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子どもの誇りに灯をともす――誰もが探究して学びあうクラフトマンシップの文化をつくる【読書記録#11】
お手伝いしているNPOの仲間から紹介してもらった本。記録していく。
プロジェクト型学習(PBL)の創始者とも言える、ロン・バーガー氏の本。メインテーマは、教育だったり、学校現場、そこで働く教師だったりするけれど、この本の根底にある「クラフトマンシップ」という考え方は、仕事にも人生にも気付きを与えてくれるものだった。
美しい作品をつくり上げるための
「クラフトマンシップ」
クラフトマンシップとは、という問いに対し、筆者はこう答えている。
教室でも、工事現場でも、私を突き動かす信念は同じです。それは、何かをつくり出すからには、自分が誇りに思えるような、力強く正確で美しい作品を仕上げるように全力を尽くすべきだという考えです。
教育の話なのに、美しい作品とは?アート教育の話?と思うかもしれないが、そうではない。ここでいう"作品"は、とことん探求し、それを結晶化させて他人にアウトプットするために作られた全てのもののことをいう。この本の中では「エクセレンス」と言われたりもする。何かを学んで、学んだ知識をテストでアウトプットして終わり、ではない。美しい作品は、何度も何度も作っては他人からのフィードバックをもらうことを繰り返し、極限まで磨き込んだものが「エクセレンス」と呼ばれる。そのエクセレンスを生み出す過程で、子どもたちが、読み書きもリサーチの仕方も、時には交渉スキルだって、実地で体得していく、というのがPBLの考え方だ。
美しい作品を作ることは、自尊心を育てる
本の中で紹介されるプロジェクトは、どれも子どもたちがなし得たとは思えないほど素晴らしいものばかり。もちろん最初から優秀な子どもたちだけが集まっているわけではない。そんな一例として、紹介されていたジェイソンのエピソードが印象に残っている。ジェイソンは一般的な言葉で言ってしまえば「不真面目な生徒」で、与えられた課題を適当に仕上げて提出していた。そんな彼が、周囲の生徒のクラフトマンシップに刺激され、少しつづ変わったのだ。
ジェイソンが変容するきっかけとなったのは…
…彼が一歩踏み出して自分の作品の質にこだわり、クラスの生徒からも熱い励ましをもらった瞬間に何かが変わったのです。
自分が誇らしく思えるほど、美しい作品を作れる生徒には、他の生徒の作品が「美しいかどうか」がわかる審美眼がある。ジェイソンが自分の作品に本当に心から向き合って関わったことを、周りの生徒は感じ取り、ピュアにその時に感じた気持ちをジェイソンに伝え、それがジェイソンの自尊心を温めたのだ。
ある時、彼は自分の作品を見て微笑み、「この作品を誇らしく思う」と言いました。「この学校に来てから初めて、よくできたと感じる。クラスのみんなも気に入ってくれると思う」
自尊心については、こんな言葉があった。
生徒の自尊心をまず高めて、そのあとに作品の質を高めることはできません。良い作品をつくり上げるその過程で自尊心が培われるのです。
なんとなく「褒めて育てる」という言葉があるが、何でもかんでも褒めればいいわけではないのだ。ベースに、本人の努力や挑戦があるかどうか。ないところをただ褒めても、自尊心には繋がらない。
プロジェクト型学習という教育
こういったさまざまなエピソードからわかるが、この本で紹介されているプロジェクトは、学習過程の最後におまけでつくようなものではない。ガチのやつだ。だからこそ、子どもたちはプロジェクトを通じて、基礎的なスキルも、専門的なスキルも身につけることができる。
プロジェクトとは、それ自体が基礎レベルのスキルと高次のスキル双方を教授するものです。しかし、「プロジェクト」という言葉はほとんどの人にとって、カリキュラムの学習が終わった後に行う、おまけの活動を連想させるのです。
こういった教育を展開できる教師は、世界中でどれくらいいるのだろうか。著者は、教師に向けた言葉として、こんな言葉を記している。
さらに大きな壁となるのは、教師の自信と経験です。…そんな先生にまず提案したいのは、「自分はすべてにおける専門家でなければならない」「あらゆる答えを知っている人間でなければならない」という思い込みを捨てることです。その代わり、自分は生徒と一緒に共同研究をしているリーダーであると考え、共に学べばいいのです。
そして、生徒にもグラウンドルールを理解してもらうことが非常に重要だ。PBLにおいては、「やり直し」は称賛されることである。
生徒たちには、あらかじめ「質の高さを実現するということは、何度も考え直し、手直しをして、磨くということだ」と理解してもらう必要があります。草案のやり直しは、嘲笑されることではなく、称賛されることだと感じるべきなのです。
街の水質検査を行ったクラスの母親の言葉が心に響く。教育とは、テストの点で出来不出来を決めるような薄っぺらなものではないのだ。
「私の息子は変わりました。いくらテストの結果が振るわなくても、息子は自分が勉強のできない生徒だと思わなくなりました。あのプロジェクトを成し遂げたのだから、自分にはそれだけの能力があると言じているのです」
教育学にもっと興味が湧いた一冊でした。
ちなみに、このPBLの先進実践校である、アメリカの公立学校High Tech Highを舞台にしたドキュメンタリー映画『Most Likely To Succeed』があるらしいので、どこかで見てみたいな。調べてみよう。