【ヤンキーくんvsネットヤンキーくん 後編】10•11月合併号


 中学3年生の冬。高校受験のその最中、初の保護者召喚を受けた僕は、両親とともに夜の学校へ赴いた。
 このとき、中学教師である両親がこぼした「召喚される側には回りたくなかった」という小言を僕は今でも覚えている。校舎の正面玄関を利用したのも、これが初めてのことだった。

 来賓者用の慣れないスリッパを引きずりながら担任から小部屋へと通されると、僕たち3人を生徒指導の先生が仁王立ちで迎えてくれた。
 彼は身長180cm以上、体重100kg以上という恵まれた体躯の持ち主で、校内の治安維持のためなら暴力を行使することも厭わないという、我が校が擁する最大の抑止力だった。廊下では頻繁に、彼が生徒の首元を締めて持ち上げている様子が見受けられ、保護者としばしば論争になっていた。しかし、そんなドクター・ゲロ同様の攻撃手段用いながらも、彼が校内に根付きかけた不良の芽を根絶してみせたこともまた事実だった。

「森が他校の不良生徒に狙われています」

 神妙な面持ちで、彼は3人の森の前でそう告げた。それから僕のiPod(親にウォークマンと嘘をついて購入したもの)を受け取り、Kとの一連のやりとりに目を通したあと彼はこう続けた。

「校内であれば守りようがありますが、校外のことは我々もどうしようもありません」

 僕は動揺した。怒られることを前提に考えていたからだ。同情とも哀れみともつかない視線が森らへと向けられ、僕は喪失感のようなものを覚えた。むしろ今すぐに首元を締め上げて、宙ぶらりんになった僕を両親の前で掲げてほしかった。逼迫した状況下では教師は怒らないのだと知った。
 結局、その日は事実確認と、Kの中学校との連携を図るということで話し合いを終えた。
 学校からの帰路、冗談など滅多に言うことのない父親から「ボディガードでもつけるか?」と尋ねられたが心底、笑えなかった。

 その日の夜、事態をさらに悪化させる出来事が起こった。複数の友人から、とある写真が送られてきたのだ。それはLINEの『タイムライン』のスクリーンショットだった。
 (当時はXもInstagramも普及しておらず、LINE一強の時代だったため、タイムラインはLINEユーザーであれば誰もが使用・閲覧する重要コンテンツだった。)
 どうやらそのタイムラインで僕が指名手配されているようだ。
 厳密にいえば、僕の知らない人間が、僕のフルネームと中学校を公開して、チェーンメールのようなものを作成していた。別の友人から送られてきた画像も同様に、画面中央に『〜うちの中学を馬鹿にしたやつ〜』というサブタイトルのような一文が添えられていた。
 ここでようやく、どうしてKのために卒業生までもが動員されていたのかという謎が明らかになった。彼らはKによって「うちの学校を馬鹿にしてくるやつがいる」という嘘を吹き込まれ、愛校心を利用され僕に襲撃を仕掛けたのだ。
 しかし、謎が解けたところでどうしようもないこともまた事実だった。すでに指名手配は他校、ひいては名前も知らない中学校にまで広がっていたからだ。
 とある教師の働きにより、うちの中学校には不良がいない。加えて、他校に絶大な影響力をもつ人物というのも心当たりがなかった。
 したがって、一撃で僕の正当性を主張する手段は存在しない。あとは他校と繋がりをもつ友人を通して、地道に、少しずつ誤解を解いていく以外の選択肢は残されていなかった。
 本当の戦いはこれからだ。


「超後編」へ続く……。

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