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塩ビ管加工(塩ビ管は曲がるのか?)

現在、使用しているシェアスタジオの周辺(札幌・苗穂地区)には都市インフラ素材の下請け業者、あるいは小規模な個人経営による町工場が数多く存在する。ひょんなことから塩ビ管の町工場にお邪魔することがあり、塩ビ管加工に関してのあれこれを教えていただく機会があった。都市生活の中で普段意識することの少ない隠れたインフラ素材であるこの塩ビ管。それらは主に下水道などに使用され、都市の地下水脈を漏れなく「継ぎ」「運ぶ」役割を担っているが、塩ビ管の素材そのものの特性が語られることは少ない。話を伺う中で、塩ビ管という素材が熱などによって比較的加工が容易であることがわかった。なんでも、塩ビ管は熱によって比較的簡単に曲げられるらしい。その曲げる方法を教えていただき、実践してみることにした。

塩ビ管の町工場の様子。現在は隣に新しい工場が新設された。

方法としては、1) 川砂を塩ビ管に詰めて、両端を封じる。2) バーナーで曲げる箇所を熱する。3) ゆっくり曲げる。という単純なものだが、あえなく失敗。川砂が湿っていたためか、7-8分くらいひたすら塩ビ管を炙ってもまったく変化が見られない。途中で川砂の量を減らしたせいだろうか、その数分後、突然軟化。そうなると(側面が)均等な円の形のまま曲げることは難しく、ぐにゃりとへし折られた形となった。

塩ビ管は60度を超えると軟化していくらしい。そのためにトーチも低い温度のでゆっくり炙り必要がある。今回は試しに65mmφのものを用いたが、もっと細い口径のもので経験を積む必要があると痛感。ちなみに、塩ビ管曲げは砂を詰める方法の他、ステンレス製のベンダー(既製品、高価)、あるいは太いゴムなどを入れる方法があるらしい。また、塩ビ管溶接の方法も教えていただいたが、こちらも試してみた上で一朝一夕でできるものではないと分かった。しかしながら、塩ビ管の切断、研磨、接着は極めて容易であることがわかり、既製のジョイントパーツを組み合わせて立体作品を制作することにした。

塩ビ管にはVU管とVP管があり、VU管の厚さは薄く、下水道、通気用などに使用され、VP管は肉厚で、給水圧送などに用いられる。(上記、加熱川砂方式による曲げ作業は管が薄いと破れてしまうので、VP管を使用した。)

規制のジョイントは豊富な種類があり、この中の90度大曲エルボを二つ組み合わせてU字型を作ることにした。エルボの接続部はボコっとした凹凸があるのでそれらをひたすら丸鋸でカット。(塩ビ管カットは独自に治具を作成)インナースリーブを自作し、接着剤(エスロン)で接続。接続部の窪みを水性樹脂(ジェスモナイト)で埋めて>研磨をひたすら繰り返す。

自立
塗装

先端にフルレンジスピーカーユニットをはめ、小型アンプに接続して、音が出るようにする。音質がパイプの空洞で低くなるかと思ったが、特に変わらず。塩ビ管を使った楽器やスピーカーはすでにその専門分野があるらしい。(ブルーマンというパフォーマンス集団を工場の方から教えていただく)

インスタレーション風景

出来上がった作品は札幌の街中で行われたグループ展「パラレル・ミュージアム」に出展したインスタレーションの一部として展示した。今回の制作方法で、特にU字を正確な形に作り出すのはやや難しいと感じた。また、トータルで考えると、塩ビ管という素材は強度はあるものの、加工のバリエーションがやや限られている他、接続部の精度をあげるのが思いの他難しく、過去の(美術史の)アート作品の素材としてあまり使われてこなかった要因がなんとなく理解できた。

とはいえ、都市インフラ素材の中で、塩ビ管のような普段あまり気にも留めない材質が、作品の素材としてのポテンシャルを秘めている例はほかにもあるように思える。


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