ロボットと暮らす世界を、ユカイなチームでつくる | ユカイ工学 CEO 青木 俊介 インタビュー
みなさんこんにちは。デザイナーの はらだ です。
コミュニケーションロボット「BOCCO emo」やしっぽのついたクッション型セラピーロボット「Qoobo」、やみつき体感ロボット「甘噛みハムハム」など、これまでにないロボットを生み出してきたユカイ工学。
今回は「ロボティクスで、世界をユカイに。」を掲げ、ロボティクスベンチャーとして最先端を走ってきたCEO青木さんにお話を聞きました。
愛知万博で見つけたロボットの可能性
—— なぜユカイ工学を創業しようと思ったのですか?
青木
僕はもともと学生時代にクラスの仲間とチームラボを創業して、ソフトウェアの開発をしていました。
そこでCTOの鷺坂さんと出会ったのですが、大企業でなくてもロボットが作れるかもしれない、と自分たちが作りたいロボットについてよく話していたんです。
当時、ソフトウェアの世界ではオープンソースがようやく主流になりはじめていて、mixiやGREEなど新しいサービスがどんどん登場していました。一方、ハードウェアもマイコンボードのArduinoが登場してオープンソースが広まりはじめたタイミングでした。
そんな中で衝撃を受けたのが、2005年に開催された愛知万博。
そこで複数のスタートアップやベンチャー企業がロボットを展示しているのを目の当たりにして「あ、これ僕たちにもできるんじゃない?」って思ったんですよね。それからユカイ工学の創業に踏み切りました。
目指すのは「便利じゃない」ロボット
—— 「ロボティクスで、世界をユカイに。」というビジョンはユカイ工学を創業された当初から掲げられていたものですか?
青木
そうですね。
最初から海外でも喜ばれるプロダクトを作っていきたいと考えていたし、ロボットって実は便利ではなく、ユカイなものにニーズがあると思っていたので、創業当初からこのビジョンを掲げてきました。
実際、便利なロボットって難しいだろうと思っていて。
例えば、一枚一枚割らないようにお皿を洗うロボットを作ろうとしても技術的に難しかったり、効率的じゃなかったりする。なんなら食洗機のように手軽に生活に取り入れられる家電はすでにありますから。
ロボットが喜ばれるのはそこじゃないだろうと。
—— 最初から「便利」に焦点を当てていなかったんですね。
青木
そうですね。
ビジネス的な視点でも、「便利なロボット」は意識していませんでした。
例えば、MicrosoftはExcelやWordを作ってオフィスを便利にしましたが、任天堂やソニー・コンピュータエンタテインメントなどはゲームで世界のプラットフォームをつくることができました。
オフィス路線で世界を獲るのは難しいけれど、ユーザーを楽しませるものなら日本ではじめたスタートアップでもチャンスがあるだろうと。
実際に、僕たちが生み出してきたロボットたちが一般的に想像されるロボットと印象が違うとよく言われるのも、目指す場所が異なる結果だと思っています。
ロボットと暮らす世界を現実にする
—— 創業当時から、ロボットと暮らす世界を思い描かれていたんですか?
青木
僕がユカイ工学を創業した当時は、ロボットと暮らす世界ってアニメなどでしか描かれていない完全な夢物語で、誰もロボットにビジネスチャンスを感じていなかったんです。でも、僕は15年以内にはロボットが必要とされるだろうと考えていました。
そんな中で、流れを大きく変えたのが2014年に登場した人型ロボットのPepperの存在でした。金融機関や証券会社などもロボットを使って新しいビジネスを作らなきゃと、世の中のマインドセットがガラリと変わったのを肌で感じましたね。
その追い風を受けて、仕事もメンバーも増やすことができたので、2014年にはBOCCOを作ることができました。
かわいいロボットの原点
—— いつから「かわいいロボット」を作りたいと思いはじめたのですか?
青木
ユカイ工学を創業する前から鷺坂さんとよく話していましたね。
話していくと二人ともジブリとか可愛いものが好きなことがわかって、一緒に暮らすならどんなロボットがいいだろうって手探りでいろいろ作りました。その中で印象に残ってるのは「目玉おやじロボット」と「ココナッチ」です。
ここにたどり着くまでに、いろんな試行錯誤をしたのですが、まず自分たちはウィーンウィーンと歩くロボットが別に欲しいわけじゃないんだよな、って考えたりして。
そんなアンチテーゼからはじまって、じゃあどんな世界が良いだろうって探していくと、ジブリやディズニーの世界にたどり着くんですよ。
例えば、「美女と野獣」に登場するキャラクターって、自分たちにかけられた魔法を解くために、なんとか主人公たちの恋が実るよう手を尽くすじゃないですか。そういう世界観が良いなって思ったんですよね。
「トトロ」の世界観も同じで、メイちゃんが迷子になってしまった時にトトロやネコバスが助けてくれたり。
それに、彼らって何でも一人でできる完璧な存在じゃなくて、ちょっと失敗もしたりするじゃないですか。ロボットも同じように、完全・完璧な存在よりもちょっと抜けている方がいいんじゃないかなって思うんですよね。
尖ったクリエイティブを生み出す場づくり
—— ユカイ工学に集まるメンバーは自然と世界観を共有したものづくりができていると感じます。何か促進活動をされているのでしょうか?
青木
そうですね。ユカイ工学には直感的に世界観を理解して共有してくれている人が多いと感じます。僕たちの作ってきたプロダクトを知ってくれているからこそできていることだと思うので、ありがたいですね。
どちらかと言うと、僕たちがビジョンを布教するというより、ビジョンを広げてくれる妄想をしてくれている人が、どんどん入ってくれていると感じることが多いです。
部活動制度やQooboファンミーティングもメンバーが自主的に生み出してくれたものでした。あとは最近はあまりできていないけれど、会社内でみんなで鍋を囲んだりね。
—— たしかに。私が3年前に入社した当時「社内で鍋会って何?大学の研究室みたい!」と衝撃を受けました。
青木
やっぱり最初は驚くよね!
一見遊んでいるようだけど、これもどこまでクリエイティブな組織を作ることができるかってある種のチャレンジでもあるんです。
だって、ただ高いお金を払って美味しいものを食べるより、自分たちで手を動かして良い時間をつくりだす方がクリエイティブじゃないですか。
やっぱり人に影響されたり刺激されてものづくりをすることが多いと思うので、才能のある人たちが気軽に交流できるような会社を目指していて。
ユカイ工学では妄想を実現するために熱量を持って試行錯誤できるかが鍵になる。だからこそ、採用の際には技術力だけでなく妄想力のある尖ったクリエイティビティを持っているかをよく見ています。
良いプロダクトが良いチームを作る
青木
僕はこれをやりたい、作りたい!って熱量を大事にしたいので、職種に関係なくチャレンジできる場を提供したいと思っていて。毎年メイカソン*をやっているのもその一環です。
よく「良いチームが良いプロダクトを作る」って聞くけど、僕は違うと思うんです。
これはユカイ工学を創業する前、pixivでCTOを務めていた時の体験からの考えなのですが、プロダクトは尖った妄想から生まれて「良いプロダクトが良いチームを作る」のだと思っています。
社員の中からいろんなアイデアとか製品が生まれてくる組織ってそうないじゃないですか。いろんな妄想が形になって、世間からもすごい注目されるみたいな。でもユカイ工学にはそれがある。それは本当にすごいなって思っています。
それに、そのままビジネス的にも成功できたら最強だと思うので、僕たちは挑戦をやめないんです。
ロボット作りは映画制作と似ている
—— ユカイ工学のプロダクトに魅力を感じて入社したメンバーも多いですよね。
青木
嬉しいことに、プロダクトのファンです!って入社を決めてくれたメンバーもいますね。創業して10年以上経ちましたが、僕が想像もしていなかった人たちがどんどん活躍して、ユカイ工学のカルチャーを築いてくれています。
だからこそ、愛されるプロダクトを生み続けるには妄想力と熱量があるメンバーが大切だと切に感じますね。
そうそう、僕の好きなエピソードにナウシカがあって。
宮崎駿監督がナウシカの映画を制作する話が出たとき、絶対に失敗できない状況だったんですよ。尺も納期もきっちり納めないと二度と映画が作れない、みたいな厳しい状況だった。
だから、最初の絵コンテでは巨神兵と王蟲が肉弾戦を繰り広げるシーンとかがいっぱいあったけど、途中で間に合わないとわかるとバサバサとシーンをカットしていったんです。
—— たしかに!会社に置いてある原作を読んで驚いた記憶があります。
青木
やりたかったこともバサバサ切った結果、ジブリ発展のきっかけになるエンターテイメントの作品を生み出したわけですが、クリエイターって結構そういうものじゃないですか。制約の中でいかに自分の色に染めていくか、そのせめぎ合いだと思うんですよね。
ロボットを作らせてもらえるっていうのは、映画制作と近いなあって僕は思っていて。スポンサーやお客さんとの関係だったり、制作する中での予算やスタッフとの関係だったり。あらゆる制約の中で作品を作り続け、世界に届けられるか。
なので、ユカイ工学も大御所になったらいくらでも大コケできるかもしれませんが…まだ駆け出しなので。宮崎駿監督の精神を胸に刻みながらこれからも進んでいこうと思っています。
—— ありがとうございました!今後のユカイな取り組みも楽しみにしています!
編集後記:許容する決断力
私がユカイ工学に入社して3年が経ちました。
青木さんとはこれまで何度もお話をさせていただきました。
そんな中でも強く印象に残っているのが、入社から1週間と経たないタイミングで「noteをはじめたいのですが」と相談し、即OKをもらったこと。
当時本当に驚いたんです。
「そんな…入社して間もない私の意見を…採用してくれるのか…?!」と。
もちろん相談した際に、なぜnoteをはじめたいかをプレゼンしました。
ただ、これまでの経験から「それお金になるの?」とか「効果は?」と一蹴されるかと思っていたんです。
しかしそんなことは一切なく、noteをはじめることができました。
そして、これまで続けてくることができました。
一度としてnoteを止めよと言われたことはありません。
「まずやってみなよ」と許容することって難しいと思うんです。それでも、今回お話を伺ってそれが青木さんの挑戦であり、ものづくりに対する姿勢なのだと強く感じました。
人が持つ妄想と熱量に投資してみる。
その決断を後悔させないよう、私はエネルギーを使いたいと思います。