ロボティクスに浸かる | ユカイ工学ソフトウェアエンジニア 伊藤 慶太 インタビュー
みなさんこんにちは。デザイナーの はらだ です。
先日、BOCCO emoの音声認識ソフトウェア変更を行い、音声認識が改善されました。
今回はそんなBOCCO emoのソフトウェア開発を担当している、エンジニアの伊藤さんに話を聞きました。
部活で電子工作と出会う
—— ものづくりに興味を持ったきっかけは?
伊藤
小学生の頃から理科が一番好きな科目だったんです。当時通っていた塾の先生が面白い人で、どんどんハマっていったのも手伝って、進路はすぐ理系を選択しました。
中高一貫校に入学後、部活も理系のところがよくて「物理部」に入部しました。他にも「PC・プログラミング部」などの部活はあったのですが、当時はまだPCを触ったことがなかったので、敷居が高いと感じたのを覚えています。
物理部では、電子工作を体験したり、先輩が作ったゲームで遊んだりしていました。部活も中高一貫なので、部員は20〜30人くらいで、みんな結構自由に活動していましたね。
入部時、プログラミング部門と、電子工作部門どちらか選択するのですが、僕は電子工作を選択しました。
ただ、一応メンターのような先輩はいたものの、部内に詳しい人がほとんどいない状態で。なので、まずは簡単なスイッチを押すとLEDが光る回路を半田付けしてみるところからはじめて、徐々にステップアップしていきました。
かなり手探りだったので、苦戦した部分もありました。部室にあった作例集から作りたいものを決めて秋葉原に買い出しに行ったけど、本の内容が古くて電子部品が廃番になっていたとか。当時はまだ、工作に使える安くて小型のコンピュータであるマイコンボードのArduinoなどが活用される前だったので、今思うと電子工作のハードルが高かったですね。
ものづくりにハマった原体験
—— 物理部で一番印象に残っている体験は何ですか?
伊藤
高校1年の文化祭ですね。
文化祭では入場時にチケットを4枚もらえるんですけど、それが投票券になっていて面白い企画に投票できるんです。
部活も企画に出せるので、毎年理系の部活もエントリーするんですけど、毎年化学部が1位なんですよ。なので物理部は「打倒化学部!」って気合を入れて。どうしようかアイデアを出し合っている時に「もういっそ投票箱を作っちゃえばいいんじゃない?」ってなったんです。
こんな感じの、自動販売機のように投票用紙をスッっと吸い込む投票箱とカウンターを作りました。
—— 着眼点が面白いですね!お客さんの反応はいかがでしたか?
伊藤
すごい盛況でした!
結果は2位で、1位は化学部だったので打倒化学部とはいきませんでしたが、みんな楽しんでくれて嬉しかったです。
成功体験から得た更なる興味の芽生え
—— 進路選択では迷いはありませんでしたか?
伊藤
大学進学時はそこまで迷いはありませんでした。
電子工作やロボット、それもIoTなど細々したものを作りたいと思っていたので、それができる環境を選びたくて。内部進学も選択肢にはあったのですが、学力的にも環境的にもマッチしていた東京大学に進学しました。
東大では1年次は文理関係なく全員教養学部で、2年の後期から学部が分かれるんです。学部選択は、電気系に行くか機械系に行くかで結構悩みましたね。
電子回路が好きだったので電気系を学びたいと考えていたのですが、投票箱を作った時に、ある程度ハードウェアも作れた方がいいなと感じたんです。
投票箱はモーターを木の板に貼り付けて、それをさらに外装の段ボールに貼って作ったんですけど、本格的な加工ってどうするんだろう…って興味が湧いて。結果的に、新しいことを学べる機械系を選択しました。
憧れの学生ロボコン
—— 大学時代はロボコンサークルで部長をされていたんですよね。
伊藤
そうですね。入学してすぐロボコンサークルRoboTechに入部しました。
物理部にいたときコンテスト出場に憧れていて。大学では絶対にやりたかったんですよね。
ロボットのコンテスト自体はたくさんあるのですが、中でも「NHK学生ロボコン・ABUロボコン」が一番主要なコンテストで、そこでの優勝を目指して鋭意活動しました。
サークルには、毎年50人くらい新入部員が入ってくるのですが、中には初心者もいて1年経つと部員数は半分くらいになるんです。
1年の中でロボットを作るイベントが3回あるのですが、徐々に内容のレベルが上がるので、そこで徐々に部員が減っていくんですよね。これを乗り越えた部員が「NHK学生ロボコン・ABUロボコン」にチャレンジしていきます。
僕は大学4年の6月くらいまでサークルに所属していて、部長になったのは3年の7月ごろでした。僕が部長になった代は、後輩たちも優秀で無事優勝できたので嬉しかったですね。
ものづくりの親近感
—— ユカイ工学に入社したきっかけは?
伊藤
サークルでクラウドファンディングをした際に、ユカイ工学CEOの青木さんに支援いただいたんです。それがきっかけでユカイ工学のことを色々調べたら、小学生ロボコンに協力していたりして親近感が湧いたんです。
よく「なんで新卒でベンチャー企業を選んだの?」と聞かれるのですが、就職先は電子工作とかロボットに近い領域が良くて。ロボコンサークルで3年半過ごす中で、少人数チームと大人数チームの両方を経験し、前者の方が自分は合っているなって感じていたんです。だからユカイ工学は条件が合っていました。
—— 入社前後でイメージのギャップはありませんでしたか?
伊藤
入社前にユカイ工学でインターンやアルバイトを行っていたので、社内の雰囲気もわかりましたし、ギャップはありませんでした。
入社してもうすぐ丸2年になりますが、プライベートとも両立がしやすい環境だと感じます。
少人数でやり遂げたプロジェクト
—— これまでに携わったお仕事で印象に残っているものはありますか?
伊藤
2つあって、まずはやっぱりBOCCO emoの音声認識改善ですね。
音声認識エンジン自体は、BOCCO emo開発当初から色々検討されてはいたのですが、僕がそれを引き継いで再検討をしました。
組み込みは僕一人で対応したのですが、検証時には、いろんな声質を試すために社内メンバーにも協力してもらいましたね。
今回組み込んだ音声認識エンジンは、以前と比較して目に見えて改善できたと思いますね。社内でも良い反応をたくさんもらえたので嬉しかったです。
—— 私も検証結果に驚きました!本当おつかれさまでした!
伊藤
もう1つは、1月にCES2023で発表されたfufulyですね。
僕はプロトタイプの製作に関わりました。社内のエンジニア4人で役割分担しながら開発を進めたのですが、静音性の高いモーターを探すのに苦労しました。開発自体は昨年の3月に行ったので、あっという間に1年経ったなとびっくりしますね。
クッションの見た目などはどんどん更新されていたので、ブランドサイトなどを見た時には成長具合に驚きました。
僕はソフトウェア開発を担当したのですが、改めて振り返ると、自分の書いたコードが海を渡ってラスベガスのCESに行ったんだ…!と不思議な気持ちになりました。
ハードルも楽しみながら乗り越えられる視点を
—— どんな人と一緒に働きたいと感じますか?
伊藤
ロボット開発はソフトウェアだけでなくハードウェアも欠かせないので、その視点を持っていると良いですね。
ユカイ工学は少人数なので、異なる専門性を持つメンバーがプロジェクトを兼任していることが多いんです。だから、上手くいかないことも一緒に考えて乗り越えながらものづくりができると楽しいなと思います。
それに、ユカイ工学の製品って、生きる上で絶対必要なものかと言われるとそうじゃないと思うんですよね。でもそこにあることでコミュニケーションが生まれたりするから、社会に必要なものになるんじゃないかなって。
—— たしかに。ユカイ工学は新しい価値観を提供しているからこそ、知らない分野へチャレンジする機会も多いですよね。
伊藤
そうですね。
僕の場合は、知らない分野へのチャレンジは新作ゲームをやる感覚と似ていて、不安より楽しみが勝つんです。以前、青井さんやミラーさんもインタビューで話していたけど、ユカイは新作ゲームにトライできるチャンスは多いんじゃないかなと感じます。
—— ありがとうございました!今後の活躍も楽しみにしています!
編集後記:ユカイ工学が生み出すもの
「ユカイ工学が生み出す自社製品の存在価値とは。」
インタビュー後半、伊藤さんから発せられた問いがどうにも鋭いと思ったのです。
撫でるとしっぽを振ってくれる、Qoobo。
いつでもどこでも何度でも甘噛みしてくれる、甘噛みハムハム。
人と一緒に寝落ちしちゃうライト、LIGHTONY。
ユカイ工学の妄想から生まれた自社製品たちって全然便利ではないんですよね。でも、なんだか心がくすぐられる。そんな存在。
彼らがそばにいることが日常になると、物事を便利にしてくれるロボットが溢れる世の中に、それを目指さないロボットもいて良いのではないかと思ってくるのです。
だからか、ユカイ工学には便利でないロボットに意義を見出す人が不思議と集まる気がしています。かくいう私もそのひとりです。