失ってみて、初めて身に沁みる現実とは
その私がエグゼクティブの採用をしていた頃のエピソードです。
数度にわたる面接を経て、いわゆる「オファー面談」となった際に幾度となく次にようなリクエストを候補者から打診されたことがあります。
「入社にあたって一つお願いがあるのですが、『通勤用の黒塗りのハイヤー』を用意してくれませんか?」
今まで会社からさし回されて自宅まできていた黒塗りの社有車が、今回の転職に伴い急に来なくなるのは「ご近所の手前まずい」とのこと。
「いや、それは自宅から最寄り駅の2〜3先の駅まででいいので、これだけはお願いします!」
こういう「他人の目が気になる」といった見栄っ張り方が、この先完全に引退したらどう自分の気持ちを納得させるのでしょうか?
会社での大きな個室や秘書、そんな社有車にある程度好きに使えた「交際費」といった諸々全ては、しょせん「あなた」のものではないのだという事実を、その「思い違い」を絶えず認識しておく必要があります。
また、ことあるごとに集ってきた職場の同期・同僚達にしても、それはあくまでも「職場での仲間」であって、必ずしも「友人」とは限りません。
もちろん、これまで良くしてくれていた「取引先」にしても、「あなた」がその会社のその地位にいればこそ、その現実もまた「失ってみて、初めて身に沁みる現実の一つ」と言えます。