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ボーイズ 男の子はなぜ「男らしく」育つのか【読書記録#13】

最近、6歳の子どもが「男の子っぽいこれが好き」「これは女の子っぽいからいやだ」なんて発言する。
いやいや、君の好みと性別は関係がないと思いながら、あまり上手く説明できずにいて、こういうジェンダー系の話が気になっていた時にSNSで見かけて手に取った本。

いつも以上に雑感になってしまいそうだが、記録していく。

「男性らしさ」が男性を生きにくくさせる

この本の問題意識はこうだ。男の子を育てるレズビアンの母親がこれらの質問の答えを出したいと思って、書いた本なのである。

男であることと、ミソジニーや無条件の男性権利意識とを切り離すにはどうすればいいのだろう?マスキュリニティについて社会から受け取るメッセージについて批判的に考え、自分や他人を傷つけるようなジェンダー期待をはねのけるために、どんな手助けができるだろうか?男の子や男性にとってより自由で広がりのあるマスキュリニティのかたちをつくるうえで、フェミニズムや、女の子と女性の平等を目指す聞いから学べるものは何だろうか?

はじめに 今、男の子の育て方に何が起こっているのか p.20

タイトルにもなっている「男らしく」とは、どういう振る舞いなのか。とあるリサーチが炙り出した、7つの「マスキュリニティの柱」は、とても典型的なキーワードが並ぶ。

ジェンダー平等を推進し女性への暴力をなくすため、男の子と成人男性を対象として世界各地で活動するNPO「プロムンド」から、若い男性たちが今の時代と自分たちの立場をどう捉えているのかを映し出す報告書が2017年に発表された。その名も「マン・ボックス」と題されたレポートは、アメリカ・イギリス・メキシコの各国で人種的・社会経済的な人口構成を反映させて選出した10代から20代の若い男性4千人近くを調査し、現代の男性性についての彼らの考えをまとめたという有意義なものである。プロムンドのリサーチでは、7つの「マスキュリニティの柱」が設定されており、それらを著しく内面化したり、それらと強く共感している場合に、回答者は「マン・ボックス内にいる」と判断される。7つの柱とは以下のとおり:自己充足的である、タフにふるまっている、身体的魅力がある、伝統的で厳格なジェンダー役割に従っている、異性愛者である、性的能力が高い、攻撃によって争いを解決しようとする。

1章 男の子らしさという名の牢獄 つくられるマスキュリニティ p.41

一見すると、7つの柱は褒め言葉のように思えるかもしれない。それは、もうすでに自分の中に、ステレオタイプ的なマスキュリニティ(男性らしさ)が染み付いてしまっていることを意味する。裏を返すと、7つの柱から外れた特徴を持つ(身体的)男性は、「劣っている」というラベルを貼られるからだ。

では、こういう「男らしさ」で良し悪しを図るのをみんなでやめよう!とすれば、一件落着かというと、そんなシンプルな話ではない。「男性らしさ」がマン•ボックス内の共通項となることで、そこに所属する男性の幸福度を上げているというのだ。しかし、それに伴うリスクを考えると、本当にそれは幸福なのか、甚だ疑問である。

マン・ボックス内の男性たちはほかの回答者に比べて生活満足度が高かったーこれはおそらく、伝統的な男らしいふるまいや態度という様式にならうことで、現代では廃れつつあるものにしろ、ある種のアイデンティティや帰属意識が得られるためだろう。
しかし同時に、マン・ボックス内の男性たちは深刻な状況に陥っているようでもある。彼らのあいだでは、健康や安全面でリスクを冒したり(例えば大量飲酒やコンドームなしのセックス)、暴力の加害者や被害者になったり、女性に性的嫌がらせをしたりする傾向がより強くなっている。また、うつになったり自殺を考えたりする傾向もより強く、親密な友人関係を保つことや心理面・感情面で助けを求めることが苦手である。

1章 男の子らしさという名の牢獄 つくられるマスキュリニティ p.44,45


自分の中にもあるアンコンシャスバイアス

本の中では、ジェンダーだけでなく人種差別の話も出てくる。心にぐさっときたのが、養子縁組のための交流会のこのシーン。

そのブースの隣を見ると、十数組のカップルが並び、会場内に長い列をつくっていた。その日参加した機関のなかでそこだけ、まだもらわれていない白人の女の子の赤ちゃんがいたのだ。

2章 本当に「生まれつき」?ジェンダーと性別の科学を考える p.68,69

人間のグロテスクな面が本人たちは無意識のうちに出ているようなシーン。他人事ではなく感じて、アンコンシャスバイアスというのは本当に難しい問題だと感じた。

アンコンシャスバイアスはこんなシーンでも露呈する。

30年前、社会学者のバーバラ・カッツ・ロスマンは、著書「The Tentative Pregnancy(暫定妊娠)」のなかで、誕生前に赤ちゃんの性別を知ることで何が起きるかについて取り上げている。彼女が妊娠後期の妊婦たちに胎児の動きを言葉で表してもらったところ、赤ちゃんは女の子だとわかっている女性たちは、「元気で、でも激しすぎることはない」というように、穏やかな表現を使って動きを描写した。これに比べて、男の子が生まれる予定の女性たちは、動きを「パンチ」や「地震」といった言葉で描写した。赤ちゃんの性別を聞いていなかった女性たちは、描写のしかたに特定の傾向は見られなかった。

2章 本当に「生まれつき」?ジェンダーと性別の科学を考える p.71

結局、私たちはバイアスばかりの社会の中で日々暮らしていて、どんなに意識しようとそれらから影響を受けている。まず、それを認める必要があるのだ。

私の知っている限り、息子がいる親はほぼ全員、一度はこのような発言をしている。「好みに影するようなことは何もしてないのよ。この子はただ自然とトラック(あるいはフットボール、スターウォーズのレゴ、その他男の子用と定義されるもの)が大好きになったの!」。しかし、ピンクとブルーの分離化がこれほど広まっており、しかもそれがごく早期に始まって、本や映国や広告や、大人からの直接的・間接的期待によって繰り返し強化されていることを考えれは、生物学的要素と社会的要素とを見分けることは不可能だ。自然な状態で子どもたち自身がどんなおもちゃやTシャツを選ぶのか、本当に知ることはできない。私たちの文化の中で、そんな余地はほとんど与えられないからだ。

2章 本当に「生まれつき」?ジェンダーと性別の科学を考える p.76


バイアスだらけの世の中で育つ子どもたちにできること

そんなバイアスだらけの世の中で、ロールモデルがいる、ということは、非常に大きな力を持つようだ。

ノースカロライナ州の公立学校に通う10万人の黒人生徒たちを対象とした長期調査によると、低所得層の黒人生徒たちが小学校時代にひとりでも黒人の先生に教わった経験がある場合、高校を卒業し大学進学を考える確率は大きく上昇することがわかった。貧しい黒人の男子生徒のあいだでは、たったひとり黒人の先生がいることが、退学率の40%近い低下という飛躍的な変化につながっている。

4章 ボーイズ・クライシス 学校教育から本当に取り残されているのは誰? p.142

また、暴力的なゲームへの向き合い方について、結局それを制限する表面的な対応は意味をそこまで成さず、こどもとそのことを話題にし、話し合うことが唯一の方法と、本では触れられていた。

「ポップカルチャーの問題点を一朝一夕に解決することはできません。君たちが好きなものは君たちのためにならないんだ、と、独断的な説教をして解決するものでもありません」と、彼は言う。「ポップカルチャーの悪い部分に押しつぶされてしまわないように子どもを育てるには、それについて子どもと話し合うことが唯一の方法なんです」。

6章 ゲームボーイズ 男の子とポピュラーカルチャー p.273

その他、オランダの性教育の話など、学びの多い本だった。「なので今日からこうしましょう」というHow toの本ではないが、ジェンダーの歴史を知るのにもいいかも。

この本きっかけに、ちょっと前に読んだ↓の本をもう一度読みだくなったので、また読んだら記録したい。


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