代筆日記:女友達
先日のこと。友人が、私の自宅へと泊まりに来た日のお話。
彼女は10年来の友人で、お互いにお酒もタバコも嗜み、妙な気を使うこともない間柄です。何でも気兼ねなく話せる仲で、私はこの日をとても楽しみにしていました。
元々この日、彼女は泊まる予定ではなかったのですが、現れて早々スーパーで買ってきたワインを片手にしているのを見て、私の方から「泊まってけば?」と誘ったのでした。
この登場の仕方を見てわかる通り、彼女はけっこう豪快な人。サバサバとした性格で、綺麗な黒髪がよく似合う頼れる女性。一人でスナックにも通ってしまう行動力だとか、持ち前のリーダーシップに私は密かに憧れを抱いていました。
10年の付き合いがあると先程も述べましたが、10年という期間は早いようでそれなりに長く、私達も一度は些細なことから疎遠になっていた時期がありました。
疎遠になった理由は、2人だけのお話なのでわざわざ書きませんが、でもその溝を埋めたきっかけは…何だっただろう。もうそんなことを忘れてしまうくらい、今ではお互いの、楽しくて、ちょっと大変なこともあったりする「今」と「これから」について、沢山話し合える関係になっています。これも変な気まずさを感じさせずに、私との程よい距離感をずっと大切にしてくれた、彼女のお陰なのだと思うのです。
ハキハキとしたその彼女の在り方。私はどちらかというと妙に気にしいで、些細なことでウジウジと悩んでしまうタチなので、彼女の「ズバッと解決」みたいなその堂々たる性格に、幾度となく救われてきました。
前にこんなことがありました。
別の友人とLINEのやり取りをしていた中で、相手のほんのちょっとした言葉のニュアンスを、私が変に捉えてしまって、少し落ち込んでいた日。そのことを黒髪の彼女へ話しました。
それを聞いた彼女は、「じゅんちゃんがそんなことを言うなんてらしくない。何か他に嫌なことでもあった?」と、私に問いかけてきたのです。
当時の私は、制作中のとあるデザインのことでかなり悩み、行き詰まっていたタイミングでした。そんな私の普段と僅かに違う言動を、彼女は敏感に感じ取ってくれていたのです。
私はそのとき、本当にいい友人を持てたと、心から嬉しく、そして誇らしいような気持ちになりました。
あまり性別で区別はしたくないけれど、それでもやはり同性だから分かり合える感覚というのがあって。私のちょっとした凹みを優しく、時には厳しく、慰めてくれる彼女の存在は、私にとっては本当に貴重で。だからこそ、私も彼女のちょっとした変化を見逃さずに、お互いに支え合っていけるような存在でありたいと、そう思ったのでした。
そんなことをぼんやり思い出しながら、この日も朝までお互いの日々のことや、恋愛のこと、お酒を飲みながら沢山話して、気づいたら朝を迎えていました。何歳になっても恋愛の話は楽しいし、こういう時間をずっと大事にしていたい。
話し疲れた私達は少しだけ眠り、目が覚めてから私はコーヒーを淹れていました。その時でした。彼女が寝起きのぼんやりとした口調で、私にこう言ったのです。
「そういえば私、髪切ったんだよね。」
…うん?
それを聞いてちらりと彼女の方を向くと、先日まで腰くらいまであったあの美しい黒髪は、バッサリ切り落とされ、肩に付かないくらいまで短くなっています。
…おや??
コーヒーを淹れる手が軽く震えていました。
あれ、寝てる間に切った? いえいえ、勿論そんなことありません。そういえば、彼女がワイン片手に登場したあの時から、彼女の髪は肩あたりで揺れていた…そんな光景を私は薄らと思い出しました。
もしかしてこれは……私は女子の人間関係において、やってはいけないことをやってしまったのでは??
軽くコーヒーは飛び散っています。
私は昨晩、「彼女の些細な変化を見逃さずにどーちゃらこーちゃら…」と、モノローグ的に、夢に落ちるその時まで心の中で色々語っていましたが、あれは一体何だったのでしょうか? 自分が一番ビックリしていました。「なんで昨日言ってくれへんだん?」という、自分の落ち度を相手になすりつけたい感情までわいてくる始末。
そんな動揺を感じ取られまいと、ポーカーフェイスで私は、
「そうなんやぁ。」
と、しっかりその話題を流しました。
この日のコーヒーはなんだか苦く、私の目をしっかりと醒してくれました。
この出来事を、私は今の今までしっかり引きずっています。そういう性格なんです。
でもきっと、豪快で優しい彼女は、こんな出来事なんてすっかり忘れて、気にしている私を笑ってくれることでしょう。
陵×じゅんこ