思考回路
着手ってめちゃくちゃ当たり前の動作なんですけど、緊張するんですよね。色々考えた挙句の決断なんですよね。優柔不断な僕には辛いです。
なんだかんだ連珠やって10年以上になります。僕個人の考えなんですけど、相手の人って何考えてここ打ったんだろうっていう思考回路見てみたいなーって思うんです。頭ん中見せてってね。というわけで誰得なコーナーやってみます。
題材はこちら。
僕黒です。白は優勝した神谷八段です。今回のA級リーグで打たれた手の中で一番衝撃的でした。空中に浮いている様はまるでラピュタです。この後バルスされました。ここまでの色々な考えの変遷もあったんですけど、割愛します。打たれてから、何を考えていくか。着手に至るまで。
①状況の整理
まず、相手の筋を整理します。剣先とか連がどうなっているか。よく「速度」なんて言葉を使う人もいます。ここでまず判断します。
この赤ライン2本が速度早めに影響してきます。次は自分はどういう状況か…
はい。自分の持ち札とでも言いましょうか、青ラインが自分の攻め筋です。
全然繋がりません(泣)
一方の白は 赤➡︎緑ラインへと攻めが繋がります。ここで、速度で敗北している、相手の手番だ、防がないと!! という思考になります。実際、何もしないでどこか別の場所へ打つと、赤緑の筋から白勝ちが出ます。
参考図です。黒17と三でも四でも、ミセやフクミでもない手を打ちました。お手本のような三三禁にはまってしまいます。よって「手抜き」ができません。
ここまでの思考で、白16はそのままだと追い詰めがある手、つまり呼珠だとわかります。そして黒の自分には追い詰めがありません。結論として防ぎに回らないといけないという判断になるわけです。
②候補の検討
さて、防がないといけないという結論に至ったあとは、数ある候補から選ばないといけません。
あてにならない話をします。よく「第一感」なんて言い方しますが、様々や局面を前にすると、ここかなー?という感覚が湧いてきます。僕はその感覚で出てきた順番に検討します。本当は考え得るすべてを検討すべきなのですが、持ち時間の決まった対局だとまず無理です。
僕の中ではAから順番に頭に浮かんできました。なぜこの場所なのか。
先程の赤ライン、緑ラインを重ねてみるとわかります。矢印みたいになっている交点なのです。このラインを重ねてみた時点で、このHまでの候補の中では評価高めだろうと判断はしてました。候補が浮かんだら、そこから掘り下げます。まずはAについて。
Aと置いたと仮定し、①の作業へ戻ります。白として速度を検討した時、追い詰めはありません。よって黒の持ち札である青からの筋、黄色ラインから点線に繋がるというところが直線的な思考だとうるさく感じます。ここをケアするにはどうするか、相手の立場で考えます。要は青と打たれたときに白としては自分に流れを戻せる➡︎乗るような手にすればいいわけです。となると候補はAかBあたりか。「……すぐの決着にはならないだろう、嫌らしいけど」と僕は第一候補Aの検討を一旦止めました。保留とし、Bにいきます。
さて、黒17と仮定して赤と緑の残りを見るとこんな形です。追い詰めは無いにせよ、白がフリーダムになりそうです。
こう打たれたとして、この三どちらを止めても左上は真っ白模様ですね。この後どう防ぐかわからないのでたぶん負けそうだなー、と思って候補から外しました。次Cいきます。
Cの検討を始めたらすぐここまで行き着きました。はい、負けてます。三三禁です。却下です。
Dです。先程までの赤ラインの剣先を根本から止める形です。瞬間的には相手の筋が減りますが、その後が問題です。この20まで打たれたら身動きが取れなくなります。たぶんこれ負けてます。局後検討で神谷くんからこの手順は読んでたとも指摘ありました。選ばなくてよかったです。
Eです。相手の剣先?知らんわ俺は我が道を行く! かっこいいですね。Eだけに(E)。しかし魔城神谷ラピュタはそんなこと許してくれません。
白先詰め連珠に出てきそうな華麗な手順により、三三禁にはめられます。B〜E案が封殺されました。このあたりまで脳内検討すると、ラピュタ恐るべしという感情が湧いてきてましたね。
続いてF案です。白18から直接的な勝ちが出ないあたり有力かもしれないですが、どうも外に外に回られる形は好ましくありません。青ラインの形はできてるんですが、相手の剣先も2本生きてる上に勝ちきれないし外に回られている。限り無く却下に近いですが、負けないのでとりあえず保留にしました。
G案です。図の通りに読みました。たぶんここまでくると止まりません。追い詰めになる手は却下です。最後の案Hです。
17と剣先を構えます。しかし、外から封殺されるビジョンが見えました。結果的にさらに白の攻め筋が広がります。こういう瞬間的には白のより良いてが見えるものは却下です。
ここまで思考を巡らせた時点で、ほぼ候補Aにしようとは思ってました。残ったA、F案については、最後の検討をしていきます。脳内検討。
③選択
さて、最後の段階です。有力な候補の中からどれを打つか選択します。最後の確認です。まずはA案。
保留にしていた図をもう一度持ってきます。実際のところ、この中のA、B以外も手はあるでしょうが… 16なんていうオラオラな手を長時間読み込んで打ってきた後に、ごめんなさいという形で防ぎにくることは考えにくいです。さらに攻めてくると考えたら僕はAかなと思ってました。
何がやばいって、青ライン①という攻めの起点は赤点線に防がれた場合ミセ手となるので打てません。白にはさらに赤ラインの形が残ってるので、手番を渡せば必敗です。
その赤点線がいやなら先に潰してしまう…だがしかし左の真っ白どうするの? という形になります。この18打たれたらいよいよ厳しそうだな、とは考えてました。
もう1つのF案を考えてみます。外に囲まれて嫌な形です。
とりあえず打ち進めます。こんな展開になるかなー?みたいなところです。この状況からは黒追い詰めはありません。それに加えて白に左側に壁を作られて、斜めの連も剣先もあり嫌な形です。
考え得る攻め筋をマーキング。こんなの止まんねーよ!!という結論に至りました。赤は速度早めの筋、緑はその後予想される石の並びです。ここでほぼAでなんとかしようという結論にはなってました。またAに戻ります。
このあたりで振り返った時に、こんな手が見えてきました。
単純に中に入って潰してるだけですが、白の追い詰めはない上に、割と強そうです。白に勝ちが無いとして、かなり威力ありそう。
こちらにも当てはめてみます。
白の強力な起点である20のような手がきたときに、青ラインがミセ手になってくるのです。これでは白は防ぐしかありません。こうした展開も見えてきて、A案しかないと決定しました。
もちろん細かいところ読まないとなんですが、ここまで40分以上使いました。この先もっと読まないといけない局面、もしくは勝ちを読む局面になったときに時間がないのは辛いです。
あとはどうにでもなーれ!
というわけで
打ちました。長い長い思考タイムでした。
結果的に検討してた19まで打ちました、なんとかそのまま白に勝ち切られることなくお互い秒読みになりましたが、そのあとバルスされました。
今回は衝撃的な1手に対する対応というところでもあったので、難しい局面敢えてチョイスしてしまいましたが、次はもっと簡単なのにします。何が言いたいかって、魔城神谷ラピュタはすごかった。
神谷くんおめでとう!
※対局後に神谷くんに聞いたら思いつき… だったそうです。少し手順違いますが、岡部九段が2013年珠王戦で小林高一五段と打った棋譜がありました。