--書評『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』
「今日の会社には、基本的には適応するか、死ぬかの選択肢しかない。
だから、すべてのマネージャーは、新しい環境に自らを適応させなければいけない」
アップル創業者であるスティーブ・ジョブズ氏や、マイクロソフト創業者であるビル・ゲイツ氏が、世界中の人々の暮らしや仕事を、パソコンという画期的発明を普及させることで、大きく革新させたサクセスストーリーは、ITに興味のない人でも、一度は耳にしたことがあると思います。
でも、インテルのアンディ・グローブ氏という名前を挙げても、
「誰それ?」
と聞き返してしまう人のほうが多いかもしれない。
「Intel Inside(インテル入ってる)」
という有名なキャッチフレーズを考案した人であると覚えておけば、後々に思い出しやすくなるかもしれません。
アンディ・グローブ氏は、世界トップの半導体メーカーとして名高いインテルの社員第一号として入社。その後、インテルのCOO、CEO職を歴任。晩年は、スタンフォード大学経営大学院の客員教授として教鞭を執りました。
シリコンバレーには無数に存在する小さな半導体ベンチャーの一社にしか過ぎなかったインテルを、年間売上高3兆円もの規模を誇る巨大企業へと成長させた、紛れもなく偉大な経営者の一人です。
そんな、グローブ氏が自筆した著書『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』は、1984年に出版され、以来マネジメントの名著として知られ、名だたる企業のリーダーやマネージャー達に愛読されてきたベストセラー書籍の一つです。
本著は、グローブ氏が苦悩を積み重ねながら、インテルという巨大企業で実践してきたマネジメントを、グローブ氏自身の手で言語化したものです。
これからマネージャーを目指そうとしている人、マネージャーという立場になったけど何をしたらよいのかわからず困惑している人、もちろん既にマネージャー経験のある人にもオススメできる実践的な内容の一冊です。
『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』
本著の中で、グローブ氏は、
「マネージャーのアウトプットを最大化することが、組織全体として最高のアウトプットの実現に繋がる」
と結論付けています。
市場が成熟し、競合製品との差別化が困難となる「コモディティ化」の壁に直面した業界においては、競合との熾烈なシェア争いが生じます。
すると、「どのようにしてライバルよりも時間をより効率的に使うか」という「タイムベース競争」を余儀なくされます。
タイムベース競争下では、時間という最大の制約を念頭におきつつ、システム上に存在する「ボトルネック(制約的ステップ)」を常に探して、すべての工程のリズムやプロセスを再定義し続けなければ、アウトプット(生産性)を効率的に高めていくことはできません。
究極的には、すべてのプロセスがオーケストラのように完璧にすべての役割が一つの目標に向かって同期しながら働くことが期待されます。
また、正しい指標を設定されていなければ、現場では誤った指標に基づく生産活動や改善活動に日々延々と注力してしまうこともあります。そうすると、たくさんの「ムリ・ムラ・ムダ」が生じてしまいます。
さて、当時絶好調のインテルは純利益30%成長という驚異の成長率を毎年のごとく叩き出し、半導体事業は飛躍的な拡大を遂げ、採用された従業員達は次から次へと昇進していました。
しかし、一方で、昇進した多くの従業員達が期待された成果を出せなくなる「ピーターの法則」にも直面していました。
管理者や監督者の役職に昇進した人物達は、過去には良い成果を残しており、誠実で、能力や品位に溢れ、トップからの指示に従って率先して仕事に取り組む模範的な従業員達でした。
しかし、彼らには共通する欠点もありました。「積極性が低く、社内にこもりがちで内向き志向の人物が多い」という部分でした。
グローブ氏は、最小の労力で最大の成果を発揮する「テコ作用」に注目し、マネージャーがテコ作用を発揮するには、
「部下から最高の業績(スループット)を引き出すこと」
が不可欠であると考えました。
そして、マネージャーのアウトプットとは、
「監督下にある組織のアウトプット及び、影響下にある隣接組織のアウトプットに他ならない」
と結論付けて、
マネージャーがやるべき行動は、
「情報収集、情報共有、意思決定、突っつく、模範になる」
の5つだけであると導き出しました。
マネージャーはどのように直属の部下と付き合うと良いのか。メンバーとの「1on1ミーティング」について、本著では以下のようなポイントが紹介されています。
・メンタリングを受ける側のメンバーがアジェンダを準備する。
・最低でも1時間のスケジュール枠を取る。
・マネージャーはメンバーが話す内容に対して真摯に耳を傾ける。
・お互いが課題の根底に到達した満足感を得られるまで質問を繰り返す。
・褒めるべきところは褒める。
マネージャーは、日々刻々と発生するあらゆる問題に対処しなければなりませんが、1on1を通じたメンバーとの対話から、よりよい意思決定を迅速に下せるようになるならば、マネージャー側にとっても1on1は大きなメリットがあります。
そうして、アウトプットという本質的な提供価値を問い続けたグローブ氏は、物事が変化するスピードが猛烈に速かったIT業界にとって、それ以前の従来型のマネージャーではチームやプロジェクトを支えるには実力不足であると考え、意欲的な起業家気質を備えた人物の新規採用、積極的で物事の進取に長けた人物を猛スピードで昇進させる、という方針を打ち出したとも言われています。
まとめ
・マネージャーのアウトプット最大化が、組織全体として最高のアウトプットの実現に繋がる。
『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』が出版されてから35年の月日が経過し、グローバル企業は世界中にオフィスを構え、母国語も、学歴も、年齢も、性別も、働く時間帯、場所も、まったく違う従業員達が協働し、地球上のどこにでも数十時間内で移動することができて、ネットに接続できれば、どこに居ても変わらないパフォーマンスで仕事ができる時代です。
そのような時代に、会社のマネージャーはどのように行動すべきか。
不確実性の高い環境の中でも、最高のアウトプットを引き出すための
『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』を、本著では学ぶことができます。