日記38
久しぶりにK先生と会った。K先生は僕の6歳くらい年上の、英語の教員だ。去年まで同じ職場で仕事していたのだけど、昨年度末の人事異動で、他の高校へ転勤された。
K先生とは不思議とウマがあった。僕はタバコを吸いに行くときには、必ずK先生の研究室を訪ねた。K先生は僕の顔を見るなり「行くぅ!?」と少し大きめの声で大きい目をドングリみたいにニコニコしていた。僕は決まって「行きましょう」と言う。そんなやり取りが職場でできなくなって、正直さみしい思いはあるのだけど、別に遥か彼方に転勤したわけじゃないから、『送元二使安西』のように「西のかた陽関を出づれば 故人無からん」ほどの心情でもない。そんなわけで、K先生とはたまに食事へ行く。
K先生はおしゃれだ。毎日違う服を着ている。毎日同じ黒か青の服しか着ない僕とは対称的だった。でもきっとそれがよかったんだと思う。「同族嫌悪」という言葉がある以上、「異族愛好」があっても驚けない。
3ヶ月ぶりに会ったK先生は少し変わっていた。たった3ヶ月!水は容器によって自在に形を変える。人間はほとんどが水で構成されているらしい(僕は信じていないが一般的にはそう言われている)だから、外部の環境(=入れ物)によって自在に変わっていく。それは当人の意思――変わりたいか、変わりたくないか――に関係なく、否応なしに変化する。K先生は職場が変わって、入れ物が変わった。少し真面目になった感じがした。2時間ほど話し込んで、僕の知っているK先生に戻ってきた感じがあった。この2時間は僕が入れ物になったのかもしれない。またいつもみたいにふざけていた。