SaaSデザインの面白さ
はじめまして、林です!
2022年4月よりマネーフォワードに転職し、現在は「マネーフォワード クラウド人事管理」という、HR領域のバックオフィスSaaSのデザイナーをしています。
気づけば入社から半年という節目を迎えていたので、toB SaaSのデザインで感じたことをお話しさせてもらおうと思います。SaaS業界で働くデザイナーのイメージを掴みたい方には、何か持ち帰っていただけるかもしれません!
はじめはギャップに苦しんだ
前職では、美容医療業界でtoCのプロダクトをつくっていました。
二重まぶた整形や医療脱毛などの美容医療に興味を持つ、10代後半〜20代前半の女性がボリュームゾーンです。かわいめのテイストで、グラフィカルな要素がふんだんに取り入れられてるようなプロダクトでした。
また、これまでtoB SaaSのデザインは経験したことがありませんでした。
はじめはそうした見た目のギャップや、SaaS業界の小さく開発していくスタイルに窮屈さを感じていたかもしれません。
つらさと面白さは表裏一体かもしれない
ところが半年経った今、私はすっかりtoB SaaSのデザインに魅了されています。
toB SaaSデザインでつらいと思っていたことは、実はそれこそが面白いところなんじゃないか?と思うからです。
つらさ① 機能性が最優先
toB SaaSのデザインとは、いわゆる業務アプリケーションのデザインを指します。ユーザーにとっては業務の遂行が一番の関心事であり、情緒的要素や見た目の美しさはその先にあるものです。
ゆえに、プロダクト内のライティングは堅めの表現になりがちです。配色でいえばモノクロ+1色で大体こと足りますし、テキストやカラーのジャンプ率のつけ方もかなりシステマチックです。
デザインには様々な工程がありますが、特にグラフィック制作に楽しみを見出していた私は「なんかイケてないなあ…」と思ってしまったのを覚えています。
…いやいや!
面白さ① toB SaaSは魔法の道具である
「toCプロダクトのようにレイアウトや配色に華がない…」
ことグラフィックを経験してきたデザイナーさんであれば、そう感じるかもしれません。
ただtoB SaaSのデザインでは、そもそもユーザーに使っていることを意識させないことが大切かもしれません。toB SaaSは、プロダクトに触れる時間が短ければ短いほどベストだからです。
バックオフィス領域でいえば、ユーザーには「必ずやらなければいけない煩雑な業務」があります。
例えば労務担当者であれば、社員が入社する際に必ず入社手続きが発生します。入社手続きは、社会保険の加入手続きや所得税の手続きがあったりと大変煩雑です(そして正確さとスピードが求められる)。
それらをいかに効率化していけるかがプロダクトのゴールになるため、業務効率化とプロダクトの接触時間は反比例の関係が望ましいことになります。
ネットサーフィンやショッピングのように、行動そのものも価値とみなされるサービスとは前提が違うんですよね。
したがってバックオフィスのSaaSは、導入後に生まれる業務のゆとりを実感してはじめて意識される、黒子のような存在といえるでしょう。
今まで月単位の時間がかかっていた業務が、toB SaaSを使えば1週間、1時間、1分で終わる。人々は本当にやりたかった仕事に注力できる。
それはユーザーをhave toの世界から開放する、魔法の道具だとも解釈できるのではないでしょうか。
そしてその体験一つひとつの滑らかさは、デザインの力によってもたらされるのだと信じています。もちろんプロダクトの成熟度次第では、情緒的要素や審美性も突き詰めていけますよ👍
弊社CDOのセルジオさんは「世界を変えるおいしさ」と表現していますね(スキ!)
つらさ② 企業に選ばれるプレッシャー
SaaSは、基本的にユーザーから定期的に利用料をいただくビジネスです。
一度契約すると、簡単に解約しづらい特性があります。イチ個人ではなく、企業が導入するSaaSなら尚更です。
年間で数百万円規模の利用料になる場合もあるので、導入企業様はとても慎重です。
複数のプロダクトで相見積もりを行い、稟議申請が承認されたらトライアルで導入。もし一般従業員からの評価が芳しくなければ、本導入にすら至りません。
そしてようやく本導入したプロダクトでも、後から期待と異なるものだと分かったら・・・本来なら、機能不足や使い心地に不満があれば即ほかサービスに乗り換えられてしまうでしょう。
ところがtoB SaaSは簡単に解約できないので、そうした欠陥に危機感を持たずとも当面は利用料をいただくことができてしまうのです。
提供者目線で見れば「簡単に解約されない」ですからね... 開発者としてそうはありたくないですから、日々プレッシャーを感じます。
…ただし。
面白さ② インパクトが大きい
このプレッシャーの大きさは、ユーザーや会社に与えるインパクトの大きさでもあると思っています。なぜなら機能の有無や使い心地が、契約や継続利用の決め手(≒売上)になる可能性があるからです。
「この機能がリリースされれば、使ってくれる企業がこれだけ増えそう。価値としてはなんと◯◯円分になります!」「ユーザーの時間はこれだけ短縮できる見込みです!」
作ったものに対するインパクトが分かると燃えませんか?
toB SaaSは、その値がめちゃくちゃ大きいんです👀
つらさ③ 理想の状態で届けられないときがある
デザイナーであれば、できるだけ高い品質で機能をリリースしたいという気持ちはありますよね👀
しかしSaaSの機能開発においては、品質と価値提供スピードのバランスを勘案して「最低限の品質」でリリースされることが往々にしてあります。
「デザインが満足に再現されていない!」「しっかり使えるものを出したいんだ!これで出してもユーザーの不満が募るだけだ!」
はじめの数ヶ月は、こんな心の叫びが消えませんでした。
…でも。
面白さ③ 価値が届く頻度が高い
「選んでもらっているんだから、ちゃんとしたものを出したいんだ!」
開発が与えるインパクトが分かると、なおのことそう思います。
でもそれは、半分は正しくて半分はこちらのエゴなのかもしれません。
多少見た目が整っていなかったり、はじめから機能がフルに搭載されていなくとも、ユーザーのペインは一定解消されるからです。
矛盾するようですが、ユーザーはプロダクトを導入してもすべてのペインが解消できるわけではありません。マネーフォワード クラウド人事管理のように、リリースから日の浅いプロダクトだとユーザーから機能不足を指摘いただくこともあります。
だからこそ、小さな改善をスピーディーかつ着実に積み重ねて、ユーザーにプロダクトを育てていく姿勢を見せる必要があるのです。
なので、理想の状態でお届けできなかったときでも「スピードメニューを提供できた」と思うようにしています。
居酒屋さんでオーダーした品物が全て同時にこなくても、とりあえずビールと枝豆を出してくれるだけで嬉しいですよね(?)
細かなデザインの再現性がなかったり、機能を削減した状態でリリースすることは、決して品質を妥協しているわけではないんだ。見た目は少し綺麗ではないけど、今は一秒でも早くユーザーの価値になることをしていくべきだからなんだ。
そう理解できてからは、むしろデザイナー主体で品質とスピードのバランスを提案していくべきだなと感じるようになりました。理想像は持っておくべきですけどね。
ユーザーに「毎日」選んでもらっているんだぞ!という緊張感と誇りを持って、チーム全員でプロダクトを育てています。
つらさ④ ステークホルダー多すぎ問題
前職と比べて違うなと思った要素の代表格が、ステークホルダーの多さです。
toB SaaSでは、顧客接点のあるビジネスサイドからユーザーの声がダイレクトに届きます。またマネーフォワードは製販一体を謳う組織なので、ビジネスサイドと連携した開発が重要になります。
マネーフォワード クラウド人事管理のステークホルダーでいうと、最低でもこれくらいはあります。
どれだけユーザーにとって使いやすいUIを考えたとしても、開発コストが莫大にかかるようであれば、ビジネスサイドからの合意が得づらくなります。また、実装可能性を考慮してデザインしなければなりません。そもそも実装時にデザインを再現できなければユーザーには届かないからです。
プロダクトの改善要望にしても、それは内部の人間の声なのか?ユーザーから直接もらったものなのか?ユーザーは労務担当者?一般従業員?それとも決裁者?様々な文脈や立場を考えて、要求を明らかにせねばなりません。
どこか一方だけを見ていると、プロダクトが容易に破綻してしまう危険性をはらんでいるのがtoB SaaSの大変なところだと思います。
…でも、多くの人が関わるからこそ幸せな瞬間もあるんです。
面白さ④
ユーザーフォーカスな世界でプロダクトを育てていける
どこか一方だけを見ていると、特定の誰かにだけ都合の良い状態になる。
結果、網羅性のないプロダクトになるし組織のコミュニケーションも破綻しかねない。
そんなSaaS業界でデザインし始めたときは、「ビジネスサイドもダイレクトに関わってきてなんとなく大変そうだなあ」くらいにしか考えられていませんでした。
はじめはビジネスサイドからのいろんな声も、調整役をしているプロダクトマネージャー経由でしか聞く機会がなく、具体的なところまで理解できていなかったんですよね。
そんな状態でしたが、実際にビジネスサイドとの関わりを持つようになるとよりシンプルに考えられるようになりました。
ユーザーに価値を提供するための視点は様々あるし、みんなそのために声を上げているのだなと。
最近はプロダクトマネージャーにお願いして、セールスやカスタマーサクセスのいる定例会議にデザイナーの自分も呼んでもらうようにしています。
商談でよく聞かれることを知れたり、仕様やデザインに対してビジネスの観点でフィードバックをもらえて勉強になっています。
そして実際に機能がリリースされたときは、全員で喜びを分かち合います。
リリースはある意味スタート地点ではありますが、自分はこの瞬間がすごく幸せです。
そして、ユーザーの声をもとに改善し続けていけばさらに喜んでもらえる。ユーザー、ビジネスサイド、開発チーム… 多くの人と、我が子のようにプロダクトを育てていくこのプロセスに魅力を感じています。
SaaS業界は、そんな読者様であればピッタリな世界だと思っています😉
おわりに
SaaSのデザインはもちろん大変ですが、同時にそこにしかない魅力があることも事実です。
SaaSのデザインに1ミリでも興味を持ってくれたなら、この上ない喜びです。
マネーフォワードでは、共にプロダクトをつくる仲間を探しています。
一緒にSaaSデザインの魅力におぼれませんか?😊