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社外で得る知見の力 ~SCMの学び方事例~
1. 学びの道は多様 まず一歩を踏み出すために
本Noteをお読みいただきありがとうございます。この記事を通じて、皆様が日々の業務やキャリア形成について考えるきっかけを得ていただければ幸いです。このNoteは、主に社会に出て10年前後、SCM(サプライチェーンマネジメント)の領域でキャリアを築いている皆様に向けて書いていますが、それ以外の方にも示唆が得られる内容を目指しています。
先日、「APICS資格を取得して、SCM業務にどう活かせるのかを記事にしてほしい」というコメントをいただきました(参照: リンクはこちら 桃調査役さんありがとうございます)。このような具体的な関心を寄せていただけることは、とても励みになりますし、同時に私自身のこれまでの学びを振り返る良い機会となりました。
私がこれまで検討し、あるいは足を踏み入れた学びの道には、MOT(Management of Technology)もしくはMBA、APICS(現ASCM)の資格取得、さらにはMITのSupply Chain MicroMastersプログラムなどがありました。それぞれに特徴があり、学び方も多様です。資格やプログラムを選択する際には、皆様それぞれの経験値や時間的制約に応じた判断が求められるのではないでしょうか。
どの選択肢を取るにせよ、重要なのは「まず一歩を踏み出すこと」だと感じます。例えば、資格を取得することで得られるのは、理論や型という強力な武器です。一方で、実務経験を積む中で、体系的な学びの必要性に気づくこともあるかもしれません。どちらのアプローチにも共通しているのは、「現在地を知り、次に進むためのヒントを得る」という学びの本質ではないでしょうか。
この記事では、私がこれまで経験し、選択肢として検討してきた学びの道を共有します。皆様が次の一歩を踏み出すための参考にしていただければ嬉しいです。
2. MOTやMBAに挑戦するという選択肢
大学院への進学を前提に考えていた頃、地元の先輩から「それでもインターンや就活はしておいた方が良い!」という軽いアドバイスを受け、興味本位で就職活動を始めました。そして、思いもよらずP&Gに採用されるという結果になりました。この予想外の展開が、私のキャリアに大きな転機をもたらしたのです。
入社後に気づいたのは、生産統括本部/Product Supply部門において、学卒である私が少数派であることでした。さらに、ほぼ新卒からしか取らない環境下においても、30代で既に中堅という組織構成、即ち60代までキャリアを全うするメンバーはかなり限られている環境でした。必然的にキャリア形成において転職や異動を視野に入れながら隣、「自分の武器を作らなければならない」と漫然とした焦りが少なからずありました。そもそも学卒で生産統括本部に入り、さらにマネージメントの方々はほぼ修士や博士号を習得している環境下でしたので、ある程度汎用性が効くかなと考えて、技術経営(MOT:Management of Technology)もしくは経営学修士/MBAといった学びの道を真剣に検討し始めたのです。
MOTやMBAに進学すれば、技術とビジネスの橋渡しをする力や、組織全体を俯瞰する視点を養うことができると考えました。しかし、英語試験(TOEFLやGRE)の準備を進める中で、語学力の壁に直面しました。また、実務での忙しさもあり、学習自体を断念せざるを得ませんでした。
そんな中、たまたま組織の中で候補がかなり少ない年次であったのもあり、5年目の終わりにシンガポールに赴任するというチャンスをいただきました。かなり早い段階での赴任で、タフなアサインメントとなりましたが(今回は詳しく触れませんが)、振り返ると、学びの選択肢を模索した過程そのものが、自分の強みや限界を理解する良い機会となっていたと感じます。
皆様にとっても、たとえ挑戦が失敗に終わったとしても、その過程で得られる気づきはキャリア形成における貴重な財産になるのではないでしょうか。
3. APICSからASCMへ 型を知る意義
お恥ずかしながら、私がAPICS(現ASCM)の存在を知ったのは数年前のことです。昨年、共に登壇させていただいた山口さんからご紹介を受け、このフレームワークの素晴らしさを初めて知りました。(登壇内容についてはこちらをご参照ください)その際、P&Gで当たり前のように履行していたことが、実はASCMの型に非常に近いことに気づきました。
ASCM(Association for Supply Chain Management)は、全体最適化やS&OP(Sales and Operations Planning)を含む包括的なフレームワークを提供しています。この進化の背景には、部分最適から全体最適へという方向性が強く反映されており、業界全体が求める視点の変化を象徴しています。(参考リンク: ASCM公式サイト)業界標準とされる型が変化するということは、自ずと目指すべき方向、もしくは業界自体が変革期にあるとも読み取れるため、SCM内における地殻変動(最近だと物流の2024年問題に対する法整備などもありますね)に目を向けておく事も、大局観を持つ良い手法かもしれませんね。
また、型を知ることの価値は、新たな環境や未経験の分野に飛び込む際の「再現性」を高めるだけでなく、業界のトレンドや全体の動きを理解する手助けになる点にあります。例えば、型を持つことで、課題に直面したときに「どのように解決に向かうか」を明確にするフレームワークが頭の中に自然と浮かび上がるのではないでしょうか。
APICSやASCMのようなフレームワークを知り、それを実務に活かすことで、SCMプロフェッショナルとしての視点をさらに広げることができるはずです。
4. MITのSupply Chain MicroMastersプログラム
非常勤講師として大学院の講義を担当する内示を受けた際、大変お世話になっている大学の教授から「このプログラムは実務を経験している梶野さんにピッタリではないか?」と推薦されたのが、MITのSupply Chain MicroMastersプログラムを知るきっかけでした。(参考リンク: MIT MicroMasters Program)
このプログラムの魅力は、SCMの理論と実践をバランスよく学べる点です。英語でのコーディングやデータ解析、ケーススタディを通じて、学んだ内容を即座に実務に応用できるのが特徴です。時間的な拘束は厳しいですが、オンラインで受講できることや比較的安価に質の高い教育を受けられる点は、特に忙しい社会人にとって非常に有益ではないでしょうか。
私自身、このプログラムを通じて、仕組みを学ぶだけでなく実践的なスキルを磨くことができました。さらに、この経験を通じて、学びの中で得た理論と実践の橋渡しが、自分自身の現在地を明確にしてくれることに改めて気づかされました。
MITのプログラムは、SCM領域で理論的な深みと実務的な応用力を同時に養いたい方にとって、非常に優れた選択肢だと感じています。
5. 学びを通じて見えてくるもの
学びの選択肢は多様ですが、共通しているのは「現在地を知り、次に進むヒントを得る」という学びの本質ではないでしょうか。2章から4章で触れた経験は、異なる学びの場で得たものですが、それぞれが相互に補完し合い、次のステップへの視点を提供してくれました。
MOTやMBAに挑戦する過程で得た「選択肢を模索する力」、ASCMのフレームワークを知ることで感じた「型を活用する意義」、そしてMITのプログラムを通じて得た「理論と実践を結びつける力」。これらはすべて、私がSCMプロフェッショナルとしてのキャリアを築く中で、大きな指針となっています。
これらの経験を通じて気づいたのは、学びを進めることで、必ず自己理解が深まり、自分の立ち位置や次の一手が見えてくるということです。読者の皆様も、どの学びの場を選ぶにしても、そこから得られる自己理解や視野の広がりを大切にしていただければと思います。
6. 学びの旅を共に歩むために
ここまでお読みいただきありがとうございます。このNoteを通じて、私自身の経験や学びを共有することで、皆様がキャリアや日々の業務について考える一助となればと願っています。
学びは、時に苦しくもありますが、同時に新たな可能性や視点をもたらしてくれるものです。私自身も、まだまだ試行錯誤を重ねる日々ですが、それがあるからこそ得られる気づきがあり、前に進む力になっています。
皆様にとっても、この記事が「次の一歩」を考えるきっかけとなり、キャリア形成や日々の行動に少しでもプラスになれば幸いです。
ぜひ、この記事についての感想や、「こんな話題を聞いてみたい」というリクエストをコメント欄でお知らせください。皆様の声が、新たなテーマや視点を形作る大切なヒントとなります。一緒に学び続け、成長していく場を作っていければと思います。