【創作エッセイ】アイドルになれたら㉚
※作中に登場する団体や固有名詞等は、現実とは一切関係ありません。全て「うゆ」の夢をもとに書かれたフィクションです。
予感は真実を連れてくる。
Side of ルイ
練習室からブランケットを取って、作業室へ戻ろうと歩いていた。
廊下の角を曲がると、何やら楽しげな声が聞こえた。
前方にはうちのグループの企画部チーフ（長）である男性社員と、笑顔の社長が何やら話し込んでいる。普段は業務上のやり取りしかしてない印象だったので、談笑を目撃するなんてレアだ。
ルイ「お疲れ様です」
チーフ「あ、お疲れ様です。これから練習？」
ルイ「いえ、今日は作業の予定です」
チーフ「そっか、頑張ってね」
ルイ「ありがとうございます」
気さくで人当たりの良いチーフは社内でも人気が高い。見た目の若づくり感は否めないが飾らない人柄で、外部との取引の勝率は90％以上という抜群のウケっぷりだ。
挨拶もしたので立ち去ろうとしたら、社長に呼び止められた。
社長「ルイ、ちょっと話があるからあとで社長室に来てくれないか」
びっくりしたが、二つ返事で了承した。社長直々に呼び出されるときは大抵SNS関連の相談なので、今回もそうだろうと思っていた。
作業室に戻ると、早速ソファでぐっすり眠っているうゆの姿があった。
ルイ「うゆ～ブランケット持って来たよ～」
当然反応はない。自己管理の下手さには本当に世話が焼けるが、日々の努力を考えると許してしまう。
ルイ「…どんな体勢で寝てんの（笑）」
うつぶせ寝の状態で四肢を卍の形に曲げ、首を右に捻った状態だ。これでは確実に寝違えるし、誰かに見られたら一生いじられるくらい面白い光景だ。
起こさないようにそっと仰向けの姿勢に戻す。照明を常夜灯にし、ブランケットを3枚かけ、クッションを枕代わりに挟んだ。
落ち着いた顔で眠る うゆの顔は、出会った頃の幼さがそのまま滲んでいる。
ルイ「…」
少しこけた頬と細い手足は、今にも壊れそうな雰囲気さえ感じる。
放っておくと無茶するし、制作で誰よりも時間を取られているうゆに、果たしてどれだけの自由があるだろうか。そこに心的ストレスが加われば、自分ならキャパオーバーで逃げ出してしまうだろう。
なんだかこのまま放って出ていくのがはばかられて、少しの間ソファの傍に立ち尽くしていた。ゆっくり休んでほしい気持ちと、今すぐ起きて話したい気持ちが交錯する。
ルイ「…またすぐ戻ってくるから」
聞こえるわけもない言葉を残して、急いで社長室へ向かった。
社長室に入ると、応接に使われる奥のスペースに通された。
ルイ「失礼します。お待たせしてすみません」
社長「急に呼び出して悪かったね」
ルイ「いえ。それで、話って何でしょう？」
社長は軽く頷いた後で、こう問いかけた。
社長「うゆがこの前POPAPIPIに上げた曲、どう思う？」
想定外の言葉だった。一瞬で自分の非を思い出して背筋が凍る。
ルイ「えっと…どう思うとは？」
社長「いや、ただ感想が聞きたくてね」
あまりにも曖昧な質問に、こちらも返答に困る。でも社長は、私とうゆが喧嘩した（正確には私の勘違いで気まずくなった）ことを知るはずがない。
背景なしで曲だけの感想を言うとしたら、切なさが強調されてしまい、発表するにはあまりにもネガティブな印象を与えてしまうと思った。今までのWellBeeのポジティブなメッセージ性とは明らかに異なる、うゆの感情がありのままに反映された曲。グループの曲としてではなく、うゆが歌うからこそ心に響くものがあると思った。
ルイ「…うゆだからこそ書けた曲だと思いました」
そう言うと、社長には変化球だったようで、「ふむ」とだけ言われた。
社長「じゃあ、あの曲を歌ってくれと言われたら歌うか？」
ルイ「…私がですか？」
社長「ルイだけじゃない、WellBee全員でだ」
ルイ「…でもあれはうゆの曲ですよ？」
社長「まだ正式リリースされてないなら、誰の持ち曲になるかはいくらでも変更できる。僕は率直なルイの意見が聞きたいだけだから」
社長の口調が少しずつアップテンポになっていく気がした。きっと求められる答えがあるのだろう。でも、ここは慎重に本音を伝える必要があると思う。
ルイ「…でも私は、うゆがどんな気持ちであの曲を書いたか、どれほど苦労したかを少しでも知ってるからこそ、単純に歌うには気が引けます」
今はうゆに負担をかけるときじゃないし、あの曲を殺すような真似はしたくない。私が少しでもうゆにかかるストレスを回避させなければならないと思った。
それでも社長は間髪入れずに尋問を続ける。
社長「じゃあ、うゆが歌ってくれと言ったら？」
私の脳内で、何かが鳴り響いた。
キャプション
「U-MELLOD」（ユーメロディ）
由来：「君（U）に向けて（-）音楽（MELLOD）を届ける」という意味を持つ5人組ボーイズグループ。
どんなコンセプトも消化するため、天才アイドル集団という異名を持つ。
ファンダム名は「U-HALMONY」（ユーハーモニー、通称ユハモニ）。
・ジュンホ：95年生まれ。長男。メインラッパー。
・シウ：98年生まれ。リードボーカル。
・ジョンソク：99年生まれ。リーダー。メインボーカル。
・ジヒョン：00年生まれ。メインダンサー。
・チャンミ：01年生まれ。サブラッパー、ビジュアル担当。愛称はローズ。
「WellBee」（ウェルビー）
由来：「音楽を通じて”自分らしい豊かな生き方”（＝ウェルビーイング）を実現する」「全てをこなすオールラウンダー集団になる（doing WELL ＋ BEcomE）」の意味が込められた5人組のガールズグループ。
現実に少しだけ幻想が混ざったような世界観を得意としており、ダイナミックなダンスと繊細かつ緩急の効いた歌声に定評がある。
ファンダム名は「WeBelieve」（ウィービリー）。
・レミ：99年生まれ。長女兼リーダー。ビジュアル担当。リードダンサー。
・うゆ：01年生まれ。WellBeeの音楽PD。リードボーカル。
・ルイ：02年生まれの01Line（早生まれ）。メインダンサー兼サブラッパー。
・カヤ：04年生まれの03Line（早生まれ）。メインラッパー。
・ヒヨ：04年生まれ。マンネ。メインボーカル。