インターネット・ミームを勉強・研究したい人向けのお話

 気付けば、大学院を卒業して1年経ってました。仕事し始めると中々思考活動しなくなるので、なんというか脳が衰えている感覚になりますね。久しぶりにゼミに参加してそう思いました。
 そんな脳のリハビリも兼ねて、最近巷で話題になりつつあり、なおかつ僕の専攻分野でもあったインターネット・ミームについて書いていこうと思います。

1.インターネット・ミームってそもそも何?

 インターネット・ミームとはそもそも何かという話ですが、その辺のなんちゃって解説ブログとかならリチャード・ドーキンスの話をしたらおしまいでもいいと思います。ただ、真面目に勉強したい、研究したいという人にとってみたらその前提を基にすると必ず躓きます。
 ドーキンスが発表した「ミーム」という概念は1976年に出版された「利己的な遺伝子」の中で登場したものです。この書籍が発刊された当時インターネットは民間には普及しておらず、あくまでリアル世界の文化遺伝子の伝染について触れられているにすぎません。しかもこの書籍日本語版がありますが、滅茶苦茶難解です。院時代に何度も読み返しましたが全然理解できませんでした。そりゃ全編にわたって抽象的でフワッとした概念をダラダラ書いているだけなので、自然と難しくなります。
 加えて、このミームという概念はかなりの批判もありますし、その批判に対して効果的な議論が展開できなかったために、ミーム論そのものが衰退し、過去の理論となりつつあります。中尾央も指摘していますが(https://philarchive.org/archive/NAK-6)、別にミーム論を用いなくても文化の進化は論じることは十分に可能なのです。

 それでも現在インターネット・ミームを研究している人は国外中心に多くいます。それは別に彼らがドーキンスの考えに心酔しているわけではなく、単に現代のネット社会の中で充分な影響力を持っているであろうインターネット・ミームと呼ばれる”モノ”に興味を持っているからです。つまり、過去のミーム論と現代のインターネット・ミーム論は連結していません。あくまで言葉の元ネタを言ってる人がいるから多くの研究者が紹介しているだけで、別にドーキンスの理論からインターネット・ミーム論を展開する人なんてほとんどいません。むしろインターネット・ミームは非常に具体的な事例も多いため、その具体的事例をコミュニケーション論やメディア論、記号論等で分析し考察することに重きを置いています。論文をいくつか調べてみたらそれはすぐに分かると思います(僕もそうでした)。

 ここまでの前提が理解できれば、あとはインターネット・ミームを各人のテリトリーの範囲で丸裸にしてやれば研究になります。僕は記号論を主軸としてインターネット・ミームの拡散における変異過程を考察しました。noteに自分の修論をどこまで好き勝手書いていいのかわからないので詳細は書きませんが、それなりに楽しめる論文が書けたかなと今でも思います。

2.インターネット・ミーム研究の面白さと難しさ

 インターネット・ミーム研究はかなり身近な物がテーマとなるので、日常生活の中にたくさんのヒントがあったりします。その点は面白い部分かなと思います。それにまだ研究もそれほど進んでいないので、誰しもが第一人者になれる可能性があります。
 裏を返せば、先行研究がほとんどありません。日本語論文に絞ったらもっとありません。多分まともにインターネット・ミーム研究して日本語で論文書いたの僕ぐらいだと思います。それぐらい見つかりませんでした。英語論文ならそこそこ見つかるので、Googleで英字で検索をする場面が多々出てくるでしょう。
 でも現代は非常に便利です。英語論文ぐらいなら、翻訳ソフトのDeepLもありますし、chatGPTといったAIチャットアプリでの翻訳も可能です。僕自身英語力はほとんど無いですが、ソフトを駆使して論文を翻訳しまくって参考文献のストックを増やしてきました。別に英語だからって怖がる時代でも無いのです。

 ただ、先行研究の絶対数が少ないのがやはりネックになります。インターネット・ミームと自身の元々いる学部学科のテリトリーとの接続は自分自身で考えなければならない場面が増えてくるでしょうし、そこが上手くいかないと研究は破綻します。僕も2年という時間的制約の中で、この接続がまとまったのが2年生の夏を過ぎたあたりです。そこは各人の底力に依存してしまいます。
 それでも研究していて楽しいと思えるのがこのインターネット・ミームなので、これから大学生大学院生になる人には是非お勧めしたい分野になりますね。道を作ってくれる人募集中です。

 最後に野望を少しだけ。一応今までそこそこ真面目に研究してきたので、インターネット・ミームに関する長文(書籍)を書いてみたいなあというのがあります。やっぱり日本語で参照できる文献がほとんどないですし、今日本に出回っているものはほとんど海外の訳本です。日本人が日本語で書いたインターネット・ミームに関する本はほとんどありません。それが作れたらいいなあというのが最近芽生えた野望です。いつになるかはわかりませんが実現できるように頑張りたいと思います。

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