ひとり旅 ふわっと京都編
このご時世なので、そもそも旅に出ること自体、若干後ろめたくもあった。定年退職後、長い旅にふらっと出てみたいという希望を自制していた。
だが、思いがけず次の仕事に就くことが決まって、このタイミングで、ちょっとだけ一人旅してみた。行き先は、京都。ふわっとした出会いを書き留めたい。
今日初めて出したメニューなんですよ
宿泊したのは、ザ・ゲートホテル京都高瀬川。100年の歴史を刻む、立誠小学校の跡地の一部を保全、再生して建てられたホテル。京都河原町、市の中心街にあり、どこに行くのも便利そうなのと、京都の歴史を再生という形で現わしているのが素敵だと思った。
ホテルのレストランで試してみた京都の地酒飲み比べ利き酒。「夢水」「銀シャリ」「伊根満開」の三種。このなかでは、大吟醸の夢水は、すっきりとした日本酒らしい味わい、銀シャリはササニシキから作られたお酒で甘みがあって微炭酸、伊根満開の赤ワインのような色味といい今まで味わったことのない感じ。このそれぞれにおつまみを合わせてくれている。
最後に、説明をしてくれたレストランの方が、「実は、このメニュー今日初めて出させていただいたんです。いかがでしたか?」と話しかけてくれた。そうだったんだ。3月中旬だったので、少し早めの春プランを最初に味わえたんだ。「みんなで考えて選んだんです」という話を聞きながら、チームの温かさを感じることができた時間になった。
目を見ながら一周すると動いて見えますよ
よくテレビで見かける嵐山・渡月橋。それは長蛇の人の列が橋の上を連なっている光景だったが、やはり人出は少なく、楽々と歩ける。これでいいのだろうけれど、京都の名所がこういうことになっているのは、観光地としてやはり大変なことだと実感する。
嵯峨嵐山に建つ世界遺産にもなっている天龍寺で、雲龍図を観覧する。法堂天井に平成9年(1997)天龍寺開山夢窓国師650年遠諱記念事業として日本画家加山又造画伯(1927~2004)により「雲龍図」が描かれた、とあった。
人も少ないので、何度も行ったり来たりして雲龍図に見入っていたが、その場で案内をしている人に聞いてみると、天井(縦10.6m 横12.6m)に厚さ3cmの檜板が吊りさげられているらしい。そして、「目を見ながら一周すると動いて見えますよ」と。そもそも、龍の目に引き寄せられる感じがすごい。
京都はええなぁ
ホテルからも近い鴨川沿いを歩こうというのが、今回の旅の一つの目的。ずーっと川沿いの道が整備されているので心地よく歩ける。犬の散歩、ゲートボール、フットサル、ジョギング、写真撮りながら散策、そういえば笛を吹いてる人もいた(京都のドラマであったな、そういう画)・・・いろんな過ごし方をしている。
昨日は嵐電、今日は叡電。これも楽しみの一つ。帰り道、東山の近くに京都市京セラ美術館があるので行ってみることに。今回、割と偶然のなりゆきや予想外の発見で、観光をしている感じがする。行き当たりばったりともいうが、とても幸せな気分。セレンディピティってこういう感じかな。
京セラ美術館を眺めてたら、通りがかりの高齢女性に「やっぱり京都はええなぁ」と声をかけられる。瞬間、戸惑ったものの「そうですね。いい季節ですしね」と話を続けると、恐らく近畿圏の観光の方みたいで、美術館ということを知らなかったという話でたわいないお話をする。なんかわからないけど、京都はええなぁ、って行くと思う。
あら、いいのがありましたなぁ
哲学の道。バスで銀閣寺まで行って、下ってくる。修学旅行生にも行き交う。昨年は完全中止だったようなので、少しは活気が感じられるのかな。
途中にある、満沙窯という工房でろくろ体験をしてみる。以前から陶芸はやってみたかったこと。ほんのさわりのような体験ではあったけど。土の冷たさに触れられた。窯の人によると、やはり外人観光客が全くいないのが、大変なことと。そうか、この体験も主として外人さん向けなのか。だとしたらわかる気がする。
哲学の道の最終地点にあった大豊神社。こまねずみが祀られているというのに惹かれて入ってみる。社務所で御朱印帳を見ていたら、一目でいいなと思えるのがあっていただくことに。「あら、いいのがありましたなぁ」と受付してくれた女性がしみじみと眺めてひと言。共感してもらえたようで嬉しい。八坂タクシーの運転手さんが、観光案内について宮司さんとお話されていて、ここは穴場なんだなぁというのがわかる。ちょっと得した気分。
「10時半までに行く」
京都に暮らす息子がいる。案内してもらえばいいのだが、母は遠慮する。学生である彼は、今年は就活もあり、バイトもあり、なかなか大変そう。初日にご飯食べさせたので、目的は達した。息子との距離感も大事。
必要な書類を頼んでいたのだが、忘却の彼方にあった彼が対応してくれたのが、最終日の朝。10時半の約束を守って早めに持ってきた。亀屋良長の一陽来福のおせんべいを、「気をつけて」と渡す。
まだまだ大人のつきあいにはなれそうもないが、親としては信じるしかないよね。そんなことも改めて感じた京都旅。