見出し画像

会食恐怖症の話

夏休みになると、どこからともなくやってくる莫大な不安に押しつぶされそうになる。それと同時に部屋はゴミ屋敷のように汚くなり、時折吐き気に襲われるようになる。

中学3年の夏。元来陽気で、大体のことは何とかなる精神で生きていたはずの私は、突如として正体不明の吐き気に襲われるようになった。迫り来る短期留学と高校受験に不安を感じていたのだろう。気持ちはずっと前向きだったはずなのに、身体は正直だった。

それからだった。夏休み明けの登校初日。学校までは徒歩5分ほどだが、この日は30分ほどかかってしまった。電信柱があるたびに、寄りかかってえずいていた。気持ちは元気なはずなのに、身体が拒絶していた。途中で引き返して家に帰ったが、たまたま母親が朝から家を出ていたため帰ることができなかった。もしそこで帰っていたら、私はそれ以降学校に行けなかったのではないかと思う。ある意味良かったのかもしれない。

無事高校に入学し、ある程度落ち着いて過ごしていた私に彼女ができた。会うたびに緊張してしまう私の身体はその彼女と会うことを毎回「一大イベント」と判断したのだろうか、デート前は必ずと言っていいほど吐き気を催していた。

ある時彼女と彼女の父親と回転寿司に行った。自分で寿司を取ったくせに、それを見ると異常に早くなる鼓動。冷や汗。結局寿司は一貫も喉を通らず、ただひたすらトイレでえずいていた。彼女の父親とご飯を食べるというイレギュラーな状況に耐えられなかった。トイレでうずくまるメシも食えねえ男が、ただただ情けなかった。

そこから他人との食事そのものに怖さを感じるようになった。

高校時代ラグビー部に所属していた私はとにかく顧問に食べさせられていた。というより、食べて体重を増やさないと皆についていけなかった。入学当初53キロほどだった体重は高校3年生で70キロに達していた。その食べさせられるトラウマと、回転寿司でえずいたトラウマで、私は誰かとご飯を食べることが出来なくなってしまったのだ。

大学に入ってからというもの、食事へのトラウマは徐々になくなっていった。毎日のように飲み会に参加するくらいには完治していた。いや完治しすぎやろ。

もはやトラウマなんて忘れて過ごしていたひと月ほど前、二郎系ラーメンを食べに行った時、それは再発してしまったのだ。目の前に特大の二郎系が置かれた瞬間、食べきれないかもしれないという急激な不安を感じて、一口目でトイレに駆け込んだ。息が荒くなって、手をどこに置いたらいいのかもわからなくなって、今すぐ店から逃げようと思った。目の前の山盛りの二郎系が、どんなものよりも怖かった。ただひたすら、高校時代に食べたご飯の量を思い出しながら流し込んだ。食べたというより飲んでいた。涙が出そうだったけど、しっかり完食した。

大学3年のこの夏休み中も、友達と行く旅行やサークルの合宿などのイベントの前日になると吐き気や喉の異物感を感じることは変わらなかった。自分のこの部分はこれからずっと付き合っていくものなのだろう。

なんやかんやで、明日から大学が始まる。その重圧からかはわからないが、朝から吐き気が止まらない。結局1日寝込んでしまった。それでいいんだよ、大丈夫だよと安心させてくれる母。21歳にもなって、結構メンタル弱いよなあ〜、と感じて余計苦しくなってしまう私。学校が始まった瞬間この吐き気は落ち着くはずなのに、やっぱり少し怖いのかもしれない。


いやまあ全然元気だけどね!!@各位

いいなと思ったら応援しよう!