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ホラー映画の感情がわからない

怖い話とか怪談とかいうものが好きだ。作業BGMはYouTubeにアップされている怪談朗読だし、読む本といったら怪奇幻想やサイコスリラー、サスペンスに分類されるたぐいのものに限られている。いま思えば大学で選んだ専攻も、研究対象として怪談奇談を嬉々として扱うので、もう人格のほとんどを「怖い」や「奇妙」、「不気味」に浸食されているといっても過言ではないかもしれない。そういえば今のバイト先も、最近読んだのはつげ義春です、と答えたら採用されたような記憶がある。つげ義春が「怖い」に分類されるかはひとによって意見が分かれるだろうが、「つげ義春が好きなひとに悪い人間はいません」と豪語してアルバイトを採用する職場は間違いなくホラーだと思う。盛り塩してあるし。

前述のとおり作業BGMは怪談動画である。ゆっくりボイスと呼ばれる機械音声でひたすら「洒落怖」を朗読してくれる動画や、怪談士さんたちがキャッキャウフフしながら怪談トークをする動画なんかを自動再生で延々流している。ホラーゲームの実況もよく観る。おばけが出るのも人間が怖いのも好きだし、流れてきたらUMAもUFOも聴く。ちなみに推しチャンネルはありがとうぁみさんが主宰する「怪談ぁみ語」、推し怪談士さんは「ぁみ語」常連のDJ響さんと伊山さんです。伊山さんに関しては最近個人チャンネルも開設なさいました。何卒。

リンク貼るのやってみたかったんですよね。サムネがすごい。

話を戻す。そんな生活を送っているので、先日、最近話題のホラー映画、『事故物件 恐い間取り』を観に行ってきた。原作はかの有名な「事故物件住みます芸人」松原タニシさんの著書である。友人に薦められ、ひと晩で読みきるくらいには楽しく拝読したし、BGMとしてもタニシさんにはたいへんお世話になっているので、映画化が決まったときから「観る」というのは自分のなかで決定事項だった。ゆえに、ホラー映画をほとんど観たことがないくせに、ひとりでいそいそ観に行った。女子高生がめちゃくちゃいたのですごく肩身が狭かった。みんな亀梨くん目当てだったのかなあと思う。タニシさんファンのJKがあんなにいてよいはずがない。

動画貼るのおぼえたのでもっかいやってみました。

改めて述べておくが、筆者はホラー映画なるものを観た経験がまったくと言ってよいほどない。サスペンスやスリラーと呼ばれる「人間が怖い」系は結構観るが(というかここ数年、危ない人間が周囲の人間を酷い目に遭わせるたぐいのものしか観ていない気がする)、心霊系の映像はつい最近まで観たことがなかった。映画はもちろん、テレビ番組も満足に観たためしがない。世にも奇妙な~はぎりぎりいけるがほん怖は観られない。

理由は簡単、怖いからだ。怖いというより、びっくりする。

ジャンルの定義に疎いため、ここでは便宜的に、幽霊やそれに類似の性質をもつなにものかが、人間になんらかの脅威を及ぼす系統の物語を「ホラー」と呼ばせていただくが、そういった映像作品は往々にして視聴者を驚かせてくる。バアンとかキャーとかいうかんじで、超常現象が愚かな人間に襲い掛かるシーンが当然主眼となってくるので、観ているほうは、突如鳴り響く大きい音だの、画面いっぱいに広がる崩れた顔だのに何度も驚かされなくてはならない。筆者はそういう心臓に悪い演出が長年苦手だったのである。語りや小説はそういう驚かし要素が少ない(※個人の感想です)ので安心して物語に没入できるが、映像となるとそうはいかない。親元から離れ暇を持て余すようになってからそうした映像作品にも食指を動かしたが、元来小心者であったから、筆者は「ホラー映画」なるものの知識をほとんど持たない。ホラー映画のセオリーといえるようなものを、まだまだ把握できていないのだ。


前置きがずいぶん長くなってしまった。そういうわけで、ホラー映画のなんたるかをほとんど知識として持たないまま、筆者は当該映画を観に行ったわけだ。決定的なネタバレとなるような表現はしないつもりでいるのだが、論点が論点だけに物語の最終局面について言及するため、内容が気になる方は以下ご注意願いたい。


結論から言うと、おもしろかった。

おもしろかったし、同じくらい「!!?!?!???!?」となった。


なんだろう、その、とってもおもしろかった。おもしろかったのだが、なんというか、最後が、うん、バトル漫画でヴォルデモート卿だった。

誤解を招かぬようとにかく強調したいのは、とてもおもしろい映画だったということだ。原作を読んだ者にとっては懐かしいエピソードが散りばめられ、タニシさんの動画の視聴者にとっても見憶えのある顔がちらほら見えるので、懐かしい親戚に会ったようなほんのり嬉しい気持ちになる。無論ホラー描写も迫力満点で、蚤の心臓を持つ筆者は何度空中に浮き上がったかしれない。亀梨くんも格好良かった。きっと女子高生たちも心ゆくまで亀梨くんを堪能できたに違いない。

だが、なんと表現すればよいのか──終盤まで淡々とエピソードを重ねてきたこの映画は、最後の最後でいきなりエンジン全開になった。気付いたときには、人間vs.事故物件の精(概念)の迫真の戦いが眼前で繰り広げられている。映画のレビューの経験はホラー映画鑑賞の経験以上に皆無に等しいため、表現が拙いのはこの際御寛恕いただきたいのだが、なんというか、ホラードキュメンタリーを観ていたと思っていたところ、詠唱を伴う異能系少年漫画のクライマックスに精神を乗っ取られたかのような心持ちであった。映画が終わり、女子高生による感想トークのざわめきに包まれながら劇場をあとにして、駅へと続く道をぼんやりと歩きながら、呆然とする頭の片隅で筆者は思った。


ホラー映画を鑑賞するにあたって、抱くべき感情がわからない。


この感覚はなにも、今回の映画で初めて抱いたものではない。親元を離れ、徒然なるまま「ホラー映画」という世界に飛び込んで以来、頻繁に苛まれているなんともいえない感情だ。

最初に、発生する怪現象が描写される。登場人物がその現象に怯え、悩まされ、徐々に追い詰められていく。まずここまではよい。その怪現象の実態に迫るべく、発端や原因を追究するというフェーズもあるだろう。その過程で霊媒師などといった職能者が手を貸してくれることもあるかもしれない。まだそこまではわかる。


なぜ皆最終的に、怪現象とデュエルしてしまうのか。


いや、まあ、霊媒師さんに出会ったからには、勢いに乗って怪現象の原因に立ち向かってやろうという気にもなるかもしれない。そりゃあそうだ。どうにかできるなら解決したくもなるだろう。

でもおめー、今までめっちゃくちゃ怖がってたじゃん。この世の終わりかってくらい怪現象に怯えていたじゃないか。なぜ物語の最終局面になると、そんな呪符だの呪具だの呪文だのを携えて、心霊と勇ましく闘ってしまうのか。なぜなのか?

どうして終盤になると、ホラー映画の登場人物たちは、怪現象に敢然と立ち向かってしまうのか。

筆者には、その感情転換システムが未だによくわからないのだ。なんだろう、いままで怯えさせられたぶん、フラストレーションが溜まっているのだろうか。やられたらやり返したくなるのが人間のさがなのだろうか。おまえは恐怖体験をしたことがないからそんなことが腑抜けたことが言えるのだと言われたら、ああ、そうなのかなあ、と言わざるを得ないけれども。

しかしやっぱり、ホラーを観ていたつもりが突然胸アツバトルアクションになる、ホラー映画を鑑賞するたびにそんな展開が待ち受けているものだから、純粋にホラー描写を楽しんでいたホラー素人としては、怪現象を怖がっていたこの純粋な感情を、クライマックスのバトル展開にどう寄せていけばよいのかわからないのだ。


だって、わたしが観てたのホラーじゃなかった?


人間、めっちゃ退けるじゃん、と。


かの有名なウィンチェスター・ミステリー・ハウスを題材にした映画も、新年初映画として鑑賞したオリジナル版バレエ学校ホラーも、なんだか最後は胸アツだった。なんかおばけに銃撃ったりしてた。なんなん。ホラーはバトルがつきものなのか。なんなのか。話は変わるが高校時代に友人と観た『ミスト』はホラーに入るのだろうか。あれも唐突に時空が裂けたので「!!?!?!???!?」だった。なぜ時空が裂けるのか? そもそも時空ってなんだ。ホラーとはいったいなんなのだ。ホラー映画を観るたびに襲ってくる、この釈然としない感情はなんだろう。わたしはホラー映画に向いていないのか?

もちろん、ぜんぶが全部「そう」ではないことは十分に理解しているつもりだ。きっと筆者が選んだ作品ことごとくが偶然「そう」いう展開だったというだけの話なのだろう。しかし、なにぶんホラー映画に疎い状態で、数ある作品から選んでしまった作品が「そんな」映画ばかりなものだから、感覚としては ホラー映画≒詠唱系異能バトル である。これまで小説や語りといった、オチらしいオチを持たない「恐怖」が許容される界隈を主戦場としてきたにわかオタクが、そんな急転直下の展開に触れ続けたらどうなるか。


「!!?!?!???!?」である。


混乱だ。


この世のすべてのホラー映画が胸アツバトルフェーズを持つのか? それとも単にわたしが、胸アツバトルフェーズの呪縛から逃れられない運命なのだろうか。


いったいわたしは、どんな心持ちでホラー映画に臨めばよいのだろう?


……何度も繰り返すが、これを書いている人間は両手の指で足りるほどしかホラー映画を観た経験がない、素人中の素人である。ホラーファンの方々からしてみれば、経験も知識もたらないひよっこがなにを見当違いなことを、と思われるに相違ない。そんな先輩方にむしろお願いしたい。詠唱系クライマックスを迎えない心霊系ホラー作品で、おすすめの映画があれば教えてはいただけないだろうか。

このままでは、歪んだホラー観を持ったまま、ホラー映画に対し「!!?!?!???!?」という気持ちを抱いたまま死んでいくのではないか、そんな危機感が常に隣にある。自分でも「そう」ではない作品を探そうと努めているつもりなのだが、なにせこれまでがこの有様である、すでになんだか自信がない。無論今後も努力を重ね、研鑽を積んでいく所存ではあるが、バイト先の先輩に熱烈に推薦されたのが最近amazon primeに追加されたことで話題の『来る』であるあたり、非常に前途が危ぶまれるところである。新幹線でおじいちゃんたちが集結するところがアツいのだと布教されたがその時点で薄々察してしまった。わたしはこれからも詠唱系クライマックスから逃れられない宿命なのであろうか。

ホラー映画の感情がわからない。『来る』については、amazon primeには未加入なので、今度DVDを借りてこようと思っている。最後になりましたが、『事故物件 恐い間取り』、絶賛公開中です。御覧になっていない方は是非、何卒。






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