異世界転生UIUXデザイナー・後編〜【視伝研】架空の世界のUIをデザインする
前編はこちら↓
https://note.com/uxakachan/n/nfe597c47bb0b
-この記事は、株式会社ゆめみ内で発足した「視覚伝達情報設計研究室(通称:視伝研)」のテーマ「架空の世界のUIをデザインする」に基づき、「異世界でもHCD(人間中心設計)って使えるの?」をテーマに制作したものです。HCDが何かわからない方は株式会社コンセントさまのこちらの記事がおすすめ-
「実は、冒険者のみなさんのために、新しい地図をデザインしてきたんです!」
「新しい地図?????」
「まず、これが今までみなさんが使っていた魔法の地図ですね」
「そして、私が作った新しい地図は……これです!」
ドン!!!!!
「本やん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「表紙は独特ですけど、魔導書みたいなアイテムですね」
「今までは、目的地ごとに地図を買っていたでしょう?この本には世界中の地図が一冊に収まっています」
「でも、持ち運びが便利なのはあくまで副産物です。この地図のポイントは、みなさんへの調査のおかげで生まれたアイディアなんです」
異世界デザイン
「なんか真っ黒な部分ばっかりやな、この地図…」
「もしかして、この黒い部分って」
「そう、黒い部分はまだ誰も行ったことのない場所なんです!」
「どこか目的地を触ってみてください」
「おお、なんか情報が出た」
「あ!この間やっつけた巨大モンスターの情報が載ってる!」
「俺が見つけた隠しダンジョンも!」
「モンスターの名前やパーティの名前に触れると、さらに詳しい情報も見られますよ」
「これは、冒険者が広げていく地図であり、冒険者の強さが世界に伝わる地図なんです」
「みなさんの冒険の成果が世界中で活用され、世界中がみなさんの功績を知ることになります」
「今日は試しにこの地図を使って冒険に出てみませんか?」
試しに使ってみよう!
「そういえば、ちょうど今日もこの間と同じエリアに依頼が来てたんやった」
「地図を見ると、北の方に黒いエリアが広がってるなあ…ここに行ったら新しいものがたくさんあるんやろな」
「全く開拓されていないエリアに挑むのはリスクが高いですけど…」
「依頼の目的地までの道のりは簡単でしたし、少し難しいエリアに寄り道して探索する余裕はあると思いますよ」
「ただ、北に行くと宿屋からは遠そうです。何往復もするのは大変かも」
「宿屋に一回戻ったら新エリアの探索は打ち切って、依頼に専念するのはどうですか?」
「よし、そうしましょう!」
「依頼ルートと探索ルートを事前にすり合わせて、新しいことに挑みつつも無理のない計画を立てられるってわけやな」
「よっしゃー、さっそく未開のエリアに着いたで!」
「ここからは歩くだけで新発見ですね!地形のデータだけでもそれなりに売れますよ!」
「え?『売れる』???」
「実はこの地図は、前回みなさんから聞いた、地図屋をやっている魔法使いさんと共同で作ったんです!みなさんが通った地形などの情報は、魔法の力でその本にローカル保存(?)されます」
「そのデータを地図屋に売ることで、冒険者は収入を得つつ功績を宣伝し、地図屋は危険をおかすことなく最新の情報を商品化できる仕組みになっているんです」
「それと・・・・」
「あっ、見たこともない強そうなモンスターが!オラッ!オラッ!」
「なんとか2撃で倒すことができました!」
「情報を得るのに危険が伴うものほど、より高く売れます。強いモンスターを討伐するための情報などですね」
「もちろん情報提供者の名前も載るので、このエリアに行きたい依頼人から声がかかりやすくなる宣伝効果も期待できます」
「なるほどなあ」
「難しいチャレンジをしてきた時は、そのぶん高い報酬が得られて宣伝にもなる」
「依頼の合間に危険度の低い探索をしたい時にも、ちょっとした発見を持ち帰るだけで成果として認められる」
「パーティの状況や考え方によって落とし所を決めて、無理なく冒険にチャレンジできるってわけやな」
「おっと、そろそろみんな疲れてきてるっぽいな」
「宿屋に戻るかあ…新しいエリアは楽しかったから残念やなあ」
「実は、宿屋でもやることがありますよ!」
「わざわざ地図屋さんの事務所まで情報を売りに行くのは大変でしょ?宿屋でデータが売却できるよう、端末…じゃなくてマジックアイテムを置いてもらいました!」
〜 宿屋 〜
「さっそく仕入れたデータを地図屋さんに送りましょう」
「わ、さっき倒したモンスター、私が初めて見つけたんだ!嬉しいな」
「すごい、俺が見つけた隠し通路もぜんぶ地図に載るんだ。今まではちょっとラッキーな思いをするくらいで、世間は誰も評価してくれなかったのに…!」
「勇者や戦士なんかの体力のあるメンバーは、非力なメンバーに気を遣いながら撤退しないといけないから、少し申し訳なかったんですけど」
「これなら、撤退するたびに嬉しい気持ちになれますね」
「あれ、これは…?」
「うそ!?俺が見つけた隠しダンジョンのボスモンスターを、他のパーティが倒しちゃってる!?」
「マジかよ!この間見つけた時にそのまま挑戦すればよかった!」
「許せねえ…!!!ダンさん、もう1度さっきのエリアに行きましょう!!北エリアは僕たちが最初に踏破してみせます!」
「お、おう」
「(なるほど、功績が可視化されるってことは、他のパーティとの競争も生まれるってことなんやな)」
「(盗賊のヒロトくんは非力やし、魔法使いのゾノくんはMPの残りに気を遣わないといけないし、いつもは遠くに行くの嫌がるんやけど…)」
「みんなの探索するモチベーションが強まるのは嬉しいなあ」
「みんながやる気出してくれて嬉しいけど、今日は依頼を先にやりましょうね。また西に巨大モンスターが出たらしいから討伐するで」
「あ、何か大きいのが出た!あれが依頼の巨大モンスターやな」
「オラッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「今日もワンパンかあ…」
「まあ、この実績も宣伝になると思えばええか。さくっと依頼主に報告して、巨大モンスターの情報も地図屋に送ってみましょう!」
〜 宿屋 〜
「おお〜、巨大モンスターの討伐情報を送ったら、何かチーム名のとなりの丸いのが金色になった!」
「貢献度に応じてランク付けされるんです!強いパーティは誰が見ても一目でわかるようにしました」
「ちなみに、実績は魔法で報告するから情報の詐称はできないし、いちいち証明がわりにモンスターの一部を持って帰る必要もなくなりますよ」
「すご〜〜〜〜〜〜い!!!」
「たくさん冒険すればそのぶん有名になれそう!」
「これなら無理してレベルの低い依頼を受けなくても、実績作りのために探索に専念するのもありですね」
「地図からこんなに多くのことが解決する仕組みが生まれると思いませんでした」
「一体どうやって考えたんですか?」
「それはですね・・・・・・・・」
異世界ユーザーモデリング
遡ること数日前。
ユーザー調査分析(前編参照)を終えたアンジェリカは、次のプロセスとしてユーザーモデリングを行おうとしていた。
「ここで作るのはいわゆるペルソナね」
「ユーザー調査分析の結果をそのまま見ても、パッと見わかりにくい。ペルソナ化しておくと『この人に響くものを作る』って目的が理解しやすいのよね」
今回は調査データが少ないから完璧なものは難しそうだけど、UXデザイン連続セミナー2022で習ったテクニックを取り入れながら作ってみよう!
・ ペルソナ
調査で実際に聞いた発言をベースに、ペルソナの人格を端的に表す一言を選んでセリフ化している。このペルソナから実際に話を聞いたような気持ちで読めるようになる。また、意思決定のプロセスを明確にするためにあえて嫌いなものを書いたり、矛盾や葛藤を含むストーリーを書くのもポイント。
「ちなみに、ペルソナについて詳しくはアラン・クーパーさんの『About Face 3』を読めと言われたけど、プレミア価格がやばくて買えなかった…」
「元の世界に帰ったら勉強し放題制度で申請しようかな…」
異世界ユーザー体験構想
ペルソナが明確になったら、次はペルソナにとっての理想のストーリーを考えていく。カスタマージャーニーマップは丁寧なぶん時間がかかる手法だけど、今回はユーザー調査の結果がもともと時系列順に並んでたから楽ちん!
・ カスタマージャーニーマップ(AS-IS)
行動と感情を時系列順に書いていく。
また、今回はそもそも何をデザインするか検討する必要があったため、道具も記載。冒険の意思決定によく使われていたし、地図をデザインすることに決めた!
あとは、行動ごとのペインとゲインを書いていって…
「これをもとに、現状の体験に対して起こすべき変化の構想を練る。つまり、アイディア出しをしていくよ」
・ How Might We
まず、ジャーニーマップをもとに、今回解決する課題を定義。
その課題の解決法を、『How Might We(我々はどうすれば〜できるか)』の問いに答える形で考えていく。
「ここで具体的な機能のアイディアが出ればいいけど、ちょっと抽象的かな…具体的な機能に掘り下げていこう」
UXコンセプトツリーの項目を参考にしつつ、下にいくほど機能が具体的になるように検討内容を狭めてみた。また、上から2〜3段目が出てきた段階で、製品のUXコンセプトも以下の通りに定義した。
「もう少しで完成!理想の体験をまとめながら、作るべきインターフェースの要件を出していくよ」
・ カスタマージャーニーマップ(TO-BE)
これが理想のユーザー体験だ!
ドン!
AS-ISのジャーニーマップと同じように、行動と感情を時系列にしていく。
そして、さっきはなかった『タスク(= 製品を用いた行動)』の欄を追加し、時系列で書き出す。このタスクの項目、インターフェースを作る必要のある機能として、そのままUIづくりの土台に使えるのだ!
「これは先輩に教えてもらった手法!UXデザインとUIデザインが地続きになってて作りやすいんだ〜」
「ジャーニーを作る人とUIデザインをする人が分かれてるときなんかは特によさそうね。今回は私1人で作るんだけど」
「よし、これを見ながら画面を作っていくぞ〜!」
「……という、数々のプロセスを経て作られているのです」
「これがデザインの力です!」
「へえ〜〜、すごいなあ」
「思いつきのアイディアじゃなく、ちゃんと調査した結果を分析して設計してるから、ユーザーにとって嬉しい製品になってるんやなあ」
「でも、ちょっと思ったんやけど」
「この地図、いちいち宿屋で探索報告せんでも、リアルタイムで更新されていってほしいなあ」
「・・・・・・・・・えっ???」
エピローグ 〜 そして改善へ…
「いや、撤退の体験をポジティブにって意図はわかるんやけど」
「隠しダンジョンとか、先に発見したパーティじゃなくて、先に報告したパーティの名前が載っちゃうんやろ??さっさと撤退したもん勝ちになりそうやん」
「あと気になったんですけど、ペルソナの人格がダンさんに寄りすぎていますよね。多くの冒険者から共感を得る製品にするためには、少なくともあと2〜3人に調査をして複合的な情報からペルソナを作るべきです」
「利用者が増えると、地図屋さんが情報を査定する業務が追いつかなくなる可能性があると思いました。利用者だけでなくサービス提供者の動きもジャーニーマップ内で検討しておいたほうがよいのでは?」
「『完全攻略本』というネーミングも気になります。この題名では、最初から完璧に出来上がっている地図を想像してしまいます。使用者が期待するものと実際の内容の剥離が大きすぎます」
「このまま情報量が増えていくと、今の縮尺では情報が閲覧しきれなくなるのではないかと思いました。任意で拡大縮小が可能になっているとより使いやすいと思うんですよね」
「それに…」
「あの機能ももっと…」
「あれもこれも…」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ま、まあ、これは第1弾なので…」
「今後のアップデートにご期待ください………」
「…っていうか、みなさん、もしかしてデザインやったことあります?」
「ないですよ。でも、なぜかスラスラ改善点が思いつきました。デザインって楽しいですね」
「不思議と、冒険者の仕事よりしっくりくる気がします!」
「よし!冒険者パーティは解散や!」
「今日から僕らはデザインチーム・シデンケンとして活動するで!!!」
「やったー!俺本当は宝箱の鍵開けよりタイポグラフィのほうが得意なんすよ」
「地図の改善もいいですけど、僕たちのブランドロゴを入れた新しい商品なんかもどんどん考えましょう!」
「アンジェリカさんも一緒にやりませんか?」
「え、いいんですか!?これで異世界でも生きていける目処が立ったぞ!やったあ!!」
「「「「「「俺たちのデザインはこれからだ!!」」」」」」
「…さん」
「……山下さん」
「ハッ!!!!!!!ここは・・・・」
アンジェリカが気がつくと、フルリモし放題制度でいい感じの作業部屋に改造したいつもの自室でZOOM会議を繋いでいた。
さっきまで異世界にいたはずでは……あれは夢だったのか?
「大丈夫?会議中にいきなり気絶したけど、具合悪かったら無理しないようにね」
「大丈夫です!すみません!!」
「(なんて親切な職場なんだ…それに、異世界もいいけど、やっぱりフルリモートで働けるのが一番だわ……!)」
「ところで、視伝研の記事の進捗はどうなってますか」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あと1週間待ってもらえますか?」