブース出展を行いました。

今回のnoteでは、この研究会の様子を紹介しています。多くの方にScience of scienceという面白い分野を知ってもらえたら嬉しいです。

Science of science研究会

Science of scienceとは、主にビッグデータや情報処理技術を用いて、科学を取り巻くメカニズムを明らかにする学際的な分野です。2022年からは、「ICSSI:INTERNATIONAL CONFERENCE ON SCIENCE OF SCIENCE AND INNOVATION」という国際会議が開催されています。また2021年には、「The Science of Science」という書籍が発売されており、2024年中に日本語訳版の発売も予定されているそうです。

このような世界的に盛り上がり始めているScience of scienceについて、日本でも研究コミュニティを作ることを目的として、有志の研究者によってScience of science研究会が設立されました。その記念すべき第1回目の研究会が、2024年3月に東大で開催されました。

参加者はオンライン・オフライン合わせて100名を超えており、関心が高いことが分かります。私が交流した方々は、アカデミア(研究者、学生、URA)、政府・公的機関、民間企業(事業会社、シンクタンク等)、独立研究者・技術者(機械学習やブロックチェーン等)など、様々な立場の方々が参加していました。また研究者の方々の専門分野も幅広く(情報科学、計算社会科学、科学技術社会、経営学、政治学など)、会場は学際的な雰囲気で満ち溢れていました。

参加人数

また、本研究会専用のDiscordも開設されており、チュートリアルや会議中、積極的な質疑応答や意見交換がされていました。このDiscordには、日本でScience of scienceに関心がある人たちが集まっているので、今後のコミュニティ発展が期待されます。

ポスター発表&ライトニングトーク

私は「Science of Scienceおよび科学計量学に関する研究論文の俯瞰可視化」というタイトルで、ポスター発表&ライトニングトークを行いました。

ライトニングトークとポスター発表の様子

Science of Scienceは注目されている分野ではありますが、類似する分野として、科学計量学、計量書誌学、メタサイエンス、Research on Researchといったキーワードも挙げられます。これらの分野はどのような共通点・相違点があるのでしょうか?そこで、これらのキーワードを含む研究論文(約4万件)を収集し、下記の観点で動向を調査しました。

  • 研究論文の全体像

  • Science of Scienceの特徴と他のキーワードとの共通点・相違点

  • 時系列変化

  • 国別取り組みの違い

調査には、私たちが得意な「俯瞰可視化」手法を利用しています。テキストマイニングと次元圧縮技術によって、大量の論文情報を1枚の絵で表現できる手法です。

調査の結果、下記の2点を示しました。日本としてScience of science分野を推進する上で、基礎情報として活用できればと考えています。

  • Science of Scienceは「科学技術・研究という営みの解明・評価、科学的発見そのものの理解」に軸足を置いている。ただし、科学計量学や計量書誌学といった分野でも同様のテーマを扱っている。 Science of Scienceは全く新しい概念というわけではない。「科学技術や研究をより良くしていく」という共通目標に向かって、これらの分野における研究蓄積も踏まえて、Science of Science研究やコミュニティが発展していくことを期待している。

  • 中国、米国、欧州などは、千件~数千件規模で論文発表している。1位2位である中国と米国は、共に全方位的にカバーしている。中国は「2. 学術情報を活用した特定分野の動向調査」が多く、米国は「1. 科学技術・研究という営みの解明・評価」が多い。一方、日本は、これらの国々と比べるとそもそも件数が少ない。日本の環境を踏まえたScience of Science研究を、世界で発信・コミュニケーションしていくことが重要なのではないか。

スポンサー&ブース出展

スポンサー・ブースも出展し、弊社のデータ分析技術の活用事例を紹介しました。具体的には、論文・特許情報融合解析(量子技術)、科研費情報解析(東工大と東京医科歯科大のシナジー把握)、スタートアップ情報解析、研究者共著ネットワーク解析などです。

ブース出展の様子

今、なぜScience of scienceなのか?(基調講演)

ポスター発表・ライトニングトーク以外には、様々な講演がありました。Science of scienceの全体像、研究者のキャリアと生産性・性差、研究の新規性の測り方、研究者・大学の特徴の数理化、オープンサイエンス等、面白いテーマが目白押しでした。

基調講演は、東京大学・浅谷公威さんによる「今、なぜScience of scienceなのか?」です。浅谷さんの研究の1つに、「国際的な研究トピックの進度の比較と定量化」というものがあります。この研究は、論文情報を分析することで、国家の研究トピックの相対的な進度を定量的に評価しています。その結果、欧米諸国やアジアの都市国家とそれ以外の国の間には、研究トピックのタイムラグが長期間に渡り維持され続けることが分かりました。特に日本の場合、1年半ほど米国から遅れていると言われています(日本の研究、米国など「後追い」1年半遅れ 論文7100万本分析(毎日新聞))。

NISTEPの調査でも、日本はトップ10%論文のランキングを年々落としており、研究力の低下が問題視されています(日本「トップ10%論文」13位に下降…NISTEP調査に見る学術生態系の秩序の変化)。

こういった背景から、日本でも「研究エコシステムという営みやメカニズムを把握し、政策や戦略に活かそう」という機運が高まっており、Science of scienceは重要な分野の1つだと考えられます。

また、講演の中で紹介されていたScience of scienceの著名研究者の経歴が面白かったです。バラエティに富んでおり、学際性を感じました。

基調講演で紹介されていたScience of science分野の著名な研究者

オープンサイエンスの潮流からみたScience of Scienceへの期待(招待講演)

研究会最後の講演は、NISTEP・林和弘さんの「オープンサイエンスの潮流からみたScience of Scienceへの期待」でした。

林さんは、学術情報流通の改革に携わっており、これまでの変遷を当事者として経験されてきた方です。今、Science of scienceの研究対象は、世の中に公開されている「論文」がメインですが、学術情報流通が変化することで、分析する対象も変わっていくことを指摘されていました。

例えば現在では、機械学習等の分野では「プレプリント」が活発ですし、これからは「研究データの公開・流通」も進んでいくと考えられます。また、「DeSciによるブロックチェーン活用」、「研究資金のクラウドファンディング」、「シチズンサイエンス」、「オープンサイエンス」、「AI研究者・研究の自動化」など、研究を取り巻く環境変化が起こっています。

そのため、Science of scienceは、新たな研究スタイル・情報流通を踏まえて、研究を進めていくことが重要であると仰っていました。「Science of scienceと研究エコシステムの共進化」を意識させられる重要なメッセージだったと思います。

チュートリアル

1日目(3/16)はチュートリアルでした。Science of science研究でよく使われているOpenAlexというオープンな論文データベースを活用するという内容です。Pythonを用いて、ネットワーク可視化・クラスタリング、Disruptive指標の計算、被引用数予測など、様々な分析を行いました。資料やコードは公開されています。

このように、分析できるデータとツールの整備が進んでおり、どんな方でも気軽に分析を始められる点は、コミュニティ発展にとってとても良いことだと思いました。一方で、深い研究を行うためには、オープンになっていないデータを如何に獲得して分析するか、という泥臭い作業が重要だという意見も、会議中にありました。

まとめ

今回、記念すべき第1回目の研究会に、ポスター発表&スポンサーとして参加できて光栄でした。

Science of scienceの研究成果は、政策、大学経営、企業戦略、チームビルディング等、様々なところで活用できると思います。

私としては、「Science of science研究で得られた知見を、いかに民間企業の研究開発・事業戦略に活かすか?」という観点でも深めていきたいです。

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