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文様よもやま話③麻の葉-その1 なぜ惹きつけられる?「文様界の小悪魔」問題について。
伝統文様を一つ取り上げ、あーだ、こーだと好き勝手に言ってみる
文様よもやま話。今回は、定番中の定番「麻の葉」です。
長くなりそうなので、3分割くらいでいきたいと思います・・
奈良時代にはもう登場している「麻の葉」文様ですが
どうして、そんなにも長い間、愛され続けるのか?
本日は、その秘密を美しさ、つまり見た目だけから考えてみます。
(受容のされ方と遍歴が、その2。
どうして厄除けなのか?が、その3。という予定です。)
単純。けれど、人間の目には難しい
たくさんの直線が交差する「麻の葉」は、キリッとしていて
カッコいいのですが、パッと見でどうなっているのかは
わかりにくい複雑な印象を受ける文様です。
しかし、幾何学的感覚で目を凝らすと
頂角が120°、底角が30°の二等辺三角形による平面充填(=タイリング)
だと気づく事ができます。
この二等辺三角形を、正方形に変えると市松文様になります。
そういう意味では、実はとても単純な文様です。
コンピュータなら、「市松」と「麻の葉」はごくごく近しい
親戚のようなものと判断する事でしょう。
しかし、人間の目にはそういう風には映らないのが面白いところです。
![](https://assets.st-note.com/img/1715504607140-qcoRFlTHCN.png)
均整のとれた佇まい
平面充填(タイリング)は、文様にはお馴染みの表現です。
正三角形は「鱗」、正方形は「市松」、正六角形は「亀甲」というように
1種類の正多角形タイルを用いた平面充填は全て伝統文様扱いです。
シンプルすぎる伝統文様の超ド定番、メジャー級が並んでいますね。
![](https://assets.st-note.com/img/1715504557570-KsLJaA1CIa.png?width=1200)
興味深いのはここからです。
平面充填自体は、エッシャーの絵画に見られるように、
実は制約がゆるく様々な表現が可能です。
1種類の多角形に限定した場合も、ありとあらゆる三角形、四角形、
平行六辺形の全ては平面充填が可能です。
条件を満たせば五角形やその他の多角形も可能です。
しかし、多角形の平面充填でメジャー級と言って良い文様は、
ほとんど存在しません。
(「麻の葉」の他に、「紗綾型」なども当てはまるでしょうか・・・)
何故か?と考えるため、試しに描いてみたところ、
なんとなく頼りない・・。
個人的には、四角形などはそこそこ好みではありましたが、
堂々とした風格みたいなものは感じられなくなってしまいました。
![](https://assets.st-note.com/img/1715504590656-TTumY4WkpJ.png?width=1200)
多角形の平面充填が特別な魅力を放つのは
あくまで【正多角形】の場合に限られるらしく
「市松」や「亀甲」から感じられる普遍性、説得力は
正多角形の【正】の要素が外れただけで、どうやら霧散してしまう
らしいのです。
【正】の要素、つまり対称性がもたらす安定した佇まいが
「定番」たりうるには必要なのでしょうか・・。
「麻の葉」は、正多角形ではないですが、それぞれの辺に着目すれば、
容易に対称性を見出す事が出来る文様です。
正多角形と同様の均整のとれた美しさを備えている、といえそうです。
「麻の葉」の魅力、その一は均整のとれた対称性にありと
ひとまず記しておきます。
アスタリスク(✴︎)の引力
次に注目するのは、誘目性についてです。
「麻の葉」文様をパッと見た時、
どうしても人間の目は、直線が収束する交点に引き付けられると思います。
この交点を今、アスタリスク(✴︎)と呼ぶことにします。
(このアスタリスク(✴︎)は、線対称かつ点対称ですね。)
ゲシュタルト要因というやつですが、
人間は、与えられた情報から「まとまり」を見出し
それが何であるか解釈しようと試みてしまう習性があります。
「麻の葉」の場合、二等辺三角形ではなく、
アスタリスク(✴︎)の方が「まとまり」として見出されやすいから、
「麻の葉」文様な訳です。
(昔の人が、アスタリスク(✴︎)が放射状に広がる様子を
大麻の葉に見立てたところから、現在の呼称となったと
言われています。江戸に入ってからの事ですかね。)
![](https://assets.st-note.com/img/1715781919977-zWeElaimda.png?width=1200)
モチーフが反復される事の快感がこの文様でも感じられるのですが
その基礎単位はあくまで「麻の葉」であって、
二等辺三角形は見落とされています。
「麻の葉」文様は、実は「亀甲」文様の一種とも言えますが、
これも普通は見落としてしまいます。
(「麻の葉」の「まとまり」は、正六角形にピタッと納まります。)
また、同様に「鱗」文様とも解釈できますが、やはり気づく人は稀でしょう。
それほどに、アスタリスク(✴︎)の引力は絶大で、
意識のベクトルが全集中してしまう結果、
その他の「まとまり」をほとんど見落としてしまうのです・・。
「麻の葉」の魅力、その二は
私たちの目を釘付けにするアスタリスク(✴︎)です。
小悪魔すぎるダブルミーニング
また、その「麻の葉」の「まとまり」が
多層的に立ち上がってくる点にも触れないわけにはいきません。
ある「麻の葉」の中心、アスタリスク(✴︎)は、ちょっとした拍子に
隣の「麻の葉」の一枚の葉の端点になり変わってしまいます。
ルビンの壺のような図地反転の特徴を備えている訳です。
私たちの目は、アスタリスク(✴︎)の強い引力によって「まとまり=図」を
見出そうとしますが、隣のアスタリスク(✴︎)が即時キャンセルを
仕掛けてきます(図地反転。)
![](https://assets.st-note.com/img/1715842929188-rGovoSp8ax.png?width=1200)
この強引とも言えるダブルミーニングによって、目が泳がされ
いつまでも落ち着きません。
打ち寄せる波に翻弄されつつも「どうなっているのかな」と
確かめたくなり、ますます引き付けらる・・。
この文様が長く愛される理由は
こういった小悪魔的な所にもあるのではないかと思います。
「麻の葉」の魅力、その3は小悪魔的なダブルミーニングです。
(「麻の葉」の他に、ダブルミーニングな伝統文様といえば
「七宝」になるでしょうか・・。)
まとめ
「麻の葉」文様の特徴を3つ取り上げました。
均整のとれた佇まい=「対称性」
目を釘付けにする「アスタリスク(✴︎)」
小悪魔的な「ダブルミーニング」
他の文様にない、最大の特徴は「アスタリスク(✴︎)」になるでしょうか。
(1.3.は「七宝」にも当てはまる。)
ちなみに、「麻の葉」の基礎単位である二等辺三角形を分割するように
2つの直角三角形(30°、60°、90°)による平面充填を行なってみました。
![](https://assets.st-note.com/img/1715844264617-fJcgPqApk1.png?width=1200)
いかがでしょうか・・。
線が増えた分、煩雑になり、アスタリスク(✴︎)は目を引くものの
「麻の葉」のような「まとまり」は感じなくなってしまったのではないでしょうか。
やはり伝統文様は丁度いい落とし所、
万人にとって心地良いと思われる着地点に
すでに辿り着いているのかもしれません。
幾何学的法則性と人間の認知機能の”クセ”の間に生じた魔法が
「麻の葉」文様を特別なものにしています。
これから先も、重奏的に響くこれらの特徴が
私達の感情をくすぐり続ける事でしょう・・。
以上、「麻の葉」=小悪魔問題でした・・。
今回は、ここまで。
次回は、その起源と遍歴がテーマです。