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社長失格【読書記録#12】

DeNA 南場さんの著書「不格好経営」の中で、「この本を読んで、心が踊ったらDeNAに来い」とされていた本。どんな本なのか気になって読んだので記録していく。

よくあるベンチャーの成功記かと思えば、そうではない。この本はビルゲイツが会いたいというほど時代の風雲児的存在だったIT企業の社長が、会社を潰し、社長自身も自己破産するまでの物語である。
倒産時の負債総額は37億円。とんでもない額である。

そんなバッドエンドにも関わらず、一人のベンチャー社長が日々奮闘し、次々と起こる苦難に対してもなんとか立て直そうとし続ける様子が書き綴られていて、物語のように一気に読んでしまった。

著者の板倉氏は根っからの起業家だ。

カネに困ったこともあるし、社員に逃げられたこともある。ただ、根っからの起業家にして楽天家のぼくにとっては、そんな苦労自体も楽しいゲームの一環ととらえていた。何もないところから自分自身で何かを作り上げていくことに興奮と満足を覚えていた。…次の「何か」を始めたい。次の「何か」を始めなきゃ。新規事業への欲望と、現在のささやかな成功に対する将来への不安。この二つがぼくを駆り立てた。インターネットの分野へとー。

p.72

このワクワク感、高揚感。これを感じられる人だけが、新規事業というリスクの高い挑戦をするんだろう。

板倉氏は、後に「ハイパーシステム」という名のついたビジネスアイデアを思いつき、その事業計画を瞬く間に練り上げていく。そんな中で、出てきたエピソードが印象に残った。社員と経営者の目線の違いだ。

もっと直感的にいいのか悪いのか、それともよくあるアイデアなのか、ぼくは社員にはっきり言ってもらいたかった。でも無理はないのかもしれない。日々の目の前の仕事に追われている彼らと、ぼくのように先のことばかり考えている人間との間にある程度のギャップがあっても当然だろう

p.83

その後も、本当にこの事業をやるべきか、板倉氏は葛藤していく。

ぼくは思わずディスプレイから顔を上げた。
おれは分不相応な事業に手を出そうとしているんじゃないか。本当に実現できるのか。
ぼくはいつのまにか自分のアイデアに振り回され始めていることに気がついた。
今の段階のシミュレーションにもしも誤りがあれば、すべてが終わってしまうかもしれない。この事業がではない、この会社自体が、である。このときぼくはそんな予感がした。

p.100

「ハイパーシステム」をやる、という経営判断は、かなりリスクの高い決断なのである。そんな重要な決断に至った心境が、なんというかものすごく元気付けられた。

翌日朝、ぼくは自宅のトイレで結論を下した。
客観的なデータをいくら積み上げてもしょうがない。成功するかどうかはやってみなければわからない。いま、おれがこの事業を始めたいのかどうか、その主観、その念こそが大切なのだ。で、おれはやりたいのか。
……やりたい。

p.100

結局何事もやってみないとわからない。「やるか」「やらないか」、そして、「やるなら、選んだ選択肢をどう正解にしていくか」なのである。

しかし、悲しいことにこの事業判断から、徐々に軋みが出てくる。

多くの金融機関はぼくにカネを貸したのではない。ある意味で最初にバックについた住友銀行の看板に貸したのである。そしてぼくは住友銀行という法人の宿用を完全に勝ち取ったわけではない。
「ベンチャーを育てよう」というこの時の住友の戦略の元、国重さんという個人の信用を一時的に勝ち取ったに過ぎなかったのである。
この「ずれ」が二年後、ぼくの首を絞める。しかし、九五年末のこの時点、「新事業」という熱にうかされ始めたぼくに、そんな想像が働く余地はなかった。

p.105,106

銀行などへの説明も、話を聞いてもらえなくなってくる。社内でクーデターが起こる。

でも、そのときぼくは思った。説明の内容が悪いんじゃない。おれが悪いんだ。
会社がつぶれた後に何人かにこんなことを言われたことがある。
「板倉さんはさ、アイデアを最初に考え出して起業するまではいいんだよね。でも、起業したに組識を作って安定的に経営するのはあんまり向いていないんじゃないの。」
そもそも飽きっぽいベンチャー大国米国では、アイデアを出し起業するいわゆる「起業家」とその後実際に経営う「経営者」が別人であるケースは、珍しくない。要するにこの二つの仕事は性格がまったくるものなのだ。両方の資質を持っているならばともかく、片方だけの場合、どちらかの仕事にした方がよいに決まっている。
ぼくもそうなのかもしれない。アイデアを思いついて事業化するまでがぼくの仕事。そのあと実際に経営するのは、他の人間に任せればいいのかもしれない。

p.252

そこから、破産するまでの物語が、本では赤裸々に語られている。
この本を読んで思ったのは、本当に社長というのは孤独で、でも人間味に溢れた生き方だなぁということ。ビジネス的に失敗であっても、そこを生きた人には、精一杯の拍手を送りたい。私も困難があっても何度も立ち上がるような生き方をしたいと思えた本でした。

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